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038 壱章 其の参拾捌 ラークとマルボの魔神対策

 その後は何も無さそうだという事で洞窟から出てきた2人。

 ラークをチラッと見るマティの様子を見てワカバは「あら?あらあら?」と女の勘を働かせる。


 マルボもここで茶化しに来るはずなのだが、険しい顔をしながら探知魔法を使っていた。


 マルボの様子を見てラークは声を掛ける。


「何かあったのか?」


 少し緊張感が走り皆も気を引き締めた。


「分からない。分からないけど、何か違和感を感じる」


 マルボは探知魔法を解いて立ち上がった。


 周辺に緊張感が漂う。


「テンプレ通りかな。何か起こるよ」


 マルボが言う。


 感知スキルをラークが発動させる。


「なんだ、この感覚は……」


 ラークも違和感を感じ警戒し始めた。


「皆、臨戦態勢を取れ!何か嫌な感じがする」


 ワカバ、キャメルそしてマルボもアーサーヴィルに乗り込み、ケントも盾と戦斧を手にとって臨戦体制に入る。

 マティもミスリルソードを抜いた。


 マルボがキャメルに話しかけた。


「キャメルは敵が出てきてもピンチになるまでは攻撃しないでね」

「なんでー?」

「防御に専念してほしいんだ。精霊さん達と協力してワカバと僕を守ってね」

「うん」


 本音は切り札として攻撃して欲しいと望んでいる。

 このメンバーで最高戦力であるキャメル。

 最初からその力を見せてしまうと相手はそれに対応して動く。

 だが、最後までその力を見せなければ必ず油断が生じるはずである。

 その時までキャメルの力を見せたくない。

 切り札は最後まで使わないというのがマルボの考えであった。


 やがて、何かが来た感覚が全員に走る。


『まさかこれだけの数のキオンジーを倒す人間がいるとは』


 頭の中に直接声が聞こえてくる。

 声が聞こえるというより、言語ではない伝えたい事が直接頭に入ってくる感じ。

 以前アマルテアと会話をした時に似ている。

 アマルテアとの違いは優しさではなく、禍々しさを感じること。

 この頭に直接聞こえる言葉でラーク・マルボ・ケントは確信する。


 魔神が現れるのだと。


『だが、目的のモノは見つかったようだ』


 突如目の前に魔法陣が現れた。

 禍々しい気配が魔法陣から溢れ出す。

 魔法陣からゆっくりと現れた存在は、漆黒のローブに身を包みこんでいる。

 フードで顔を隠し、口元しか確認出来ないが、顔を見た途端に背筋に悪寒が走る。


「何者だ?」と言う前にラークが攻撃を仕掛ける。

 短剣で懐に入り心臓に突き刺そうとするも、手刀で弾かれた。

 すかさず、ラークは後方に飛び距離を取りながら、短剣に魔力を込める。

 柄が伸びて黒ローブの魔神に向かって短剣の刃が襲う。


 その攻撃を避けるが、今度はアーサーヴィルのサポートシートに乗るマルボから魔法攻撃がされる。

 切れ味の鋭いウォーターカッター。

 黒ローブの魔神は右手を差し出すと右手の前に禍々しい赤紫色の魔法陣が出現しウォーターカッターをかき消した。


 ケントがヘイトスキルを発動させる。

 知恵があり、魔力の高い者にヘイトスキルは効き辛い。

 だが、敵対する者には一瞬意識を向けさせる効果がある。


 黒ローブの魔神は一瞬ケントを見る。

 その一瞬の隙を突いてラークが再度攻撃を繰り出す。

 黒ローブの魔神は霧になって姿を消して別の場所に現れた。


「瞬間移動、理論はわからないけど、そのくらい想定内」


 マルボはすかさずウォーターカッターを繰り出す。

 またも魔法陣でかき消す黒ローブの魔神。


『面白い!この世界で我を楽しませてくれるか』


「ワカバ、動かして」


 ハッとしたワカバはアーサーヴィルを動かしはじめた。


「ごめんなさい」

「大丈夫、それより集中して」


 マルボは落ちついてワカバに優しく囁いた。

 余裕があると安心させる為だが、マルボの背中は冷汗を流している。


 キャメルは悪き者と察したのか真剣な表情をしている。


