049 弐章 其の弐 3人の子供達
ムサシとマルボは街中を歩き回り、昼時になったので昼食を取る事になった。
屋台の並んでいる大通りは、様々な国の食べ物が売られていて、どれにしようか迷ってしまう。
「あの子達は何してるでござる?」
ムサシが指差す先を見ると、10歳程の子供達3人が串焼きを物欲しそうに眺めていた。
「どうやら串焼きを食べたくてもお金が無くて諦めているみたいだね」
「ならば、拙者が奢るとするでござる」
ムサシはそう言うと、串焼きを注文しようと店主に声を駆けた。
「親父殿、串焼きを5本くだされ」
「その串焼き4本ください」
ムサシと同時に声を掛けてきたのは、青い目をした美しいブラウンヘアの少女だった。
年は10歳程であるが片手剣を腰に下げているのを見る限り冒険者であろうか。
「いや、悪いね。5本ならすぐ焼けるど、後は焼くのにちょっと時間かかるから、もう少し後でもいいかい? 」
ムサシとブラウンヘアの少女はお互いに顔を見合わせた。
「ここは譲ってくれる?私、あの子達に買ってあげたいの」
「む、拙者もあの子達に買ってあげたいのでござるが」
マルボは「え?これテンプレの出会い?」と、内心ワクテカしている。
ブスーッと膨れ面をして「わたし、いいわ」とブラウンヘアの少女は反対のパン屋に走って行った。
「あいよ。串焼き5本お待たせ」
ムサシは串焼きを受け取り3人の子供の方を向くと、先程のブラウンヘアの少女が3人の子供にパンをあげている所であった。
ムサシが近寄るとブラウンヘアの少女はプイッと横を向いてしまった。
「おーい!ピアニスーっ!」
大通りの先の方で頭にターバンを巻いた男が大声で手を振っている。
その男に向かってブラウンヘアの少女は走って行ってしまった。
ブラウンヘアの少女はピアニスというらしい。
「なんてテンプレなツンデレだ…。いいぞもっとやれ」
マルボが興奮気味に拳を握りしめながら呟いた。
「拙者のおごりでござる」
ムサシは子供3人に串焼きを配ると、子供達は満面の笑顔になってくれた。
「いいのか?お前もいいやつだなぁ〜」
「さっきの子もいい子だったね〜」
「ありがとう。一緒にそこの広場で食べようよ」
3人の子供達は10歳くらいである。
彼等からすれば同じくらいの年に見えるムサシとマルボ。
友達に思われても仕方ないだろう。
マルボもちょっと面白そうに思い、焼きそばのような麺類を買ってきた。
こうしてムサシ、マルボの昼飯は和やかな雰囲気を楽しむ事になる。
「うひょーっ!今日は何ていい日だ!」
「美味しいねー」
「本当にありがとう」
子供達はお礼を言いつつ、モリモリと食べ始める。
「なぁ、お前達金持ちなのか?」
「ジン、そんな聞き方しちゃダメよ」
「でも、貧乏な子には見えないよね」
食事をしながら3人との会話は続く。
活発な男の子はジン。
おとなしくて可愛い少女がカルア。
気の弱そうな少年がウォッカ。
着ている服を見ると、それなりに値段のしそうな服なのだが、埃汚れが目立ち違和感がある。
3人共時折悲しそうな表情を見せる。
何か悩みがあるのだろうか。
この3人は孤児院育ちだという。
4歳の時に子供の出来ない商人夫婦に引き取られたそうだ。
4歳の時というのが好感が持てる。
5歳になると解放の儀式で才能が分かる為、才覚を求めず純粋に子供が欲しいと思ったのだろう。
ムサシとマルボは自分達が冒険者である事を言うと、とても羨ましがられた。
何故、冒険者に憧れるのか聞くと、お金が稼げるからだと言う。
お金を稼ぐのは冒険者でなくてもできるのだが、前世でいうプロスポーツ選手のような感じで憧れているようだ。
だが、解放されたジョブは、ジン『鍛冶職人』カルア『養蜂職人』ウォッカ『陶芸家』であった。
自分達は冒険者の才能は無いと言う。
ムサシは子供達に言う。
「ありのままの自分をみつめ受け入れるでござる。いずれ自分の才能を受け入れられるようになるでござる」
マルボは思う。
うん、それは子供達には難しい話なんじゃない?
実際3人はキョトンとしてるよ。
見兼ねてマルボは口を開いた。
「いや、3人の才能だって冒険者になれると思うよ」
「え!?ホントに?僕達が冒険者に?」
「嘘だーぁ、俺達は無理だって言われたぜ」
「嘘じゃないよ。でも凄く頑張る事と沢山工夫をする必要があるけどね」
「う、努力…工夫…」
ウォッカが自信なさげに呟く。
実際マルボにはイメージがある。
鍛冶職人であれば力はあるし、誰にも作れない武器防具を作ればいい。
養蜂職人は蜂を操る事ができる。探索にも効果的なので冒険者として役に立つ。
そして、陶芸家はセラミックを作れる。
焼き加減が難しいかもしれないが、焼き方によっては鉄より硬い剣や盾や耐熱性の高い武器を作り出せる可能性を秘めている。
マルボは若い子達に夢を持っていて欲しいと思うようだ。
肉体年齢は彼等と一緒だが…
多くの人は努力をしない。
前世でも今世でも。
マルボは文句を言い出来ない理由を並べて何もしない人間を嫌う。
文句を言う前に、行動しろ。
出来ない理由を考えるより、どのようにやるかを考えろ。
自分の人生、自分で責任を持て。
が、マルボの心情である。
ジン・カルア・ウォッカには、そんな大人になって欲しくない。夢があるなら頑張って欲しいのである。
夢を叶える為には、今の才能を極める必要があるとも考える。
創意工夫をするのは基本ができてからだ。
まだ10歳である。
冒険者になるのは15歳からだ。
3人の訓練期間はまだまだ長い。
「ところでお主達は何故大通りにいたのでござる?」
ムサシは疑問に思っていた事を問いかけた。
聞くと義理の両親は最近急に商売がうまく行かなくなってきたらしく、更に病気で寝込んでいるという。
ムサシはチラッとマルボを見る。
(魔法で治せってこと?)
