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048 弐章 其の壱 港街アルファト

 チョパイの港を出て4日、いよいよブラッサン大陸が見えてきた。

 船上で朝食を摂り、ラークはこれから上陸する陸地を眺めている。


 チョパイからここまでは順調すぎる程順調に航海してきた。

 嵐にも遭わず、魔物の襲撃も無く、トラブルらしい事を上げるとするとピースがお尻を触られた事件くらいである。


 クエストに参加したライセンサー達は、ほぼ何もせず報酬を貰える事になった。

 半数程のライセンサーは別の船でリゾットに帰ったが、何人かはこの船に残った。

 ブラッサン帝国の港街アルファトにて、警備保障ギルド・ハンターギルドそれぞれの支部での打ち合わせや、冒険者はクエストを受ける等、理由は様々である。


 経費も余ったし報酬も貰えるしで連日夜の船上は宴会となった。


 そんな宴会中、座っているムサシに後ろから抱き付いて、フリフリしているピースのお尻を、酔っぱらった冒険者が触り、ピースの強烈な回し蹴りで吹っ飛ばされるという事態になったのだ。


 冒険者は逆切れして「何しやがる!」と立ち上がったが、ピースの周りにムサシやラーク達もいるのだから、喧嘩を売るわけにもいかず、そのまますごすごと引き下がった。


「ケツ振ってるからいけないんだ」

「犬族の血のせいだから仕方ないのよ!」


 ラークとピースは言い争いをしていた。


 獣人犬族の末裔である三姉妹は見た目普通の人間と変わらないが、嬉しい時は尻尾の代わりに尻を振るという何とも言えない習性があるのである。


 ラーク達は些細な出来事としか認識していないのだが、この後少し複雑な事件の引き金となる。


 どの世界にも成功者を(ねた)(そね)む輩はいる。


 このピースの尻を触った冒険者達は、裏でラークやムサシの悪口や文句を言っていたのである。

 もちろん直接喧嘩等売れる訳もなく、口だけなので周りからも疎まれているのだ。

 自分達を客観的に見られない。気付いていないのは本人達だけである。


 尻事件は、この冒険者達の妬み嫉みの対象がラーク達から犬娘三姉妹に変わる切っ掛けとなった。

 ラークやムサシに引っ付いてるだけで、三姉妹は英雄扱いされているだけだと。


 さて、夜以外の船上では毎日のようにムサシによる特訓が開催されていた。

 成長著しいのはベルモートであった。

 元々レベルが高い上に、努力家である。

 エルフに貰ったミスリルの大剣の使い方も慣れてきたようだ。


 カンパーリは大剣というよりグレイブに近いと言っていた。

 グレイブとは槍の穂先を剣状にしたような形状の棹状武器である。

 ただ、普通のグレイブより刃が長めであり、幅も広く大きい。

 この特殊な形状がソードダンサーのベルモートに相性がいい。

 戦斧だけのケントと互角に渡り合っていた。

 もちろん盾があればケントには敵わないのだが。


 ケントの盾は魔族のガイオーに破壊された為、現在ケントには盾がない。

 早く神の神殿に向かいたいところだが、ケントの盾だけは最優先で入手する必要がある。


 問題は現金が無い。

 そんな事をラークは考えていると高速船はブラッサン帝国最南端の港街アルファトに入港した。


◆◆◆◆


 港街アルファト

 ブラッサン帝国最大の貿易都市。

 全ての物が集まると言われるほどの貿易拠点でもある。


 ブラッサン帝国の領土であるが、様々な文化が集う場所である。

 貿易の拠点だけあり、人種や職業が雑多な印象を受ける。

 しかし、街の中は清潔で整然としており、治安も良さそうだ。


 港に船が入って行く。

 ラーク達は船を降りて歩き出した。

 まずは冒険者ギルドに向かうようだ。

 大きな木造の門を通り抜け、大通りを通っていく。


「ここも綺麗な町並みだな」


 歩いていると、あっと言う間に冒険者ギルドに着いた。


「む、随分と大きい建物でござるな」


 ムサシが言った通り、冒険者ギルドは他の街と比べてもかなり大きかった。


 現金貧乏のラーク達は即金になるクエストを探したい。

 旅の軍資金と、ケントの盾を買う為の資金が欲しいのである。


 なお、チョパイのクエスト報酬はやはり手形になるそうだ。

 アルファトほどの大都市なら換金可能なのだが、手続きに数日掛かってしまう。

