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042 壱章 其の肆拾弐 すれ違う宿命

 マルボはラークの肩を掴み必死で呼びかけるが返事は無い。


 突如、黒い炎の矢がガイオーを襲撃した。

 ガイオーは左手をかざし黒い炎の矢を弾く。


 上空に飛ばされたキャメルが戻って来たようだ。

 キャメルの息切れはまだ続いている。


「ぐっ……」


 ラークが立ち上がった。


「ラ、ラーク!」


 マルボは思わず声を上げる。


「マ、マティは……どうなった?」

「マティは分からない。まだ生きているかもしれない。今は魔族が相手だ」

「そうか。すまなかった」


 ラークは起き上がり短剣を構える。


「あの魔族の能力は分からない。 手をかざすと衝撃波を出せて、目が光ると超能力のような……」


 超能力? 念力か? サイコキネシスか? マルボは一瞬考えを巡らせたがすぐに思考を切り替える。


「分かった。 超能力に気を付けるって事だな」


 ラークが短剣を逆手に持ち、駆け出す。


「ラーク! 無理しないで!」


 左手で大丈夫だと合図しながら、短剣を上段に振り下ろすラーク。

 ガイオーはケントの相手をしながらも、ラークの動きを目で追っている。

 やはりラークを警戒していた。


 ラークは短剣を振り下ろすと見せかけ後ろに飛び退く。

 対応しようとしていたガイオーはすかさず動きを変える。


 そこにケントがヘイトスキルを作動させる。

 ガイオーが振りむいたところに熱線が飛んでくる。

 ワカバが連携のタイミングを覚えて上手く合わせてくれたのだ。

 ガイオーの目が光る。

 今度はガイオーが消えて別の場所に現れた。


 テレポーテーションを自分に使ったかのような移動の仕方だった。

 マルボはマティの近くに移動していた。


 ガイオーが目を光らせた直後にマティに浄化魔法を掛けるため魔法陣を展開する。

 超能力のインターバルがあるなら、その間が狙い目だ。


 マティの褐色になりつつある肌が少し白くなった気がする。

 助かるかもしれない。

 希望が出てきた。


 そしてもう一つの希望がマルボの視界に入った。

 下方の山林から土煙が近づいてくる。


「くっ!!奴かっ!」


 土煙を見たガイオーの表情がはじめて動いた。

 焦りが見えてきた。


 ラークも気付いたが攻撃の手を緩めない。

 ガイオーの左手がラークに向けられた。

 ガイオーの左手の衝撃波。


 しかし、ラークは右にステップを踏み見えない衝撃波を避けたのである。


「なんだとっ?」


 さすがのガイオーも驚きの声をあげた。

 ラークの感知スキルはガイオーの衝撃波を感知していた。


 ラークの短剣の一閃。

 衝撃波を出した直後だったので、避ける事は出来なかったガイオー。

 致命傷には至らなかったが左上腕部を切りつける事が出来た。


 その瞬間ラークとガイオーの視線が交差した。


「お前……日本人だろう」


 ラークの口から思わぬ言葉が出た。

 ガイオーはラークの言葉に眉をひそめた。


 一瞬の沈黙、その沈黙の間がガイオーにとって致命的な時間となる。


「遅れてすまぬでござる!」


 ムサシの到着である。


「ちぃっ!」


 ガイオーは大きく飛び退いて距離を取った。


「ムサシ、あいつは魔法と違う妖術を使う。気をつけろ」


 ラークの言葉にムサシは静かに答える。


「承知したでござる。 拙者が仕留めるでござる」


 うまい!! ムサシに超能力を何と説明しようか考えていたマルボは、ラークの『妖術』という言い回しに感心したのだが、今はそれを言っている場合ではない。


 ムサシの背後ではケントが戦斧を構え、アーサーヴィルが左から砲身をガイオーに向けている。


「キャメルーーッ!!」


 マルボが大声でキャメルを呼んだ。


「こっちへ来てくれ!」


 空中で息を切らしているキャメルはハッとして、マルボ達の方へ移動する。


「お姉ちゃん治るの?」


 キャメルはマルボの横に立つと、心配そうな顔を見せた。


「ごめん。 正直分からない。 でも、全力でやるから力をかしてくれるかな」


 キャメルは黙ってうなずき、精霊達をマルボの魔法陣に配置させた。


「ドラちゃん、シャイたん、ウンちゃん、もうちょっとだけ頑張って」


 キャメルがそう言うと3体の精霊達は嬉しそうに魔法陣に強化魔法を流した。


「くっ!凄い魔力だ……」


 マルボの額に汗が滲んだ。

 魔法陣が眩しいくらい輝き出した。


「無駄だ。 もう覚醒は始まっている」


 ガイオーは不敵な笑みを浮かべて言った。

 だが、マルボは負けない。


「やってみなきゃ分からないじゃないかっ!!」