『我はサルワ、秩序を破壊する神なり』

「ふんっ。神の割に自己主張が強いんだな」


 ラークは魔神サルワに対して言葉で煽る。


 マルボは「おかしい」とは言わない。

 こんな事があり得る事を何度も想定してきた。

 それが今、起こっているだけである。


 魔神が現れた事に動揺しているのはマティだけであるが、サルワとマティの間にケントが割り込み壁となっている。

 アーサーヴィルの砲身から熱線が発射された。

 サルワは左手を前に突き出し魔法陣を展開したが、熱線は魔法陣では消せないと察したのか姿を消した。


 ラークは感知スキルでサルワを捉えている。

 出現したサルワに攻撃を仕掛ける。

 ローブを切り裂くが本体には傷ひとつ付いていない。


『お前は何だ?』

「気になるのか?神様が人間の存在に?」


 魔神相手にも冷静に煽るラークである。


 一瞬ラークの言動にイラついたようだが、すぐにニヤリと笑うサルワである。

 だが、その一瞬の隙を見逃さずケントがヘイトスキルを発動する。


 動揺に合わせたヘイトスキルは大きくサルワを振り向かせる事になった。

 その隙を狙ったのか炎がサルワを包み込んだ。

 先程マルボが地面に書いた魔法陣が炎を発動させたのだ。


『ふんっ!』


 サルワは右手を上げ空間に亀裂を入れると炎を吸い込ませた。

 黒いローブが焼き尽くされサルワの姿が現れた。


 2メートル程の長身で、痩せた人間のような姿。

 肌は蒼白で病的な光沢を帯びているかのようだ。

 神とは言うが、神々しさは全く感じない。

 骨が透けるような細い手足は、不自然に曲がりくねっており、関節部分からは異様なほどに長い指が伸びている。

 顔は凝視する者を恐怖に陥れ、目は深く沈み込み、黒く歪んでおり、瞳は無機質な光を宿しているように見える。

 そして口元は常に笑みを浮かべており、歪んでいて邪悪な印象を与えている。


「魔神様と言っても防戦一方だね。口だけかな?」

『減らず口を!』

「口の数は常に一個だ。バーカ」

「魔神ってのは脳味噌足りてないんだなっ!」


 ラークとマルボは煽りながら攻撃を仕掛ける。


 ラークとマルボが考えた魔神対策であった。


 ヘカトンケイルと戦闘後、魔神には知能があると判断をした2人はその知能を思考に使わせるという対策を考案した。

 いかに魔神といえども思考に脳を使わない訳が無いだろう。

 脳を使わせれば行動は単純化したり、隙が出来る。


 隙が出来たらケントはヘイトスキルを、ワカバは攻撃をという作戦を立て実行したのだった。

 しかし、それではアーサーヴィルの後ろに乗るマルボはともかく、ラークは単純な動きになってしまうのではないかと心配すると、「通常運転だ。問題無い」と、まさか戦闘で突っ込みの技術が役に立つとは思ってはいなかった皆であった。


『おちょくりおっていられるのは今のうちよ』

「おいおい、神様ともあろうお方が言い返す事すら出来ないのか?俺はディベートするくらいのつもりで楽しみにしていたんだがな」

「ラーク、魔神にディベートなんて言葉分からないよ」


 なんとなくサルワが泣きそうな顔をしている気がする。


 ワカバは思う、本当の悪魔はラークとマルボの方なのではないかと・・・


『いい加減にしろ!貴様らに用は無い』

「だったら、早く倒しちゃえばいいんじゃない?」


 マルボはサルワの言葉にいちいち返答をする。


 サルワの顔は怒りの感情が見え隠れしはじめていた。

 サルワの怒りに合わせて周りの空気が振動しているように感じる。


『遊びの時間は終わりだ』


 サルワが右手を高々と上げると、上空に禍々しい赤紫色の魔法陣が現れた。


「甘いっ!」


 魔法陣を見た瞬間、マルボがウォーターカッターを繰り出して魔法陣を破壊した。

 シャウト効果と瞬発魔力を掛け合わせたマルボのウォーターカッターが、サルワの攻撃を止めて見せた。

 マルボの行動に驚くサルワに、次の一手が早い。


「オルァァッ!」


 猛々しい声と同時にケントがヘイトスキルを発動した。

 ケントはヘイトスキルにシャウト効果を乗せたのである。


 ドスンッ!


