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053 弐章 其の陸 10歳の冒険

 夜中の3時前である。

 宿屋からこっそり抜け出したムサシとマルボはジン達の家に向かっていた。


「マルボ殿、ラーク殿には相談しないのでござるか?」

「いや、ちゃんと話してあるよ。たいした問題無いだろうから行ってらっしゃーいだって」

「ふむ、そうなのでござるか。潜入にはラーク殿がいた方が良いのではござらんか?」

「ダメダメ。子供だけでやるから面白いんだよ。それにちょっとした考えもあるから」


 子供と言ってもムサシもマルボも転生者なのだが…


 ジン達の家の前に着くと、すでにジン、カルア、ウォッカは表に出ていた。


「あ、来た来た」


 ウォッカが小声で言う。


「なんか今日は警備保障の見回りが多いから気をつけろよ」


 ジンも小声で言う。


「もう1人来るからちょっと待ってね」


 カルアも小声で言う。


 もう1人?


 まさかと思ったマルボだが、すぐにもう1人がやって来た。


「はぁ〜、そんな気はしてたのよね」


 ご縁の深いピアニスであった。

 会うや早々に溜息をつかれるムサシとマルボである。


 ピアニスが食事をする前に3人と偶然会い、パンのお礼に誘われたらしい。

 ピアニスも、子供3人だけで出歩いている事や、高そうな服を着ているのに埃汚れが多い等で気になっていたようだ。


「他のパーティメンバーはどうしたの?」

「寝てるわ。特に連れてくる必要無いし」


 マルボの問いにピアニスが答えた。

 ムサシは相変わらずツン対応されている。


◆◆◆◆


「凄い埃ね。あの子達の服が汚れていたのも分かるわ」


 ジン達に案内され廃屋に入ってきたムサシ達、中は埃だらけでピアニスが顔をしかめた。


「ちょっと待ってね」


 マルボが言うと、浄化魔法を使った。

 だが埃は消えなかった。


「確かに呪いの魔法のようね。でも魔法使い君の浄化魔法、かなり強力でしょ?いくら呪いの魔法でもこの浄化魔法なら浄化できるはずよ」

 ピアニスが言う。


 廃屋に来る道中、呪いの話をマルボはピアニスに伝えていた。


「触媒が強力か、妬み怨みがよほど強いかって事だね」


 マルボが言った。


 呪いの魔法

 妬み怨みなどの負の感情を魔法として発動させる魔法である。

 対象者の髪の毛や爪、使用した生活用品のゴミなどを使い、動物や魔物の血を触媒として使う事が発動条件である。

 本人の魔力ではなく触媒により効果の差が出る。


 触媒が強ければ強い程、手に入れるリスクが高い。


 魔物の血の取引は魔人化を懸念して一般的に違法である。

 本人が飲む以外、他人に飲ませる事件もありえるからだ。

 魔物の血の取引には指定のギルドライセンスが必要になる。

 血抜きさえすれば食用となる魔物もいる為、調理人ジョブがいる飲食ギルドや、魔物を討伐する冒険者やハンターギルドのライセンサーが該当する。


「あった。呪いの魔法陣だ」


 廃屋内を探検するフリをしてジン達の目を盗みながらマルボは魔法陣を見つけた。


 ムサシには隠し通路の入口を探して貰っている。


「埃の上の足跡、確かに大人の足跡があるでござる。しかし、この悪人は子供の足跡がある事に気付かなかったでござろうか?」


 ムサシは呪いの犯人がこの子供の足跡を見て対応しなかった事を不思議に思い呟いた。


「ムサシーっ、これどうだ?」


 ジンがガラクタをムサシに見せに来た。売れるか売れないか相談したいらしい。


「その花瓶はヒビが入っているから価値は無いでござるな。そっちの花瓶はかなり高価な物でござる」


 実はムサシは美術品の目利きも出来る。

 芸術家でもあった前世の宮本武蔵の感性だろうか。


「おぉっ! すげぇな。じゃあこれ持って帰ろ」


 ジンは喜びながら他のお宝を探し始めた。


「しかし、足跡をこうも残すとは、このまま足跡を辿れば隠し通路もすぐ見つかるが・・・罠としか思えぬでござる」


 あまりに不用心な犯人に対し、罠を警戒するムサシだったが、杞憂だった。


「最低な奴だな…」


 マルボが魔法陣の解析をしながら呟いた。

 魔法陣から読み取れる情報は多く、そこから心理学のように術者の性格や思考パターンを読み取る事も出来る。


 そして読み取った結果、この魔法陣を書いた人物は最悪な人間だとマルボは判断する。


 この魔法陣の呪いの対象はジン達の義両親のみである。

 そうすると、この廃屋に掛かっている呪いは…


 マルボとムサシは夕食前に警備保障ギルドに足を運んでいた。

 あいにくモヒートは会議でいなかったが、同行していたギムレットとは会うことができた。


 何故この立派な屋敷が廃屋なのか?誰が所持していたのか?

 ギムレットは分からなかったが、現地の警備保障ライセンサーが答えてくれた。


 この廃屋はアルファトで一番の雑貨屋の家だったらしい。

 かなりの豪商だったらしいが一年ほ程前に突然病気で亡くなり相続人もいない。

 その為、現在空き家となっているようだ。

 放置されたままなのは、魔族とのいざこざで人員不足もあるらしい。


 突然の病気で亡くなる?

 大都市の豪商なら、お金を払えば病気は魔法で治るのに?