 そう言い放ち精霊達の魔力を浄化魔法に乗せた。


 正眼の構えからムサシが仕掛けた。

 ガイオーは左手をかざし衝撃波を繰り出す。

 上段から「ハァァッ!」と掛け声を発しながら振り下ろす。

 ムサシの上段からの攻撃はガイオーの手前で止められたかに見えた。


 ギィィィィンッ!!という衝撃音と共に空中にヒビが入る。

 そのままムサシが木刀を振り下ろすと逆にガイオーが吹っ飛ばされた。

 地面を削りながらもなんとか踏み止まり体勢を整えるガイオー。


 目を見開いて驚いた様子だ。

 ラーク一同も驚いた。というよりドン引きしている。

 ムサシの木刀はガイオーの衝撃波を打ち消した上に、逆に衝撃波を出して飛ばしたのだ。


 全身全霊の、ただの素振りによって。


「これほどまでとは」


 ガイオーは呟いた。

 ムサシとガイオーの間合いは10メートル弱。


 ムサシは脇差を抜き二刀の構えに切り替えていた。


 ガイオーにはまだ籠手がある。

 攻撃の衝撃を全て反発させる、黒い三連魔人が使っていた籠手である。

 ガイオーは左手のみ、この籠手を装備している。


 ガイオーは間合いを一気に詰めてきた。

 左手を地面に向けて、衝撃波を出す。

 ボンッという音とともに土煙が舞う。

 目が光りテレポートでムサシの背後に回る。


「貰った!」


 ガイオーは右手のブロードソードを振り下ろす。

 ムサシは右回転と共に木刀でガイオーの攻撃を受け流した。

 バランスを崩したガイオーにムサシの脇差木刀が襲ってくる。

 咄嵯に左の籠手でガードする。


 一瞬ガイオーに笑みが浮かぶ。

 籠手で反発させればバランスを崩すのはムサシだ。


 だが、刹那の後に、ムサシの右手の木刀が上段より振り下ろされた。


「でやぁぁぁっ!!」


 掛け声と共に黄金に輝いた木刀はガイオーの籠手の上にある木刀に重なる。


 轟音と共に籠手を粉砕しガイオーの左前腕を折った。


「グワァァアアッ!!!」


 苦痛に顔を歪めるガイオー。

 折れた左手を庇いながらも、後ろに跳躍して距離を取る。


 位置が入れ替わりガイオーはムサシとマルボ達に挟まれる形になっていた。


 マティに浄化魔法を掛けているマルボの前にはケントがいる。


 だが、この劣勢時にガイオーは笑みを浮かべた。


「俺達の勝ちだ」


 突然ガイオーが勝利宣言をすると、両手を空に向かって突き出した。


 その仕草の意味を知る者は誰もいなかった。


 ただ、次の瞬間ガイオーを中心に強烈な衝撃波が発生する。


 ムサシは衝撃波を木刀で打ち消し、ラークは反射的に範囲外に逃げ、ケントは咄嗟にキャメルを抱き抱えるようにして地面に伏せる。


 アーサーヴィルは衝撃波に耐え切れず吹き飛ばされてしまった。

 マルボは浄化魔法を中断させられてしまい、後方へ飛ばされてしまう。


 衝撃波を放ったガイオーは膝から崩れ落ちた。


 今の衝撃波に全エネルギーを使ったのか、意識を失っているようだ。

 吹き飛ばされはしたが、大きなダメージを受けるような衝撃波でもない。

 技を放ったガイオー本人は意識を失っている。


 何を目的とした技なのか分からなかった一同は呆気に取られていた。


「マティは?マルボは?」


 ラークがハッとして辺りに探知スキルを広げて確認する。


「!!!」


 ラークの目は岩山の上に向けられた。

 ムサシも同時に見上げる。


 2人の視線の先にマティを抱えた少年が立っていた。

 見た目は10代前半にしか見えないが、その目には底知れぬ力を感じた。


 この世界では転生者がいるので年齢は関係無い。


 見下ろす視線の威圧感は尋常ではない。


 ガイオーと同じ籠手を両手に装備している。


 そして腰に差してあるのは、どう見ても日本刀である。


 ムサシとラークは合流してから情報交換をしていない。

 その為ラークは気付いていない。

 ドライアドの情報より1人多いのである。


 ドライアドの言っていた反応は5つであった。

 魔神サルワを含めればガイオーと三連魔人で5つ。

 この少年は数に含まれていない。

 ドライアドが魔力を感知できなかったのか、何かしらの方法で現れたのか……


 しかし、目の前に突如現れた事実には変わりはない。

 ケントは、力を使い切って気を失っているキャメルを抱えたまま、ワカバは倒れたアーサーヴィルから降りて、少し遠くに飛ばされたマルボもラークのもとに集まってきた。


 少年から目を離さずにラークは言う。


「大丈夫か?マルボ」

「なんとか。 それよりこいつ魔力を感じないけど、どういう事?」

「おそらく、魔力を完全に遮断しているでござる」


 ムサシが答える。


 少年が口を開いた。


