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039 壱章 其の参拾玖 犬娘三姉妹の恐怖

「ベル兄、何か近付いて来てじゃん」


 犬娘三姉妹のホープが何かに気付き警戒する。


「どこから何人来てるかわかるか?」

「3人よ。左の方から来てるわね。このままだと数分で遭遇するわ」


 ベルモートの問いにピースが答えた。


「上に登るぞ!全力だ」


 ベルモートと犬娘三姉妹はムサシと別行動後、山林を登ってエルフの里を目指している。


 この森は危険すぎた。

 本来、このクエストはラーク達抜きのリゾットのライセンサー70人で攻略する予定だった。

 しかし、その70人にキオンジーにダメージを与えられる者がいるのだろうか。


 魔法使いなら可能性はあるだろうか。

 強すぎる魔族は3人いる。更に別の存在が2つあるという。

 その魔族達はキオンジーより強いのであろう。


 討伐隊リーダーのモヒートに報告をした結果、完全に目算違いである事を認めた。

 本部に報告し連絡を待つ間、討伐部隊は探索と補給を主に行う事になった。


 だが、本部の返答次第では国中のA級ライセンサーの魔法使いを集め大規模合成魔法で森ごと攻撃する可能性があるという。

 最悪エルフの里や精霊にも被害が出る。

 それはそれで戦争の火種になるかもしれないのだ。


 ベルモートはラーク達に報告する為、何としても今夜の会議に参加しなければいけない。

 ムサシでは、まだ知らない言葉が多い。

 だが、エルフの里に向かっている途中、同行するムサシが違和感を感じた。

 ムサシのみならず犬娘三姉妹、ベルモート自身も禍々しい力を感じ取っていた。


 そこでムサシに先行して貰ったわけだが、最悪の事態に遭遇する。

 3人の気配がベルモート達に近付いてきている。

 強すぎる魔族しかありえないのである。


「ダメよ!前に魔物の気配が!」


 駆け上がるベルモート達の前方から魔物の匂いをピースが感知した。


「何がいる?」

「たぶんウェアウルフじゃん」

「このまま突っ切るぞ」


 ベルモートが先頭に出て駆け上がりながら大剣を抜いた。


 エルフの里で貰ったミスリルの大剣である。

 想定通り正面からウェアウルフが現れた。

 咄嗟に三姉妹が散開しウェアウルフの意識を分散させる。

 その隙を見逃さずベルモートが大剣でウェアウルフを一刀両断し、そのまま駆け上がっていく。


「神樹までは全力で走るぞ。もう少しだ」

「差が縮まってきたわよ。こっちが走ってるのに気付いたようね」

「ちょっとキツいじゃん」

「ウケるー」


 ピース、ホープ、ラッキーの順に愚痴りながらもペースを上げていった。


 ムサシの開けたクレーターが見えて来た。

 エルフの里まではもう少しだ。

 しかし、体力の限界である。

 息が完全にあがっている。

 犬娘三姉妹も足取りが重くなってきている。


「お前達はクレーターの中に隠れろ」

「はぁ?」

「俺が時間を稼ぐ。 体力が少しでも戻ったら里まで駆け抜けろ」

「バカ言うなじゃん。 ベル兄1人でどうにかなる相手じゃないじゃん」

「いいから、行けっ!」

「ふざけないでよねっ! いつも勝手に兄貴面して! わたし達ベル兄に感謝なんかしてないんだからね」


 ピースの言葉が終わる前にベルモートは3人をクレーターに突き落とした。


 そして振り返り、魔族3人が向かってくる方向に足を進める。


「人間か・・・」

「こんな場所に人間がいるのは不自然だ・・・」

「他にも気配はあったはずだが・・・」


 ベルモートの前に現れたのは、赤い髪の男3人である。


 3人とも黒い服にマントを身に付けており、黒一色の出で立ちであった。

 3人共70センチメートル程のブロードソードを持っている。

 際立っているのは肘から手の甲までを覆った半籠手である。

 この世界では西洋の鎧のようなデザインが主流であるが、日本の甲冑に似ているデザインであった。

 盾代わりなのだろうが、盾より動きに制限がない分戦いやすいかもしれない。


「仲間と離れて何をしている? 人間・・・」


 1番右側にいた男が聞いた瞬間、ベルモートが仕掛けた。

 数日とはいえムサシの訓練を受けている。

 初速が速い。


 そのスピードに乗せて剣を振るうのだが、籠手でガードされてしまった。

 ベルモートは後方に飛び退いて距離を取る。

 ベルモートのミスリルの大剣と魔族の籠手がぶつかり合った衝撃でベルモートの手は痺れていた。


 違和感を持つ。

 衝撃が全て自分に跳ね返って来たように感じたのである。


 ベルモートは強いのである。

 大都市リゾットで最強の一角と言われても自惚れる事なく鍛練を積んできた。

