036 壱章 其の参拾陸 マティへのプレゼント
ラークは里を拠点にしたい事を相談しようと思い、ふと大事な事を思い出した。
「あ、いかん。ワカバ、あれを」
「あ、はい!」
素敵な紙袋がアーサーヴィルの荷物入れから取り出された。
『C.A』と書かれた紙袋はエルフ達に神々しく見えるのか、注目を集め出した。
里長に、これをエルフの勇者マティへの贈り物として持ってきたとラークは伝えた。
一瞬で仲良しになったマティとキャメルは手を繋いだまま里長の近くにやってきた。
勇者同士は引き付けあう何かがあるのだろうか。
一緒に紙袋の中を除く数人のエルフ達は、興味津々に眺めている。
マティが紙袋の中から箱を取り出した。
「な、なんだべこの箱はーーーっ!!」
「C.Aって書いてあるだーー!」
「眩しい!眩しいだべーーっ!!」
「そこからかよっ!!」
箱の時点で大騒ぎのエルフ達に突っ込まずにはいられないラーク。
中身を見てもらわないと話が進まないのだが、既に興奮状態になっているためラークがマティに箱を開けるように説明をした。
「な、中にも何か入っているだか…おめえ、こんな素敵な物をオラにくれるって…どういう魂胆だ?」
「いや、違う…そうじゃない…」
ラークが必死に誤解を解こうとしたが、箱を大事に抱えながらも警戒態勢をとるマティ。
ラークの言葉は届いてはいなかった。
ラークが焦っている中、キャメルが皆で選んだから開けてみてと説明する。
「んんだっーーーーー!?!?!?」
箱を開けると金細工で綺麗に加工されたネックレスとC.Aとお洒落に加工されたペンダントトップ。
CとAの間の点に精霊石が埋め込まれたチョパイアクセンツ (Chopai Accents)のネックレスであった。
一斉にエルフ達はネックレスに向かって拝みだした。
ウンウン分かるわ。と頷いているワカバ。
何を分かっているんだ、にわかがっ!と突っ込んでいる余裕もなくラークはエルフ達の対応にあたふたしていた。
見兼ねてマルボが、キャメルに耳打ちをする。
「お姉ちゃん着けてみてー」
「こ、これをオラが着けるだか?本当にオラにくれるのか?いいのか?本当にいいのか?」
言葉とは裏腹に、もう絶対渡さないという強烈な意思を感じる。
マティがネックレスを着けるのに戸惑っていたためワカバが手伝ってあげた。
ネックレスを着けると更にマティの姿は神々しく見える気がする。
マティはネックレスにうっとりしている。
ワカバはラークを見て「ほら、見ろ」と言わんばかりのドヤ顔をする。
もう、ラークは考えるのをやめた。
エルフ達はまたもマティに対して拝み始めた。
確かに魅力的である。
エルフの整った容姿、美しく長い銀髪。
他種族の勇者を愛するというのも分かる気がする。
喋らなければ……
「C.Aって書いてあるべ。Consecrated Aegis って事だべか。守りを神聖化という意味だべ。オラ達の為に人間が作ってくれたんだべ」
『Consecrated』は『神聖にした』という意味を持ち、『Aegis』は『守り』という意味を持つ言葉である。
エルフは森の守護者とも言われ森と共に生きる種族とも言われる。
『C.A』を神聖化した守りという意味で勝手に勘違いし、人間達の認識を変えるべきだとまで言い出してしまった。
『C.A』はChopai Accents チョパイアクセンツの略であるとは言えなくなってしまった。
「うん。そうだね。守りが神聖な存在となるようにだよ」
「やっぱりそうなんだべー。オラ達人間の事を誤解してただよー」
「ありがとう人間達!あんた達はもう親友だべーー」
ついマルボがノリで言ってしまった一言がオオゴトになりそうな雰囲気になってしまった。
ヤバっ!どうしようという顔でラークを見るマルボだが、責任はお前がとれよと目線を送るラークであった。
◆◆◆◆
ラーク達の拠点として使わせて貰える事になったエルフの里。
だが、ドライアドが言た通り、空間的な問題もあり10人が限界であろう。
ラーク・マルボ・ケント・ムサシ・キャメル・ワカバ・ベルモート・犬娘三姉妹ピース・ホープ・ラッキー丁度10人である。
あまり多いと本能的にストレスが掛かるというのもあるらしい。
一区切ついたので今日はもうゆっくりしたいところだが、明日になると討伐クエストが開始されてしまう。
港町のライセンサー達に状況を報告しておきたいところではあるが、戦力を割きたくもない。
ドライアドの話から魔族との対立は避けられそうもない。
また、エルフの里ではキオンジー討伐に困っているらしい。
もう2匹倒したのだが、ドライアドが言うには森の中に後3匹はいるらしいのだ。
