026 壱章 其の弐拾陸 シャイターンの恐怖
今回のクエストでは警備保障ギルドのモヒートがリーダーとなり、サブリーダーとしてハンターギルドのカンパーリというライセンサーが同行している。
カンパーリは犬娘三姉妹がムサシの弟子になるからハンターギルドを辞めて冒険者ギルドに入ると言い出したので、困ってラークとムサシに相談に来ていた。
「あんたも大変そうだな」
ラークも同情している。
「そもそもこんな船の上でギルド転籍手続きなんて出来ないのですから…言い出したら聞かなくて…」
カンパーリはとても疲れていたようだった。
「そもそも何であんなの連れてきたんだ?」
「あれでも優秀なんですよ。特に探索は」
「あぁ、犬だからな」
「鼻が利くという事でござるな」
意味が違うぞと言いたいラークだが話が進まないのでそのまま右から左に受け流した。
「ラークさん、何とか探索チームに入っていただけないでしょうか」
「うーん…」
元々探索チームに振り分けられていた犬娘三姉妹なので、ラーク達が探索チームに入る事でムサシと一緒に行動をとり移籍問題を先送りしたいのだと。
「一旦保留で。打ち合わせ後にまた話し合いでいいか?」
「そうですね。もうすぐ再開しますし、後程」
海賊問題で中断された打ち合わせが再開するのだ。
海賊問題自体はムサシのおかげで数分で解決したのだが、犬娘三姉妹の大騒ぎの問題や、ムサシの戦いを見て放心してる者や自信喪失して「俺、警備保障辞めるわ」とか言い出した者達のメンタルケア等に時間がかかっていたのである。
なお、現在犬娘三姉妹はというと、ムサシに取り敢えずキャメルに謝ってくるようにと言われてキャメルの所に行っている。
ケント、ドライアド、シャイターンが絶対許さないであろう事を予想し時間稼ぎをするムサシの計略であった。
まもなくライセンサー達が集まり打ち合わせが再開した。
高速船の作りを見学していたマルボもミーティングルームに戻ってきたがケントがいない。
まだ犬娘三姉妹に説教中なのだろうか。
若干、犬娘三姉妹が心配になるムサシ、ラーク、マルボだった。
打ち合わせは各チームの作戦行動となっているが、ラーク達はクエストに参加するとしても自由行動を取ると決めているので、各チームの行動はざっくり分かればいい。
「ねぇ、ラーク、思ったんだけどさ、やっぱりクエストに参加して僕らが先に魔族と接触してしまうってのはどうだろう?」
「先に見極めるって事か?」
「うん、それで可能なら交渉して島を出てって貰うとか」
「強すぎるマジ魔人はどうするでござる?」
「ブーッ」
マルボが『魔神の血を飲んだ魔族が魔人化した存在』を冗談で略称した『マジ魔人』という言葉がムサシに定着していて思わず吹いてしまった。
「まず、魔神の血を飲んだという事自体憶測だからな。ただ単に強い魔族の可能性もある。何故チョパイにいるのか目的も分からない。憶測に憶測を重ねるより接種した方が早い」
「そうでござるか」
「ムサシは何か意見あるの?」
「前世の拙者、宮本武蔵であれば最初から討伐前提に動くでござる」
予想外の答えにラークとマルボはギョッとした。
「あの司令官モヒート殿の作戦はいまいち要領を得ぬでござる。 2回も探索して被害が出ているのに、また探索隊を別行動させ情報収集だけをするのは悪手でござる。 夜襲、波状攻撃、兵糧攻め、釣り上げ、罠と誘導、探索と同時並行して行える兵法を用意するべきでございる。 何かを成し遂げる覚悟が感じられないでござる。」
しばしの静寂の後ラークが口を開く。
「ムサシ、戦術も聞きたいが今の話は前世の考えと言ったな。今のムサシはどう考えてるんだ?」
「正直、拙者も判断しかねるでござる。理想を言えば和解でござるが、探索隊が2回も被害を受けている故難しいでござろう。さらに最悪の状況も考えておかねばならぬでござる。何を成すのかを明確にし、必ず成し遂げる覚悟を決めねばならぬでござるよ。」
「魔族の総数が数十人、全員がマジ魔神で魔神もいるとか、そんな最悪パターンもありうるって事だよね」
「アジ・ダハーカがいる可能性か?」
「いや、それは無いウガ」
前列に座って聞き耳を立てていたギムレットが振りむいて会話に参加してきた。
ブラッサン付近では未だに新たな強すぎる魔族が確認されているという。
アジ・ダハーカがいるとしたらブラッサン付近だとギムレットは主張する。
