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057 弐章 其の拾 マルボの怒り

「こんな…こんなはずじゃなかった…」


 魔力をほとんど無くし人間の姿に戻った雑貨屋主人。

 魔人化を完全に戻すため、浄化魔法を掛けに近づいたマルボの足元で呟いた。


「なんで、俺が、こんな目に…」


 雑貨屋主人の言葉にマルボは眉間にシワを寄せて睨みつけた。


 湧き上がる怒りを抑え、マルボは浄化魔法を掛ける。

 しかし、完全に浄化出来ていないようだ。

 マルボの浄化魔法ならば魔人化した人間でも定着する前に浄化すれば元に戻るはずである。


 考えられるのは呪いの魔法。この雑貨屋主人にも呪いがかけられている。呪いの根本は魔神の方のようだ。


 マルボは「ちっ」と舌打ちをする。

 マルボは振り返りジン達にいきなり浄化魔法を掛けた。


「何してるの?」


 ピアニスは不思議に思いマルボに質問する。


 マルボはジン達の服の汚れが落ちない事を確認すると、また雑貨屋の主人のところに戻った。


 ジン達の服の汚れは廃屋で着いたもので、廃屋の呪いが解けていれば汚れは浄化魔法で落ちるはずなのだ。


 魔神を倒さない限り呪いは解けない事を理解した。


「話せっ!お前は何をしたっ!!」


 マルボが雑貨屋の主人の胸倉を掴んで問い詰める。

 いつものマルボからは想像できない口調と怒りの表情だ。

 マルボはどうやって魔神と契約したのかを問い詰めている。


「あいつらがいけないんだ。あいつらが来たからいけないんだ」

「だから何をしたっ!」

「俺は悪く無い」


 バキッ!!


 マルボが殴った。

 大魔法使いであるマルボが拳で雑貨屋の主人を殴ったのだ。


「ちょっと、魔法使い君」


 ピアニスが止めようとするとマルボは手で制した。


 あろうことか、マルボは雑貨屋の主人に回復魔法を掛けはじめる。


「え?何やってんの?」


 ピアニスもこれには驚きを隠せない。


 さらに持っている杖を放り投げた。


「かかってこいよ。クソ野郎。 俺に勝てたら見逃してやる」


 怒りの形相で雑貨屋の主人を煽り体術の構えを取るマルボ。


 回復魔法で立ち上がった雑貨屋の主人、多少の時間の経過で魔力も少しは戻っている。

 リッチに変身できる魔力はないとしても、かなり強靭な肉体を得ている。


 え?魔法使いでも鍛錬すれば体術で魔人に勝てるって、子供達に見せるつもり?

 そこまでしてこの子達に夢と希望を抱かせるつもりなの?

