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032 壱章 其の参拾弐 四凶厄災キオンジー

 マルボ達がラーク達と別行動となり30分ほど経った頃である。


「何か近ずいているようね」

「風で嗅ぎづらいけど、空からじゃーん」

「ウケるーっ」

「え?空?」

「マルボさん、あれを」


 ケントが空を見上げ指を差すと、そこには大きな翼で羽ばたき、ゆっくりと近づいてくる魔物の影が見える。


 逆光のためまだ良くわからないが、かなりの大きさのようだ。

 ドスーンと振動を起こすとともに近くに降りた。


 着陸した事を見計らってマルボは探知魔法を発生させた。


「結構強い力を感じる…こんなやつ近くにいれば昨日気付いてるはずなのに…」

「マルボさん、指揮はお任せしていいですか?私が引き付けますから」


 森の木々から魔物が姿を現した。

 大きな角に針のような立髪と大きな翼を持つ青い虎。


『四凶厄災・窮奇』冒険者達からは人喰い虎キオンジーと呼ばれる。


「え?キオンジー?」

「最初のハンター達のクエスト対象ってこいつじゃないですか?」


 このチョパイの強すぎる魔族討伐クエストは、強い魔物の存在確認から始まっている。

 探索に向かったハンター達が全滅したので、よりレベルの高いパーティを派遣したが、6人中2人しか帰ってこれず、強すぎる魔族と遭遇したと報告がされた。

 強すぎる魔族に意識が向きすぎていた為か、最初の魔物について誰も注意していなかったようだ。


 昨晩、ムサシは魔族の他に危険な魔物等いないか確認したくて探索を提案した。

 銀髪エルフとの遭遇により魔物に対しての意識が薄れてしまっていた。

 ラークやマルボも魔物に対して楽観的に考えていたのもある。

 所詮魔物だし、そんなに強くないだろうと思っていたのだ。

 だが、このレベルの魔物は想定外だった。


 四凶厄災キオンジー、魔法抜きの単純な戦闘力だけなら神獣アマルテア以上かもしれない。


「おかしい。こんなレベルのやついたら昨日の時点で見つけてるはずだよ」

「ムサシさんがいたから、逃げてたのかもしれません」


 魔物は強い者を本能的に避ける能力が備わっている。

 意識して知覚機能を使うのではなく、鳥や魚が地震発生前に動くように、本能的に察知するので、昨晩はムサシの存在を察知し空へ退避していたのであった。


「ムサシと一緒だったら出て来なかったのに、別行動が裏目に出たって事ね。やるしかないか」


 犬娘三姉妹は動物的直感か、キオンジーの姿を見て震えている。

 いかにクエストの数をこなしていても、このレベルの魔物と遭遇した事は無いだろう。


「私もはじめてですよ。このレベルの魔物は……」


 汗をかきながらベルモートは大剣を構えた。


 ケントが「皆さんまだ動かないでください」と言い動き始めた。

 キオンジーは動き出したケントに対して警戒しながら、その鋭い目つきでケントの動きを追う。


 猫科の動物は速筋の割合が多く瞬発力が高い。

 虎も例外ではなく、あの巨体で想像を絶するジャンプをする。

 そしてこの世界の虎も例外ではない。

 キオンジーも驚異的な瞬発力を持っているのである。


 ケントはその事を理解して、同一線上に味方が並ばないようにキオンジーの注意を引きながら、キオンジーを中心に円の軌跡を描くようにゆっくりと移動していく。


 ケントがヘイトスキルを発動。

 瞬時にキオンジーが怒り狂う。

 ケントに向かって大きな角で頭から突進。


 ケントはその突進を大盾で受け止めた!


 ドゴーン!!と衝撃音が響く。


 ケントは衝撃で後方に押し出される。

 直線の足あとが残っているがケントは姿勢を崩していない。


 ケントはキオンジーの突進を、盾を使いショルダータックルで弾き返したのである。

 キオンジーは逆に自分の突進の衝撃をカウンターで利用されたため、身体をよろめかせている。

 正面から受け止めたケントを見て「凄い!」とベルモートは声を上げた。


 元々防御力の高いケントであるがムサシと出会ってから日々ムサシと研究し、今まで手だけで盾を使っていたのを、肩や肘または脚や膝、更に周囲の地形や環境も利用し盾術を進化させてきたのだ。