 魔人化できるギムレットとも対等に戦える猛者である。

 ミスリルの大剣を手にした今であれば、キオンジーにもダメージを与えられたであろう。

 つまり、今回のクエストメンバー70人の中で最強のはずである。

 もちろんムサシやラーク達は除くのだが。


 しかし、この目の前にいる男はレベルが違うという事だけはわかる。

 おそらく自分よりも遥かに上だと言う事も。


「なかなか良い太刀筋だな・・・」

「死ぬ前に一つだけ聞いておこう・・・エルフの里はどこにあるか知っているか?・・・」

「!!!」


 その一言で魔族の目的はエルフの里にある事を知る。

 だが、僅かに反応してしまった挙動を魔族達は見逃さなかった。


「その反応・・・知っているようだな・・・」

「さて、教えてくれるのか・・・それとも死を選ぶのか・・・」


 魔族はブロードソードを構えたままゆっくり近付いて来る。

 選択肢などあるはずもない。


「知らん!そんな里の事なんて知らない!」


 そう言って構え直した時だった。


「こいつの相手なら1人で十分だろう・・・マシュロ相手をしてやれ・・・」


 中央の魔族がブロードソードを鞘に仕舞い、周りを見渡し始めた。


「他にもいるはずだ・・・」

「確かに追いかけている時に何人かいたはずだな・・・」


 もう1人の魔族もブロードソードを鞘に仕舞い周りを見渡し始める。

 他の気配を探っているのだろう。


「隠れている奴もエルフの里を知っているかもしれないが・・・その男を殺すなよ・・・」

「わかっている・・・」


 マシュロと呼ばれた男以外の2人がクレーターに向かって歩き始めた。


「あの穴か?・・・」


 犬娘三姉妹はクレーターの中で身を屈めて震えていた。

 ホープ、ピースは涙を流している。

 ラッキーは泣いていないが、目を真っ赤にして下唇を噛み締めている。


 皆、恐怖を感じていた。

 本能が3人の魔族の強さを感じ取っているのだ。

 少しずつ近づいてくる2人の魔族。

 感知力の高い三姉妹にとっては死神が近付くのと同じぐらい恐ろしいものである。

 先程恐怖で動けなかったキオンジーを超える圧倒的な威圧感を三姉妹は感じていた。


「あなた達、わたしが飛び出したら逃げるのよ」


 ピースが意を決したように呟いた。


「馬鹿じゃん。どうせ殺されるじゃん」


 ホープは3人で逃げるという意味に受け取ったのだが


「わたしが、あいつらに向かっていくから、あなた達は逃げるのよ」

「えっ?」

「ウケる?」


 涙を流し震える唇で言うピースの言葉にホープとラッキーは理解が出来ないでいる。


「それじゃ、ピースが死んじゃうじゃん。 あんなのに勝てるわけないじゃん」


 その通り、ピースは自分が犠牲になる事で隙を作り2人を逃がそうとしていた。


「ウケるーーーーーっ!!」


 ラッキーが突然クレーターを飛び出し魔族に襲いかかろうとしたのである。

 ラッキーはピースの意図を読み取り、自分が犠牲になる事を選んだ。


「ラッキー!!止めなさい!!!」


 彼女達は愛をしらない。大切な人も大切な物も無い。

 実の親に売られ、育ての親に利用され、命のやりとりを強要された。

 誰も信じず、世を恨み、文句を言い、ただ生きる為に生きてきた。

 そんな彼女らにとって唯一大切な存在はお互いだけである。

 どんな理不尽な扱いを受けても互いの存在だけが心の支えであり、絆となっていた。

 その絆が今のラッキーの行動に繋がってしまったのだ。


「ラッキーーー!!」


 ホープもすぐに飛び出す。

 ピースは出遅れたが直ぐに後を追う。

 だが、向かってくるラッキーにブロードソードを抜き魔族はカウンターを合わせる構えを見せた。

 切られる! タイミングは完璧である。


「ラッキーーーーッ!!!」


 ベルモートが声を出した瞬間、ギィィンッ!と激しい金属音が鳴り響く。

 同時にブロードソードを抜いた魔族が後方に飛ばされ倒れた。


「何?・・・」


 一瞬の事で状況がわからなかったが、どうやら誰かがラッキーに向けた魔族の攻撃を受け止めたようである。


 魔族とラッキーの周囲は土煙で包まれていて姿を確認する事はできなかった。


「ウケる~」


 ラッキーは涙を流しながらへたり込んだ。


「師匠~」ピースはその場で崩れ落ち「遅いじゃん!師匠が置いてくから死ぬとこだったじゃん!」ホープも泣き崩れた。


「すまなかったでござる。ラッキーも下がっているでござるよ」


 土煙が晴れていくとそこにはムサシが立っているのが見えた。

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