まともに戦えるのがマティだけらしく、出来れば手助けして欲しいという。
マティのネックレスに精霊が宿れば1人でも問題無さそうだが、ドライアドは現状神樹から離れるのはデメリットが大きいので不可能とのこと。
確かに広域で状況確認をしたり、里を隠す魔法に力を貸しているので、今、神樹から離れるのは得策では無いのだろう。
この山林で他の精霊を探す時間も無い。
「港町にはムサシに行ってもらうのはどう?」
「拙者、現状をうまく話せる自信は無いでござる」
「私が港町に戻ります。 説明もしっかりします。 ピース達も連れていきます」
ベルモートが言うのだがラークに却下された。
「いや、それは危険すぎる。 正直お前達だけでは山林の魔物と遭遇しても危険だ」
3人の強すぎる魔族、一緒にいるであろう得体のしれない2つの反応、残り3体のキオンジー、港町への報告。
問題が多いがエルフの里の脅威となっている、キオンジーを放っておくわけにもいかない。
魔物は人間に対して本能的に敵対心がある。魔族との対決中にうろつかれても困る存在でもある。
決断をするのはラーク、リーダーの仕事である。
しばらく考えてラークは決めた。
まず、港町へはベルモートと三姉妹にムサシが同行する。
残りのパーティーメンバーはマティと同行しキオンジーの討伐。
今日中に終わらせ明日以降に備えて今夜この里で会議。
今から港町まで行って帰ってくる事に三姉妹はブツブツ文句を言っていた。
正直、港町で残っていてくれた方が助かるのだが……
「マジ魔人は大丈夫でござるか?」
「ドライアドによるとキオンジーに関しては山頂に近いところにいるらしい。 強すぎる魔族は現在俺達とちょうど反対側にいるらしい。 遭遇する確率はどちらかというとムサシ達の方が高いけど、僕達が遭遇しても何とかなると思うよ」
「え?教会の魔人より強いですよね?」
当事者ではないが聞いた話で認識しているワカバが言った。
グリーンヴィルの教会で出会った魔人、A級ライセンサーのタンクがオーガジェネラルの血で魔人化した存在。
苦戦していたところムサシが現れ倒してくれたのだが、ラーク達でも決して負ける相手ではない。
時と条件が悪すぎた事、さらに半日走りっぱなしで回復魔法もろくに掛けず挑んでしまったので苦戦していた。
また、直前まで人間であった事も迷いがあった。
今は違う。
あれから大幅に戦力アップしている。
ラークは新しいマルボ特製の武器と数日で鍛えたムサシ直伝の体捌き。
マルボに関してはシャウト効果と瞬発魔力を多少使えるようになり、室内でなければ戦術の幅が広い。
ケントも日々ムサシと研究して盾の技術が上がっている。
付け加えてキャメルという精霊の力を使える勇者がいる。
ワカバとアーサーヴィルの戦力も未知数ではあるが計算できる強さだろう。
エルフの勇者であるマティも加わるのだ。
ムサシを抜いても、このパーティーで負けるようなら港町に滞在するライセンサーは全滅必死であろう。
「では、早速港町に戻るでござるよ!」
話が決まったと同時に立ち上がるムサシにエルフの里長が引き留めた。
今回キオンジーの討伐と贈り物に対してのささやかなお礼として1本の大剣を持ってきたのだ。
「わお~テンプレ~」とマルボは言っていたが意味はわからない。
ただ、その大剣は少し不思議な形状をしていた。
柄が長く大剣と槍の中間のような物なのである。
ミスリル合金という珍しい合金で作られた大剣で、昔旅に出たエルフが持ち帰ってきたらしい。
「ミスリル?テンプレ!テンプレ!」とマルボは喜んでいる。
こんな貴重な物は貰えないと言ったが、旅に出たエルフが持ち帰った武器はこれだけではなく、いくつかあり、マティの片手剣もミスリルソードらしい。
そしてこの大剣だけは使える者がずっといなかった為、使いこなせそうな人にあげて欲しいとのことだった。
しかし、この大剣を使えそうな者はパーティーにはベルモートだけである。
「ちっ!ひよっこが!」という目で見られているような気がして遠慮するベルモートだが、握っている手はもう離さないという強い意思を感じる。
マティと同じ反応するんじゃねーとラークは言いたげだったが……。
「本当にいいのですか?私が貰ってしまって」
「まぁ、俺達が持っても使えねーしお前が強くなってくれればいいだろ」
「期待してるよ。ベルモートちゃん」
「ベルモートさん、あなたに合った武器です。使いこなしてください」
「ありがたく頂戴するでござるよ」
「はいっ!精進します!」
ムサシ達は里を出て港町に向かっていった。
「そんじゃ、俺達も行きますか」
ラーク達もキオンジー討伐に動き出した。
この日を境にラーク達は神々の最後の戦いに参入する事になる。




