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異世界転生剣豪伝〜転生しても宮本武蔵でした〜  作者: 謎の小顔整体師
第壱章
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006 壱章 其の陸 テンプレヒーロー

 事故、故意的に、稀に魔人化してしまう者は出現する。


 ラーク達は以前にも魔人化した者との戦闘経験がある。

 食堂の新人料理人が動物と魔物を間違えて血抜きに失敗するという事故であった。

 新鮮な魔物の血を誤って口に入れてしまい魔人となった料理人の討伐依頼だ。


 この世界には普通の動物と魔物がいる。

 大きな違いは、動物は理由が無ければ人間を襲う事は無いが、魔物は理由なく人間を襲うという差がある。


 見た目が似た動物と魔物はいるが、似た姿であっても目の色や爪や牙等の差異があり、マニュアルによって区別できるようになっている。


 動物でも屠殺直前は暴れる事があるので、マニュアルにて区別を徹底するように一般的には言われているはずだ。

 杜撰な管理体制か、新人の教育不足か、新人自身が甘い考え方だったのか、事件の真実は分からないが結果は魔人が誕生するという事故となった。


 戦闘力が低い料理人と、食料となる魔物の血であったが、かなりの戦闘力の魔人となった。

 今回のA級ライセンスの冒険者が魔人化するという話しは聞いた事はなく、オーガジェネラルという凶悪な魔物の血での魔人化も初めて聞く話。


 最強魔人と呼んでもおかしくない魔人の誕生である。

 真っ先に魔人の前に立ちはだかったのはケントであった。


「グオオォッ!!」


 魔人は右手を振り上げると同時にケントに殴りかかった。

 ケントはそれを盾で受ける。


 バキィ!!


 鈍い音が響き渡る。


「うおおぉっ!?」


 あまりの力の強さに吹き飛ばされそうになったが、何とか堪えた。


「すげぇぞ!あいつ」

「あの魔人の攻撃を耐えたぜ」


 周りの冒険者達は歓声を上げている。


「C級以下のやつらは避難しろ!死ぬぞっ!」


 ラークの声に野次馬達は一目散に逃げていった。


「ウゴオォァッ!!!」


 魔人はさらに攻撃を加える。

 今度は左手で殴ってきた。

 それをまた盾で受けたが、先程の一撃よりも威力は弱い。


「ケント!大丈夫?」

「えぇ、まだいけます」

「ケント、ヘイトを稼いでくれ。マルボは隙を見てデカいの頼む」

「教会壊れちゃうよ」

「んな事考えてる場合じゃないの分かってるだろ。出来る範囲でやれよ!」


 マルボは杖を構え魔法を放つ準備をする。


「分かったよ」


 魔人が右拳で攻撃してきた瞬間、ケントは盾で防ぎつつ右手の戦斧を振り回す。

 すかさず背後に回ったラークが短剣で背中を斬りつけた。

 だが、浅い。

 魔人は怯むことなく左腕で攻撃してくる。


 マルボの放った炎の球が魔人に直撃した。


「よしっ!」


 しかし、マルボの表情はあまり明るくない。

 魔人は全くダメージを受けていない様子だ。


「くそっ、この狭さじゃ」

「ラークさん、一旦距離を取りましょう」

「あぁ」


 ラークとケントは魔人から離れて体勢を立て直す。


「グオオォアアッ!!」


 魔人は吠えながら両手を広げて天を仰いだ。

 すると、教会が揺れ始める。


「な、なんだ?地震か?」

「いや、違う。ヤバイ、皆離れるんだ」


 ラークは焦ったように言う。


「マルボ、結界を張れ!」

「うん」


 マルボは慌てて呪文を唱えて結界を張り巡らせる。


「ヴオアァーーーーーーッ!!!!」


 魔人は大きく息を吸い込み、口から赤黒い光線を放った。

 教会全体を包み込む。


「うおあっ!?」

「な、何だこの光は」

「熱い……」

「うぅっ」


 魔人以外の全員に激痛が走る。


「うわああぁっ!!」


 マルボの張った結界は一瞬にして破壊された。


「何て力だ……」

「こんなの反則だよ」


 ラークは周りを見渡した。

 周りには魔人の仲間だった冒険者が4人、神父神官5人、B級以上の冒険者6人。


 現在この街にいる最強の冒険者はラーク達3人である。

 3人で時間を稼ぎ街の人々を避難させるのが現状は一番現実的な判断か。

 本気で戦いでもしたら周りの人々に被害が出てしまう。


「俺達が時間を稼ぐ。あんた達は他の冒険者達と協力して皆を避難させてくれ。

神父さん達も早くにげるんだ」

「わ、分かりました」

「皆さん、急いでください」


「グオオォッ!!」


 魔人はラークに向かって突進してきた。


「ちっ」


 魔人は右手を振り上げ、そのまま振り下ろした。


 間に割って入ったケントがその攻撃を盾で受け流す。


 ドスンッ!!