「僕は回復魔法も使えるから、家に行ってお父さんとお母さんを診てみようか」
「ほんとかーっ?お前いいやつだな〜。よろしく頼むよ」
ムサシとマルボは子供達と一緒にジン達の家に行く事になった。
◆◆◆◆
ジン達の家に着くと、義両親は凄い熱で寝込んでいた。
10日程前の朝、起きたらこんな状態だったらしい。
こんな状態のまま今までどうしていたのかと聞けば、毎日薬を買ってきたとのこと。
お金をどうしていたか聞くと、街の外れにある廃屋に行き、そこに置いてあったガラクタを売っていたようだ。
マルボは思った。
それって犯罪では?
高く売れた事もあるらしく、街の医者に頼んだ事もあるが、治らなかったらしい。
なお、この世界の医者は魔法医学である。
結局、薬師を医者に紹介してもらうが、現状維持がやっとであったと。
今日持ってきたガラクタは売れなくてお金が無くて困っていたそうだ。
取り敢えずは義両親の治療をしよう。
マルボは魔法陣を拡げ浄化魔法を掛けた。
「うおっ!魔法だっ!すげーっ」
しかし、あまり効果が無いように思える。
「もう、治ったの?」
「いや、ちょっと待ってね」
マルボは考えを巡らせる。
一度体力を回復させてみようと回復魔法を掛けると、義両親に生気が戻った。
「わっ、凄い」
魔法に興味があるのか、3人は魔法を使う度にリアクションをしてくれる。
体力は回復した。
だが、病気の原因であるウィルスは駆除できていない。
「ムサシ、力を貸してくれる?魔法陣に強化魔法を流して欲しい」
「む、心得たでござる」
マルボは魔法陣を拡げ再度浄化魔法を使う。
ムサシは木刀の剣先を魔法陣に付け魔力を流した。
ムサシの魔力を加算した強力な浄化魔法だ。
辺り一帯が浄化され、一気に空気中のゴミが消えて行くのが感じられる。
「うぉっ!また魔法だっ!」
「わーっ!凄ーい!」
だが、それでもまだ病気の源が残っていた。
おかしい…。
これで全部消えるはず…。
「ごめんね。僕には完全に治せないみたいだ」
「そんな事ないよ!元気になったよ!」
ウォッカが義両親の状態が良くなった事で涙を浮かべながら喜んでいる。
「お前達、本当すげーなっ!」
「ありがとう、ありがとう」
ジンもカルアも涙を浮かべて喜んでいた。
子供達は義両親の事でかなり悩んでいたようだが、どうしていいか分からなくて困っていたようだ。
マルボは何か方法が無いか考えてみると言い一旦帰るとジン達に伝える。
帰り掛けに、明日の午前3時に街外れの廃屋に一緒に行こうと誘われた。
秘密の入口を知っているらしく、お礼のつもりで連れて行くというニュアンスのようだ。
ムサシはそれはいけない事だと言おうとするのをマルボが止めた。
「オッケー、3時にここに来ればいいね?」
「おう、警備保障とかにみつかるなよ」
マルボとムサシは約束をしてジン達の家を出た。
「マルボ殿、何の考えがあるでござる?」
「僕の浄化魔法で消えない病気。間違いない、呪いの魔法だ」
「む?呪いの魔法?」
マルボの頭の中でパズルのピースが次々と埋まっていく。
ジン達の家は店舗付き住宅であった。
家に入ってすぐにチェックしたマルボである。
商品の品揃えも見ている。
豊富な種類の生活雑貨が並んでいた。
これで商売がうまく行かなくなった?
店の立地も良く人通りもいい。
浄化魔法で治らない病気の時点で呪い。
不自然な売上の減少も呪いによる物であろう。
他の競合店が関わっているかもしれない。
その内容をムサシに話す。
「つまり売れない店がジン達の店に逆恨みでござるか?」
「他の可能性もあるだろうけど、あの義両親はいい人そうだからね。他の人に恨まれるとも思えない。後、廃屋ってのが凄い気になる」
ムサシはマルボの話を聞き、多くの疑問を持ったが、今は聞かないでおいた。
少しは自分で考える事も大事だと思ったのだ。
「ちょっと他の生活雑貨店も見て回ろう。その後廃屋に下見行ってみようか」
「マルボ殿といると退屈しないでござるな」
マルボは怪しい競合店を探すつもりである。ムサシもそれには気付いたようである。