 呪いの魔法のせいだろう。


 魔法陣を読み取った事で、マルボは二つの呪いは同じ人物の犯行と見極めた。

 魔力の波長が同じなので同じ人物の呪いである。

 魔力の波長は指紋の個人差のようなものなのだ。

 ジン達の義両親にかけた呪いの術者と、この廃屋に呪いを掛けたのは同一人物である事が判明した。


 マルボはギムレットに他にもお願いをした。

 夜中の2時まで商業地区の警備を強めて欲しい事。

 その事を雑貨屋中心に警告して欲しい事。

 廃屋に明日中に調査が入ると雑貨屋に嘘をつく事。


 呪いの魔法は犯罪行為であり、それを使う者は犯罪者として取り締まらなくてはならない。

 その手柄は全部ギムレットに渡して良いとマルボは言い協力を依頼した。


「遠征中にこんな事件解決したら、ブラッサン帝国でも《リゾット最強の一角》が有名になっちゃうね。ね、ギムレットさん」

「やるウガ」とチョロかった。


 マルボはこの廃屋に忍び込むタイミングで犯人を誘き寄せる罠を張ったのである。


 おそらく犯人は、今現在隠し通路の先にいる。

 強化探知魔法を使ってもいいが、確認するまでもない。

 呪いの魔法陣は2つ作動している。

 この魔法陣は強力で解除が困難。

 もう一つを探して2つを解除するより、術者を捕まえた方が早い。


「この呪いの魔法陣、かなり強力な魔物の血を触媒にしてるわね」


 ピアニスが魔法陣を見ながらマルボに話した。


「そうだろうね。どうやって手に入れたか分からないけど、どの方法であっても最低な方法だよ」


 マルボは怒りを露にしている。


「マルボ殿、隠し通路を見つけたでござる」

「うわっ!」


 いきなり気配を消したまま後ろからムサシに話しかけられ驚いた。


「さすが忍者、びっくりさせないでよ」

「いや、拙者忍者ではないでござる」

「……」


 何やってんのかしら、こいつら。という感じの冷たい視線を送るピアニス。


 ジン、カルア、ウォッカの3人は隠し通路の入口を興味津々で見ていた。

 本棚を動かして出現する隠し通路。

 埃の上の足跡のゴールが本棚であれば不自然ではないかもしれない。

 だが、本棚を動かした後がついているのでバレてしまうのである。

 そもそも事前の調査で隠し通路があることはマルボとムサシは知っているのだが。


「それにしてもお粗末でござる」


 ムサシは犯人の杜撰さに呆れていた。


「この先にもお宝あるのかなぁ~」


 ジン達もワクワクが止まらない様子だ。


「この先にお宝は無いよ」


 マルボはジン達に教えてあげた。


「えーっ」


 残念そうなジン。


「でも、ちょっと先に入ってみたいよね」


 ウォッカが言った。

 隠し通路は子供心を刺激するのは当然である。

 大人でも入ってみたいと思うだろうが。


「この先は洞窟がある。 凄く怖いよ。 凄く凄く怖い思いをする事になる。 そして、その先に凄く悪い奴がいる」


 マルボはふざけた感じではなく、真剣な表情でジン達に教えた。


 ジン、カルア、ウォッカはお互い顔を見合わせた。


「じゃあ、止めとく」

「そうしよう」

「うん」


 ジン達が諦めたようだが、マルボは続けて話た。


「その凄く悪い奴は、君達のお父さんお母さんを病気にした奴だ」


 ジン、カルア、ウォッカの顔が強ばった。


「そいつを倒せば病気は治る。 だけど、僕とムサシとピアニスだけでは勝てない。 もし良かったら手伝って欲しいんだ。 僕は君の両親を助けたいと思っている。 助けられる命を助けたい」


 ジン、カルア、ウォッカは黙ってマルボの話を聞いている。


 例えこの先にいる者が魔神クラスに強かったとしても、こちらにはムサシがいてピアニスも相当強いという。

 負ける要素など少しも無いのである。

 ジン達を連れて行くのはデメリットしかない。

 だが、マルボの考えはジン達の手で義両親を救う事で、ジン達の未来に意味があると考えている。

 そして、冒険者の才能が無いと諦めないで、夢と希望を持ち続けられるきっかけを掴んで欲しい。

 そのためにマルボはジン達を連れて行こうとしているのだ。


 ピアニスがマルボの意図を察して、ジン達に優しく声をかけた。


「ジン、カルア、ウォッカ、私からもお願いするわ。 あなた達の両親を助ける為に力を貸して欲しいの。 どうかしら?」


 ムサシが続ける。


「ご両親を助けられるのは、お主達だけでござる」


 言葉のニュアンスから意図を察してもらえていない気もするが、3人の子供達にとってはいい言葉だからマルボは黙っていた。


「でも、そんな怖い人がいるのに、私達に何が出来るの?」

「俺達は冒険者やハンターの才能は無いんだ!役に立てない!」

「怖い思いをするだけなんじゃないかな…」


 3人は不安で一杯だった。


「大丈夫だよ。 君達の為に用意してきた物があるから」


 マルボは鞄から3枚の紙を取り出した。

 1枚づつ渡し何やら簡単に説明をしている。


 ジン、カルア、ウォッカは渡された紙を眺めている。


「本当に出来るの?そんな事」

「ああ、これなら絶対に安全で確実に成功できるよ」


 マルボは自信を持って答えた。


 意を決したのか、ジン達は決意に満ちた目をしていた。


「分かった。やるよ」

「そうね。やろう」

「お父さんお母さんを早く助けたい」


 マルボは3人がやる気になってくれた事が嬉しかった。


「ありがとう」


「では、行くでござる」


 ムサシの言葉で6人は隠し通路に入った。

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