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034 壱章 其の参拾肆 瞬発魔力

「あの魔法はどうなってるんですか?」

「フッフッフ、ベルモート君、秘密事項なのだが特別に教えてあげよう。あれは砂とか土を超高温で熱して発射したものだよ。名付けてマルボビーム」

「土や砂を?」

「まだ、未完成だけどね」

「あ、あれで未完成なんですか?どの辺が?」

「名前……」

「名前?」

「いや、名前……もうちょっとカッコいい名前ないかなって……」

「カッコいいじゃないですか、マルボビーム」

「え?」

「何て美しい響きだ。魔法自体も凄いし」

「え?」


 カッコいいと思うのかよっ!とラークはベルモートに突っ込みたかったがやめておいた。

 ラークはマルボ達と合流しムサシ達との合流地点に向かっている。


 ケントが、先程倒したキオンジーを背負っているので走るスピードは遅いのだが、犬娘三姉妹も体力的に辛くなっていたので丁度良かった。

 このペースでも合流地点まで後30分もあれば着くだろう。


 神樹の付近で、ムサシは魔力のコントロールを兼ねて瞑想している。

 ワカバは体捌きの訓練を。

 キャメルは蝶々を追いかけて走り回っている。


 突如上空より巨大な影が迫る。

 空を見上げたキャメルは、あれは何かな?と不思議そうな顔をしている。

 ドスーンと着地した振動でムサシとワカバは気付く。


 四凶厄災・窮奇キオンジー、先程と別個体であるがまたも現れたのだ。

 ムサシが魔力を消していた為に現れてしまったのである。

 キャメルは蝶々を追いかけてムサシ達と少し離れてしまっていた。

 が、この程度の距離、キオンジーがキャメルに何かする間も無くムサシなら一瞬で詰めれるので問題はない。


 むしろムサシの攻撃の余波の方が心配されるところである。

 ムサシが立ち上がったのを察して精霊達が精霊のマントを介しキャメルを空中に退避させ防御結界を張った。


 ムサシはキオンジーに駆け寄り木刀を上段から叩き込む。


「でやぁぁぁっっ!」


 ムサシの掛け声が大きく響き、魔力を込めた木刀は眩いほど黄金に輝く。


 大気が揺れ、ドッゴーンと隕石でも落ちたような轟音と共に大地にクレーターが出来た。

 キオンジーはもちろん一撃で絶命、木っ端微塵や断絶されたのでなく潰されたような状態になっていた。


 ムサシの一撃はあまりの威力に衝撃波が重なり巨大な物体が高速で衝突したような状態になっていた。


 キャメルは空中で大喜びである。

 ドライアドは恐怖で目が点になって震えている。

 シャイターンは恐怖でフオオオオと泣き叫んでいる。

 ウンディーネは泡を吹いている。

 アーサーヴィルに乗り込もうとしたワカバは空いた口が開かず目はマジである。


 暫くするとラーク達が合流したのだが、「何がどうなったらこうなるんだ……」ラークのソフト突っ込み。


 マルボとケントは呆然としている。

 ムサシの実力は分かっているつもりだったのだが、その想像をまたも超えられトラウマになっているようだ。


 マルボとケントはその場で跪き何かブツブツと呟いている。


「調子に乗ってました。調子に乗ってました。調子に乗ってました。調子に乗ってました……」

「すいません自惚れてました。自惚れてました。自惚れてました。自惚れてました……」


「だ、大丈夫です!お、お二人も凄かったです!」フォローを入れるベルモートであるが、「どこが?」と瞳孔の開き切った目で2人に問い返され、ごめんなさいも言えないベルモートであった。


◆◆◆◆


「つまり、魔力ゼロから瞬時に流し込んだから瞬発力が生まれたという事か」

「うむ、拙者もそこまで計算していなかったので驚いたでござる」


 ムサシの攻撃は自分の意図せぬ攻撃力だったということで、一向は昼食後の休憩中にムサシの攻撃について分析をしていた。


 瞬発力は力を抜いた状態から瞬間的に力を入れる事で生まれる。

 魔力にも瞬発力が発生するのではと考察していたのだ。


「掛け声を出して攻撃したというのは関係ありませんか?」


 先程から立ち直ったケントが意見を言う。


「シャウト効果だな。声を発する事で脳のリミッターを外し筋肉の出力を高められるのは俺の前世では証明されてるな」

「ふむ。瞑想中で無意識から咄嗟に動いたでござる。自然に声が出たという感じでござった。」

「魔力に瞬発力があるのは間違いないね」


 マルボは指先から魔法で水を出しながら話に参加している。


「魔力にもシャウト効果があるなら、ムサシ本来のパワーが瞬発力で強まって、魔力も瞬発力で強まって、更に両方にシャウト効果が掛かって、何倍にもなったって事だよね」


 マルボは水魔法で実験しながら考察を述べる。


「では叫びながら魔法を使うと強くなるって事でしょうか?」


 ケントが言うとマルボは立ち上がった。


「力が入る感じで声を出せばいいんだよね。試してみようかな」


 マルボは杖を何も無い方向に向けて水魔法を使った。


 マルボの杖の先から水の玉が出た。

 ウォーターボール。

 殺傷力の低い魔法だが、マルボの最大出力のウォーターボールはとんでもない大きな水の玉だった。

 ワカバとベルモートはマルボの最大出力に目を丸くしている。


 水の玉はそのまま遠くまで飛んでいき雨になって森に潤いを与えた。


「最大じゃないと差が分からないからね。じゃ大声叫んでもう一回。力を入れる感じでだからボールで叫ぶといいかな」


 少し違う方向に杖を向け


「ウォーター……」

「ボォォーールッ!!」


 ドンっ!!


 先程の倍ほどの水の玉が飛んでいき、その場の全員、撃った本人も唖然としていた。

 ウォーターボールは遠くで強い雨となって消えた。


 落ち着く為に深呼吸をするマルボ。


「こんどは魔力瞬発力でウォーターボールを撃ってみる」

「マルボ殿は魔力ゼロに出来るでござるか?」

「いや、ゼロは無理かな。 考えた事なかったから。 今後練習するけど。 でも弱める事は出来るから目一杯弱めてから最大出力で出してみるよ」


 大魔法使いマルボが普段魔力を抑えず魔法を使ったら大事故も起こりかねない。

 マルボは魔力のコントロールを常に行なっていた。


 だが、弱めてからいっきに最大までもっていき瞬発力を使うという方法は今まで考えもしなかった。

 もう一度深呼吸をするマルボ。

 また別の方向に杖を向け構える。


 皆がマルボに注目する中、マルボがウォーターボールを発射させた。


 ドドドーーン!


 最初のウォーターボールの4倍程の水の玉が飛んで行き遠くで一瞬ゲリラ豪雨のような雨になった。


 またも皆は驚き固まる。

 撃ったマルボ自身も驚いて目を丸くしていた。


「りょ、両方一緒に使うと……」


 ベルモートが恐る恐る口に出すとラークが洪水になるから止めるようにと口を挟まれた。


「マルボさん!これでマルボビームも更に強化されるんですね!」

「え?」

「マルボビームッ!って叫んで魔法を使うんです!くぅ〜カッコいい!」

「え?」


 助けを求めてラークを見るマルボだが、ベルモートも変な奴だった事に気付いてラークは頭を抱えていた。

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