 ムサシの兵法はこの世界で『二天円明流』と名付け他の者に教えている。

 二天円明流の極意は力を抜く事から始まる。

 力を抜く事は力を入れる極意にも繋がる。

 単純な筋力ではなく瞬発力を使う方が圧倒的に速くて強い。

 瞬発力を使うには力を抜いた状態からでなければ使えないのは、この世界でも同じである。


 抜重という重心移動と瞬発力を使った技の応用でケントの技術は大幅に上がっていたのだ。

 キオンジーは体勢を整えようとするが、そのタイミングを見逃さなかったように、上空から一本の熱線が降り注ぐ。

 熱線はキオンジーの翼に拳大の穴をあけた。


 マルボの開発した高熱粒子魔法『マルボビーム』である。

 空中に小範囲の超高熱領域を作り出し土や砂を1,000度以上に加熱させウォータージェットのように超高速で発射する魔法だ。


 動きながら超高熱領域を作れない。 連発は出来ない。 室内や洞窟では酸欠や引火の危険性などの使用条件の制限は多いが類を見ない威力を誇る。

 もちろん森に引火すれば山火事という大惨事に繋がるのだが、マルボはその辺りも考慮しての使用である。


 認識している敵と違う方向からの攻撃に動揺するキオンジーにすかさずケントは戦斧を横に薙ぎ払う。

 大きな角で戦斧の一撃を受けるキオンジーだが、受け切れずバランスを崩してしまう。

 そこに後方からベルモートの大剣が上から振り下ろされが、キオンジーは針のような立髪でガードする。


「くそっ!!何も役に立てないのかっ!」


 歯噛みしながら攻撃手段を模索するが、ベルモートの技量ではキオンジーを傷つける事は難しい。


「攪乱は大事だよ!諦めないでっ!」


 マルボはベルモートに活を入れた。


 ここでケントはヘイトスキルを使う。

 ヘイトスキルとは相対する敵の敵対心を自分に集中させるものである。

 このスキルを使う事により、攻撃を集中させる以外に魔物の範囲魔法も使用させないようにする効果もある。


「そうそう、さすがケント。範囲魔法を使ってきたらやっかいだからね」


 チラッと横目で犬娘達を見て呟いた。


 犬娘三姉妹は戦闘態勢を取ってはいるが、その場からまったく動けていない。

 足が竦んでしまい立っているのがやっとなのである。


 大都市リゾットの最強の一角と言われるベルモートですらキオンジーには攻撃が通らないのだから致し方ないのだが、せめて動かなければ命に関わる事になるだろう。


 ベルモートは隙を見て再三攻撃をしかける。

 だが、キオンジーには全く通用しない。

 何度か繰り返すとキオンジーはベルモートに意識を向けようとするのだが、すかさずケントはヘイトスキルを使う。

 キオンジーは完全にヘイトスキルにハマっているのである。


 この戦いの要はケントなのだ。

 絶対に守り切るという強い意志と、キオンジーの動きを見逃さない集中力があってこそである。


「よし!2発目!」


 マルボが杖をキオンジーに向ける。

 2発目のマルボビームがキオンジーの角を溶かし貫通した。

 キオンジーは大きな悲鳴を上げる。


 マルボはケントに目で合図を送る。

 内容は3発目のチャージが済んだら逃がす隙を作れというものである。

 長い付き合いなのでここまでの戦術で何を狙っているのかケントは分かるのだ。

 キオンジーの動きをよく見てケントは少し後退を始める。


 マルボの左手がOKマークをしている。

 ケントは間合いを開けて気を抜いたような姿勢をわざと見せる

 すると、キオンジーを中心に風が集まり上昇気流が起こる。

 キオンジーが風魔法を使い空に飛んで逃げようとしているのだ。


 キオンジーは風の流れに乗り上空に上がっていくが、空中でバランスを崩す。

 マルボビームで翼を撃ち抜かれているのだから飛べるはずがない。


「今だっ!!」


 最大出力のマルボビームがキオンジーを貫通した。

 叫び声を上げる間もなくキオンジーは絶命し地面に落下する。

 ケントとマルボはお互いにニヤッと笑った。


「ス、スゲェ……」


 ベルモートが息を飲んで言った。


「あぁっ!!」


 マルボが急に叫んだので、全員驚いてマルボの方を見た。


 マルボが指差す方向を見ると、そこには煙が上がっている。

 最後のマルボビームが木を燃やしてしまったのだ。


「ひゃ~、山火事になっちゃう~!!」


 消火活動の為マルボは慌てて走り出した。

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