 ケントに振り向いたサルワを後ろからラークが槍で貫いた。


『グハッ』


 胸を貫かれたサルワは膝をつくと、そのまま崩れるように倒れ込む。


「どうだ?」


 距離を取ったラークが呟いた。


『ふははははははは、見事!だがな!神たる我を倒す事は出来ぬ』

「神、神、うるせえよ。この貧乏神がっ!」


 サルワの周りに結界がはられ魔力が増大していく。


「第二形態ね。想定済どころかテンプレ通り」


 マルボは空中に超高熱領域を作り始めた。


「ワカバ、ここから僕は魔法に集中する。回避運動は任せるよ」

「はい」

「キャメル、まだ防御に専念よろしくね」

「うん」


 ラークはサルワから目を離さず、マティの前に立ち声を掛けた。


「動けないなら里に戻れ」


 ラーク→邪魔だから戻れ。

 マティ→危ないから俺達に任せて戻れ。俺はお前を傷付けたくない。

 マティの頭はお花畑であった。


「で、でぇじょぶだ!オラもやれるだ」


 ちょっと顔を赤らめるマティ。


『この姿を見ても尚、戦うと言うのか人間共めっ!』


 サルワの体から、禍々しく強大な力が解放されるかのように溢れ出す。

 今まで以上の圧力を感じる。


 その時ズドドドドと爆音と共に後方の森から土煙を上げて何かが近づいて来た。


「何?」


 ラークがそれに気付いて声を上げる。


 このタイミングでサルワの変身が終わる。


『見るがいい、このすがぺっ』


 ドゴーーーーーーン!


 近付いて来た者がそのままサルワに攻撃をした。


 サルワは吹っ飛び見事洞窟の中に入りゴンッゴンッゴンと数回衝撃音が辺りに響く。

 洞窟内でピンボールのように跳ね返っているようだ。


「……」

「……」

「……」

「あ!ムサシ君だっ」キャメルが手を振る。


 ムサシが駆けつけて早々に木刀でサルワを殴りつけたのであった。

 ここにいないはずのムサシが突然現れた。


 ムサシ1人ならあり得るがベルモート達がどうなっているのか恐ろしくて皆口を開けないのである。

 まさか途中で置いてくるなんて事は無いだろう……

 ベルモート達だけでこの山林を移動するのが危険だからムサシが同行したのだから。


「あの、ムサシさん何でここにいるんですか?」


 一番に口を開いたのはケントである。


「遅くなってすまぬでござる。拙者胸騒ぎがして急いで駆けつけたでござる」

「……」

「……」

「……」


 皆が、誰か聞いてくれという空気で口を開かない。


「モヒートさんへの報告は?」


 またもケントが尋ねた。


「しっかりベルモートが話てくれたでござる」

「……」

「……」

「……」


 一番聞かないといけない事をラークはワカバに『聞け』と目で訴える。

『え?わたし?』と一度否定するもラークの目力に押されワカバが聞いた。


「そ、そのベルモートさん達はどうしたの?」

「うむ、森の中に置いて来たでござるよ」

「駄目だろーっ置いて来ちゃ!」


 ラークがついに突っ込んだ。


「む、いや、ベルモートが大丈夫だから先に行けと……」

「ベルモートはそう言うだろうけど、この山林であいつらだけになるなんて絶対ヤバいだろ!」

「むむっ」

「むむっ、じゃねーっ、せめてエルフの里に置いてくるべきだろーっ」

「そ、そうでござるな。すぐ戻るでござる」


 ムサシは山森を凄まじいスピードで駆け降りて行った。


「ついでに後2,3発殴ってって欲しかったかな」

「まぁ、結構なダメージ与えてくれたみたいだぜ」


 マルボ、ラークは洞窟から出て来たサルワを見て言った。


 ムサシのおかげでかなりダメージを負っているようで、変身前の姿に戻っていた。


「そんじゃ、第2ラウンドといきますか」


 ラークの掛け声とともにメンバーが臨戦態勢に戻す。


『人間如きが神の力を持つ我に逆らうか!思い上がるなっ!』


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ディベートとは特定の論題について、あえて異なる立場に分かれて議論をする手法のことです。 具体的には、自分の意見に関係なく肯定・否定グループに分かれ、相手側もしくはジャッジと呼ばれる第三者に対して、理論的に説得を行います。


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