「ぐっ!」


 重い衝撃が全身に伝わる。


「ケント、無理するんじゃねぇ」

「大丈夫です」


 魔人は今度は左拳で攻撃してきた。

 それも受け流して反撃を試みる。


 ブンッ!


 戦斧は空を斬る。

 魔人の動きは素早く、攻撃をかわされてしまった。


「こいつ、速い」

「ケント!避けろっ!」


 魔人の右手がケントに迫る。


 ガシッ!!


 ラークは間一髪でケントを掴んで横に飛んだ。


「うおっ!」


 勢い余って地面に転がってしまう。


「大丈夫ですか!?」

「あ、あぁ」


 魔人は今度は2人を睨みつけて雄叫びを上げる。


「ウゴォォアーーーッ!!」


 ビリビリッ! 空気を震わす雄叫びに体が痺れる。


「こいつ、オーガジェネラルよりはるかに強いぞ」

「A級足すオーガジェネラルだからね」

「魔人化はそんな単純な足し算なんですか?」

「いや、そんな簡単なものじゃないと思うけど」

「とにかく、このままじゃジリ貧だな」

「そうですね」

「グオォッ!!」


 魔人はケントに襲いかかり、素早い動きで撹乱しながら攻撃を仕掛けてくる。


「うっ」


 ケントは盾と戦斧を使って何とか防御している。



「皆さん!こちらです。早く逃げてください」


 教会の外では冒険者や街の大人達が避難を促している。

 教会に隣接された孤児施設からも子供達が逃げだしている。

 冒険者の恰好をした女性が5歳くらいの女の子の手を引いて孤児施設から逃げだしてきた。


「俺が抱えるからお前は走れ!」


 1人の少年が女の子を抱え走り出した。

 その横を一人の子供がすれ違って行った。

 10歳くらいの背丈の黒髪の少年である。


「おい、今のって」

「今のムサシ?」


◆◆◆◆


 魔人となった男は、生前の記憶を完全に失っていた。

 自分がどこから来たのか、誰なのか、何故魔人になってしまったのか。

 何も分からない。

 ただ、目の前の人間を殺すという衝動だけが男の心を支配していた。


「ウゥ・・・ウゴオァァッ!!」


 魔人は右手を振り上げて街中に響くほどの大きな声で叫んだ。


 その声に反応して野次馬達が教会から離れて遠くに避難していく。


「ヴオアァーーーーーーッ!!」


 魔人の口からマルボに向かって赤黒い光線が放たれた。


「マルボーーッ」


「いやー、今のはヤバかった」


 光線を直撃したと思ったマルボがラークの横で呟く。


「マルボさん、これもテンプレですか?」

「テンプレテンプレ!ヒーローのテンプレだね」


 フッと笑いながら2本の木刀を差し出しラークは言った。


「お前に作った武器だ。使ってくれ」

「ん、ありがとう」

「なんか素直だな」


 木刀を受け取った少年は短い方を腰に携え、長い方を両手で持ち魔人の前に立った。

 少年の名前はムサシ。

 宮本武蔵が転生してこの異世界にやって来た。この物語の主人公である。


「グオアァーーーーーッ!!」


 魔人はまた雄叫びを上げながら走り寄ってくる。


「……」


 ムサシは静かに剣を構えた。

 そして、魔人は両手を振り上げたまま飛び上がり、そのまま両手を振り下ろす。


 バシンッ!


 ゴロゴロゴロ……


 ムサシは飛び上がった魔人の脛を横に薙ぎ払い、魔人はその衝撃で転がっていった。


「ヴオアァァァ・・・」


 魔人は苦痛の表情を浮かべて起き上がろうとするのだが、立ち上がる事ができない。


「え?ひょっとして終わり?」


 マルボは呆気に取られていた。


「嘘だろ……」


 ラークは苦笑しながら言う。


 ムサシの一撃で魔人の片脚は砕けたようである。


「ヴオオォォォッ!!」


 魔人は怒り狂いながら吠えて立ち上がった。


「あれ、立つんだ」


 マルボは驚いたように言う。


「まぁ、最強魔人だしな…」


 今の今まで自分達が苦戦していた魔人を圧倒しているムサシに、ラークは顔を引き攣らせながら言った。


「ヴオオォォッ!!」


 魔人は雄叫びを上げて、ムサシに向かって突進してきた。

 しかし、ムサシは慌てる様子もなくゆっくりと構える。


 ドスンッ!!


 魔人は砕けた右足を勢いよく踏み込み拳を振り下ろしてきた。

 それを見切ってスッと避けると、魔人はバランスを崩して前につんのめる。


 バシーンッ!という音が教会内に響き渡る。


 すかさず首元に木刀を叩き込んだ音だ。

 そのまま魔人は崩れ落ちた。


「…………」

「…………」

「…………」


 3人とも言葉を失う。

 3人にムサシは振り返りながら


「あー…これからよろしく…」


 いきなり照れ臭そうに言う……


 仲間になるという事なのだろうが、タイミングというか何と言うか……


「あ、あぁ……」

「よ、よろしく……」

「ハ、ハハハ……」


 空笑いが辺りに響き渡った。

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