強すぎる魔族は人間に対して無差別攻撃を行っていない。理性があるとも言うのだ。
「そうか……何で思いつかなかったんだろう……」
マルボが呟いた。
「どうした?マルボ」
「いや、魔神の事シャイたんなら分かるかなって」
「む?どういう事でござるか?」
「仮にブラッサンにアジ・ダハーカがいるとする。だからチョパイに魔神はいないとは言えない。他の魔神がいるかもしれないよね」
「そんなことあるウガか?」
「僕らの前世の世界での言い伝えでは簡単に言うとアジ・ダハーカには仲間がいるんだ。だからアジ・ダハーカの仲間の魔神もいるかもしれない。そんな魔神界隈の話とかシャイたんなら詳しいかなと」
シャイたんとはキャメルの精霊石に宿った悪魔精霊シャイターンの事である。
「よし!キャメルの部屋に行ってみるか」
打ち合わせ中にも関わらずラーク・マルボ・ムサシはミーティングルームを出て行ってしまった。
何故か一緒にギムレットまで着いていってしまい、自分の部下が勝手に出て行った事に頭を抱えるモヒートであった。
◆◆◆◆
キャメルとワカバの部屋に押しかけたラーク、マルボ、ムサシ、そして何故かその場のノリで着いてきたギムレット。
キャメルとワカバの部屋ではケントが犬娘三姉妹を説教中でドライアドとシャイターンが出現していて更に知らない間に精霊石に宿ったウンディーネまで出現している。
ギュウギュウに狭いのであるが、更に男が4人入ってきたので狭苦しくカオスとなっていた。
あっ師匠!とムサシに助けを求める視線を送る犬娘達であるが、さらりと受け流す。
ドライアド、シャイターン、ウンディーネの精霊達はムサシの姿を見て咄嗟に精霊石に戻ろうとしたのだが、あろう事かシャイターンはムサシに指で摘まれてしまう。
「ちょっとシャイたんに用があるが、よろしいでござるか?」
「フオオオオオオ!!」
シャイターンは恐怖に怯え泣いている。
ドライアドとウンディーネは精霊石から顔だけ出して「さらば友よ」と言わんばかりの目でシャイターンを見ている。
「何で悪魔が泣いてるウガ?」
ギムレットの突っ込みなのか? ただの疑問なのか? 微妙なギムレットの反応に、ウチのリーダーならやってくれるはずと期待の目でラークを見るマルボ。
「ハエを箸で摘まむが如く……いや、精霊、指で摘むなよっ!」
ラークの声が響きマルボはガッツポーズをした。
◆◆◆◆
シャイターンが言うには、アジ・ダハーカは悪神アンラ・マンユに創造され、その配下であり、あらゆる悪の根源を成すものとして恐れられる存在である。
シャイターンは続けて、無限の並行世界があるが、魔神や悪魔は全ての並行世界で共通の存在で、違う時代、様々な世界に姿形を変えて出現すると言う。
シャイターン自身もある世界では悪魔王サタンとして出現したり、時には堕天使ルシファーとして現れる事もあると言う。
アジ・ダハーカだけが出現する世界や時代もあればアンラ・マンユと共に出現する場合もあるという。
「ちょっとスケールが大きすぎてついていけないな」
ラークは苦笑いしながら頭を掻いている。
黙って聞いていたマルボが口を開いた。
「この世界には絶対悪の存在があるって言い伝えがあるよね。アンラ・マンユって絶対悪って言われるよね……」
「絶対悪が存在するという話、ラーク殿に出会った時に言われたでござるな」
「この世界の絶対悪がアンラ・マンユという事か」
だが、シャイターンが言うには、ラーク・マルボの前世地球でアンラ・マンユが絶対悪と言われるのは人類にとっての絶対悪であり、世界にとっては必要悪だと言う。
この世界の絶対悪とアンラ・マンユが繋がっているとは限らないと言うのである。
「すいません、私わからないです」
ケントが犬娘三姉妹の長い説教を中断して話を聞いていたのだが、話に全く付いていけずに質問する。
「俺も正直よく分からないな。マルボ説明できるか?」
「僕も完全に理解できたわけじゃないけど、説明する?難しいし長いよ?」
マルボはマジな目で聞いてきたので、「あ、いいです」と速攻断りを入れた。
この世界限定に絞ると分かるのかと聞くと、シャイターンにとって世界毎の違いは些細な事であって、差が分からないから分からないという、よく意味の分からない答えが返された。
つまり、アジ・ダハーカが出現する世界と、出現しない世界の違いは、人間で言う水の味の違いがわかるかどうかレベルの話らしい。