 ピアニスは思った。


 実は、マルボはキレているだけである。

 マルボの書いた筋書きは終わっている。

 ピアニスは勘違いをしているのである。


 マルボはこの雑貨屋主人が犯人である事は目星をつけていた。

 ジン達の義両親は呪いで病気になっている。

 呪いの魔法は妬みの精神が無いと作動しない。

 妬みがあるから呪いなのだから。


 ジン達は4歳の時に義両親に孤児院から引き取られた。

 3人同時に引き取ったのは3人の仲が元々良かったのだろう。

 そして4歳時に引き取るのは5歳の解放の儀式前、才能を引き取ったわけでは無い。

 ジン達を見れば、廃屋に忍び込んだりはしても、根はとてもいい子達である。

 義両親はいい人達である。


 そんないい人達を妬む存在、それは性根の腐った人物であろうと推測する。

 妬みそうな存在は競合店。

 このジン達の義両親の店のせいで自分の店が売れなくなったという逆恨みをしている。


 ムサシと他の雑貨店を見て回った。

 どの店も工夫や努力をしていた。

 他店と違う物を販売していたり、顧客サービスを行っていたり、頑張って営業している。


 サービスの競争なのだから当たり前の企業努力である。

 周りに負ければ、経営できなくなる。

 どの世界でも競争は起こり、正々堂々と戦うのが世の常だ。

 現実は厳しいのだ。


 1店舗だけ努力の痕跡がない店があった。

 工夫もなく、他店よりも品揃えも悪く、値段も安くもなければ高級品を置いてもいない。接客も杜撰。

 なんの努力もしていないのが丸わかりである。

 客は来ない。当然である。


 そんな者に限って口を揃えて言うのだ。

 自分は悪くない。悪いのはあの店の店主だ。あいつがいるから俺の店は儲からないんだ。

 自分では努力も工夫もせずに文句ばかり言っている。

 努力も工夫も出来る事は沢山あるのに、それをしないで文句だけを言う人種がいるのだ。


 ただ、裏で文句を言っているだけならまだしも、他の人間の足を引っ張ろうとする奴がいる。

 成功者がいなくなれば、自分に幸運が回ってくるとでも思っているのか。

 ありえない。

 別の他の者が成功するだけだ。

 本人が変わらなければ何も変わらない。


 今、目の前にそれと同じ人種がいる。

 この雑貨屋の主人は同じ事を繰り返した。

 廃屋の元主人を呪いで殺したのもこいつだ。


 ジン達に夢と希望を与えるのも動機の一つ。

 純粋に呪いの病気を治したいのも動機の一つ。

 だが、マルボの最大の動機は、この歪んだ精神の雑貨屋主人を裁きたかったのである。


 前世で何かあったのだろうか。マルボは文句を言って自分を変えようとしない人間を嫌う。

 犬娘三姉妹が不快なのも同じ理由である。

 ただ、犬娘三姉妹はまだどこか可愛げがある。

 この雑貨屋主人はマルボから『最低のクソ野郎』認定されている。


 この期に及んでも、なお雑貨屋主人は「あいつらがいけないんだ」と言うのである。

 マルボの怒りは頂点に達した。

 いくら強い力を得ても、歪んだ精神では何も成し遂げられない。


 それを示したいがゆえ、肉弾戦をしかけるのである。

 魔人の力を得ても、肉弾戦で魔法使いにすら勝てないという証明をするために。


 雑貨屋主人はマルボに殴りかかった。

 当たる直前でマルボは避ける。

 バランスを崩した雑貨屋主人をその力を利用して投げ飛ばす。

 それを何度も繰り返す。


 マルボも日々の鍛錬を怠っていない。

 魔法に関する事だけでなく、体術の鍛錬もしている。

 ラークと出会ってからずっと行っているのだ。


「なんで、なんでだ!俺は命を捧げてこの力を手に入れたんだ」


 立ち上がり雑貨屋主人はまたもマルボに殴り掛かる。

 やり方が間違っている。考え方がおかしい。そんな歪んだ精神で手に入れた力は、所詮まがい物。


「何で俺がこんなめにあうんだ。誰も同情してくれない。俺は悪くないんだ」


 一言一言がマルボの逆鱗に触れる。


「同情を求めんじゃねぇよっ!」


 マルボはまたも投げ飛ばす。


 同情は同じ精神を持つ者がする事である。

 受け入れる事ではない。

 人が人に同情する事は、自分の弱さを肯定する事になる。

 愛では無いのだ。

 愛ならば、受け入れるのならば、共感するべきである。

 分かってあげるだけでいい。


 同情はその人には乗り越えられないと思ってしまう事である。

 自分自身も乗り越える気が無い事でもある。

 自分の為に他人を憐れむ傲慢でもある。


 それを他人に求めるのは論外である。


「俺の!俺の命は! プライドがあるんだー!」

「てめーがプライド語るんじゃねーっ!」


 ドガッ!!


 ついにマルボは拳で雑貨屋主人にトドメをさす。


「ぐはぁっ!!」


 雑貨屋主人は地面に倒れ伏す。


「プライドあるなら結果で語れよ」


 吐き捨てるようマルボは言った。


「ちゃんと見た? 魔法使いだってね。 努力すれば体術で魔人にだって勝てるのよ」


 勘違いしたままのピアニスはジン達に言い放つ。


 強く頷くジン、カルア、ウォッカ。

 そのままマルボに向かって走った。


「マルボ、俺頑張るから!」

「私も頑張る!」

「僕も、ちゃんと努力する」


 3人はうるんだ眼を輝かせてマルボの手を握り締めた。

 溜飲が下がり落ち着いたマルボは何の事か分からず戸惑う。


「え?」


「マルボは凄いな」

「カッコよかった」

「ありがとうマルボ」


「え?」


「感動したよ。魔法使い君。いや、マルボ!」


 ピアニスまでマルボの手を握っていた。


「え?」

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