025 壱章 其の弐拾伍 海賊達がやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!
船は順調に進み、島へと向かっているのだが今日は朝から霧が深く視界がはっきりしない。
しかし、進路を変えるのは得策ではなくそのまま進む事になった。
船員達はそれなりに察知スキルや風読みスキルを持っており船にはソナーのような魔道具もあるため探知範囲は広い、危険があれば回避行動をとる事が出来るらしい。
目的地への到着は2日後の朝を予定している。
午前中はミーティングルームにて到着後の打ち合わせが行われるのでラーク達も参加となった。
今回のクエストのリーダーであるモヒートは警備保障ギルドのライセンサーである。
「皆様おはようございます。それでは早速ですが打ち合わせを行います」
モヒートの説明によると目的地であるチョパイという孤島は思っていたより大きな島で周囲450km程もあるらしい。
「全然イメージがわかないな…」
「沖縄本島くらいかな」
「結構でかいな」
相変わらずラークとマルボは他の者に分からない話をしているかと思いきや…
「ほう、琉球王国の話は聞いた事があるでござるよ」
と、横にいるムサシは普通に会話に参加しているのだった。
航路次第で中継地点にもなるチョパイは貿易も盛んで、港もそこそこの大きさで宿泊施設も多いらしい。
また、漁業や農業も盛んであり、魚や野菜も名産品となっているとの事だ。
人口も多く戸籍が無いのではっきりしないが3万人程はいるという。
魔物は多くはいないがそれなりにいるので油断はできないという事である。
チョパイには警備保障ギルド、ハンターギルド、冒険者ギルドが揃ってはいるが、治安維持の為の警備保障ギルドの人数が一番多く、ハンターギルドは魔物の活発期にリゾットから派遣される為常駐者は少ない。冒険者に関しては航路の中継を利用して数日間滞在する程度だという。
今回異変が起きたのはハンターギルドであった。
チョパイは4方の港周辺は栄えているが、奥地の方は未開である。
奥地に強い魔物がいるかもしれないという話からハンターが探索を行ったところ全滅したそうだ。
B級以上のライセンサーだったらしく、事態を重く見たハンターは状況確認の為A級以上のライセンサーを含む6人パーティーに依頼をしたが戻って来たのは2人であった。
その2人が強すぎる魔族に襲われたと言っていたそうだ。
この島にはそのレベルに達するような強力な魔族は確認されていないので、今問題となっているブラッサンの魔族ではないのかというのが大方の意見であるようだ。
実際ブラッサン帝国側からも共闘の申し出が来たらしいのだが、一旦断ったらしい。
「マルボどう思う?」
「強すぎる魔族の強さがどの程度かにもよるし、数だって分からない。話全体に憶測が多いよね。まぁ強すぎる魔族がいるのは間違いないんだろうけど」
今回のクエストは大型クエストというだけあって警備保障、ハンター、冒険者で70名を超える大規模クエストとなっていた。
現時点では公に出来ない為リゾットで話題にはなっていなかったが、本来はもっと多くの戦力を投入したかったようだ。
ラーク達を除いても20人以上のA級ライセンサーがいる。
これは魔神討伐にも劣らない規模ではある。
頻繁に出現する魔神では無いが、魔神が出現する時はほぼ地方に現れる為冒険者パーティーによる討伐が基本となっている。
A級ライセンサーを短期間にこれだけの数を集められたのは3ギルド合同で行ったからだろう。
「魔神の血を飲んだ魔族ってのも憶測だ。単純に強い魔族かもしれないし、ひょっとすると転生者かもしれない」
「なるほど、魔族に転生するって事もあるかもしれないよね」
「魔物の血を飲んで理性を残した魔人は必ず変身するのでござるか?」
「あぁ、ギムレットの例か。姿も変わらなく強さだけを手に入れる事もあるらしいな」
「でも変身したり姿が人外だったら間違いなく血を飲んでるってことだよね」
マルボは挙手をしてモヒートに質問をした。