「儂とすれ違う者よ。 汝との宿命が交差する刻は迫っているようじゃ」


 声は低く重かった。


 ムサシは木刀を中段に構えた。


 10数メートルほどの岩山に立つ少年は右手を上に差し出す。

 先程まで魔力を感じなかった少年から強烈な魔力が発生する。

 3つの禍々しい色の魔法陣が出現した。


「いでよ魔神アジ・ダハーカ」


 3つの魔法陣から巨大な龍の頭がゆっくりと姿を現した。

 その姿を目の当たりにしたラーク達は言葉を失っていた。


 1つの龍の頭がマティを飲み込み魔法陣の中に消えて行った。

 もう1つはガイオーを飲み込み消えた。


 残ったのは、真ん中の頭。

 そして少年が刀を抜いた。


 抜いた刀の刃に左手を添えながら少年は口を開き何か喋り始める。


人間(じんかん)五十年」


「!?!?!?」


 この唄を知らない日本人は少ないかもしれない。

 ラークとマルボ、ムサシも知っているのか、息を飲む。


「下天の内をくらぶれば……」


 一言喋る、いや、唄うごとに魔力が膨大に上がって行くのが分かった。

 その膨大さは今まで感じた事が無い大きさで膨れ上がっていく。


 ムサシ達は戦闘態勢に入る。

 少年は詠唱を続けている。


「夢幻の如くなり……」

「退避しろーーっ!」


 ラークが叫んだ。


 少年の膨大に上がっていく魔力の危険度をラークは感知した。

 ラークの声に反応したマルボ、ワカバ、そしてキャメルを抱えたケントは一斉に散開した。


 ムサシは動かない。


「ムサシっ!」


 ラークが叫ぶ。


「受け返すでござるっ!ラーク殿は離れていて下され」


 ムサシはラークに後退を促す。


「一度生を享け滅せぬもののあるべきか」


 呪文の最終節を唄い終え少年は上段から刀を振り下ろす。


「第六天魔衝撃!」


 剣先から放たれたのは闇を凝縮したかのような漆黒の波動。


 ムサシもそれに対して下段から木刀を斜め上に振り上げた。


「でやぁっ!!」


 掛け声と同時に振り上げた木刀は眩いほど黄金に輝き漆黒の波動と衝突する。


 ぶつかり合う波動同士は拮抗し押し戻そうと反発し合った。

 少年は、ムサシを見ながら笑みを浮かべた。


「すれ違いし宿命よ。 ここで消え去って貰っても、儂は構わぬぞ」


 少年は笑みを浮かべながらムサシに言った。


「ぐぅ……」


 ムサシは歯を食いしばって耐える。


「確かに、お主の正体が、拙者の知っている者ならば、前世ではすれ違いのように拙者は生まれたでござる」


 ムサシの足下が沈んでいく。


「拙者はお主の事を聞いた話でしか知らぬ。 だが、拙者の知っている者であるならば、人々の為に生きたはずの者でござる。 何故、人間の敵として存在するでござるかっ!」


「人間は常に裏切りを続けるぞ」


 岩山からの上段の振り下ろしと、下段からの切り上げの攻撃では後者の方が威力が弱いのは常識だと言えるだろう。

 だが、ムサシは負けじと木刀を震わせ漆黒の波を押し返そうとしている。


「それが人の敵になった理由でござるか」


 ムサシの額から汗が滴る。


「だぁりゃぁっ!」


 木刀から左手を離し咄嗟に逆手で持った脇差を振り上げる。


 黄金に輝く脇差は、光を放ちながら漆黒を切り裂くように上空へと打ち上がった。

 漆黒は霧散した。


 だが、少年と龍の頭の姿は消えていた。

 魔法陣も消えている。


 気配を探っても何も感じられなかった。

 ムサシがラーク達の方に向き直ると、皆こちらに向かってきていたが、その表情は一様に困惑している。


「ラーク殿、すまぬでござる。 拙者ラーク殿の指示に従わなかったでござる」

「退避に関してか? いや、あれはムサシが相殺しなければ、俺達に被害が及んでいたかも知れなかった。俺の指示に問題があった」


 ラークは気にするなと言わんばかりに右手を上げて答えた。


 そして手を腰に当て天を仰いだ。

 暫く沈黙が辺りを包む。

 誰も喋らない、喋れないのだ。


 魔族達はこの島から去って行ったのだろう。

 リゾットの大型クエスト、チョパイ島の魔族討伐。

 撤退という形であるが結局ラーク達だけで達成した事になった。

 そして、魔神サルワを討伐するという快挙も成し得た。

 しかし、喜びはない。


 謎の少年の脅威とあの唄。

 魔神アジ・ダハーカの存在。

 ガイオーという魔族も復活するだろう。

 そしてエルフの勇者マティは…。


「とりあえず、エルフの里に戻りましょうか」


 ケントが言った。


「そうだな。気が重いが里に戻って報告しよう」


 ラークの言葉に全員が同意した。

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