 この街で長居はできないので、現金化は無理だろう。


 大都市だけあってクエストは大量にあり、手頃のクエストを数種類を選ぶのだがいくつかのクエストに問題があった。


 15歳以上限定が多数あるのだ。

 15歳未満のライセンサーは天才の証明のようなものだから、大事に育成するべきという方針なのだろう。

 大都市は人の手が足りているので、貴重な15歳未満のライセンサーを危険なクエストに帯同させる必要は無いという事である。

 稼げるクエストは危険が伴うので15歳以上限定が多い。


 つまりこの街で短時間で稼ぐにはマルボ、ムサシ、キャメルは帯同出来ない訳である。

 色々なパターンを考えた結果、ラーク1人でクエストに行くという結論に落ち着いた。

 この辺では魔族との戦闘は無いらしく魔神でも現れない限りラーク1人でも問題無い。

 むしろ効率を考えれば単独行動の方が良さそうである。


 分業という考えは無かったのだろうか。

 ラークは自分が動くことを前提として考える悪い癖がある。


 たまには他のメンバーにゆっくりして欲しいという気持ちもあったのだが。


 ラークは早々にクエストに出掛けて、ケント、ワカバ、キャメルは盾を探しながら買い物へ。

 マルボとムサシは街中を見物しながら、遊ぶという選択になった。


 ムサシはマルボの自由な発想に興味を持っている。

 遊び心があるから色々思いつくし、修行や鍛錬する時も楽しもうとする考え方なのだ。


 目的達成の為にわざわざ辛い道を選ぶ必要は無い。


 楽しく達成すればいいのだというマルボのポリシーは、その自由奔放な生き様も相まってムサシにとって非常に興味深いものである。


 こうして各自自由行動に入った。


 ちなみにベルモートと犬娘三姉妹はラーク達に神の神殿まで着いていきたいと上司のカンパーリを説得中で、その許可待ちだ。

 カンパーリが却下するとベルモート達が冒険者ギルドに移籍しかねないので、カンパーリとしては頭を抱えている状態である。


◆◆◆◆


「こっちの食器は木だけど、それは陶器でしょ。 同じ店に違う文化が混在しているって事は文化交流が盛んなのかもしれないよね」

「ふむ、確かにそうでござるな」

「お店の並びも色々な分野のお店があるよね。 派閥があったら国とか文化が固まると思わない?」

「ふむ、それも一理あるでござるな」

「政治がしっかりしていて人種差別とか無いのかも。 だから貿易拠点になっているんだろうね」

「ほぉ、マルボ殿は凄いでござるな。 拙者は全然考えなかったでござるよ」

「でも、人種差別が無いとしたら、何で魔族と戦争しているのかなぁ? 不思議じゃない?」

「むっ!? 言われてみれば、確かに不思議でござるな」


 マルボのちょっとした事から物事を考える力は大したものだとムサシは感心していた。

 それにしても不思議な事に気付くのも上手いものだ。


「ところでマルボ殿、地図を買わなくていいのでござるか? 」

「うん。僕の探知魔法と照らし合わせて精度の近いお店から買いたいなって思って」

「地図はお店によって違うのでござるか? 」

「うん、そうなんだよ。 地図制作者ってジョブがあるからね。地図作れる人が何人かいるから販売ルートが増えちゃうんだ」

「文化交流があるのに地図の制度は上がらないのでござるか?照らし合わせればいいだけだと思うのでござるが」

「魔物がいるから確認が難しいとか、商売自由の弊害とか、国家規模での情報統制が必要とか理由はいっぱい考えられるけど、この世界は脳筋思考だから立地とかあまり考えないのかもしれないね」

「むぅ。そういう事なのでござるか…」


 そんな感じで二人は話をしながら街中を歩いている。


 この2人、転生者であるが見た目は10歳程であり、外見的には子供同士で遊んでいるように見える。

 しかし喋っている内容が妙に高度であるから周囲からは少し浮いているのだが、本人達は全く気にしていないようだ。

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お読みいただきありがとうございます(*ᴗ͈ˬᴗ͈)ꕤ*.゜


是非【高評価】と【ブックマーク】をよろしくお願いします。


励みになります。応援よろしくお願いします


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