その強すぎる魔族は変身したのか?と。
答えは変身しなかったとの事だ。
「話が余計にややこしくなったな……」
「魔神は知性があって血を飲ませても精神支配のコントロールできるっていうから、姿形を変えずに強くするってコントロールも出来るかもしれないね」
「じゃぁ神獣アマルテアの血をムサシも飲んでたりしてな」
「拙者は血は飲んでござらんよ。乳児の時は母乳で育ててもらったでござる」
「「!!!!!!!」」
哺乳類の母乳は血液から作られているものである。
その知識があるのはラークとマルボのみであった。
◆◆◆◆
打ち合わせはチョパイの立地についての説明がされている。
魔族が魔神の血を飲んでいて人間や同族の魔族にも脅威となる場合ラーク達はクエストに参加する事に決めている。
島に着いたら早々に自分達で探索をした方が状況確認するには早いのではないかとラーク達は考えていた。
ムサシ、キャメルの強さについては言うまでもなく、アーサーヴィルに乗るワカバの実力は未確認ではあるがマルボはA級は確実という。
アーサーヴィルは人型状態だとワカバのシートの後ろからサポートシートが引きだせマルボも乗れるらしい。
これにより、マルボは攻撃魔法に集中できるため一緒に乗るとアーサーヴェルは絶大な戦力となる。
ラーク、ケントについても船内にいるライセンサーより強い。
ランクはあくまでも功績・実績によるものなので戦闘での立ち回りは別物と言える。
魔族と遭遇して戦闘になったとしてもムサシがいる以上負ける要素はないと考えてはいるが。
探索を買って出るか?とラークが考えているところ、マルボは横で「魔神の血を飲んだ魔族って長いし言いにくいよね。何か良い言い方無いかな…ままじん…ままぞく…まじまじん…マジ魔人!ププッこれはいい」と独り言を呟いている。
そんなくだらない事をマルボが考えていた時である。
ピーーッ!!
と、船内に緊急事態を知らせる笛の音が鳴り響いた。
笛の音とともに船に結界魔法が展開される。
直後にドーンと爆発音がし衝撃とともに船が揺れた。
「何かに当たったのか?」
「海の魔物か?」
ミーティングルームのライセンサー達は
各自席から立ち上がり身構えていた。
「海賊だーっ!」
デッキで船員が叫ぶ声が聞こえてきた。
「海賊でござると?」
船員の叫びにムサシが反応し、即座にデッキへ出て行った。
ラーク達もすぐにムサシを追いかけてデッキに向かうが
「そういえば、昨日のムサシ海賊剣士の技使ってたな?」
マルボに対して思い出したかのようにラークが問い詰める。
「あれは実用性が無いから封印するらしいよ」
ラークはまた変な事をムサシに教えたなと問い詰めたのだが、マルボは話の論点をずらして回避する。
ラーク達がデッキに出るとそこには1隻の大きな帆船が霧の先から近づいてくる。
全長50メートル、幅15メートルといったところであろうか。
先程の衝撃は海賊船からの魔法攻撃だったようだ。
霧のせいで視界が悪く相手の船のデッキには何人か人が立っているのが辛うじて分かるくらいであった。
ラークは感知スキルをマルボは探知魔法を発動させる。
「人数は100名以上だ」
部屋で待機していたワカバとキャメルも合流した。
「何事だ!?」
と、突然現れた集団を見て驚きの声をあげるライセンサーもいたが、手練れの者達はすぐに臨戦態勢に入る。
ギムレットや犬娘三姉妹もすぐに武器を構えていた。
「マルボ殿、この世界には超人化する果実はあるでござるか?」
とムサシは聞いてくるのでラークの目を気にしながら「無いよ!たぶん無い」と答えた。
ラークは白い目でマルボを見ている。
「では海に落ちても溺れる心配は無いでござるな」
「ラーク殿ここは拙者に任せてくだされ!突入するでござる」
「わかった!おい誰か小舟……」
海賊船に乗り込むから小舟を用意して欲しいと船員に頼もうとした矢先、ピョーンとムサシは海に飛び込んだ。
「おい、ムサシ!ってうおおおおお?」とラークが言った次の瞬間。
「「「「えええええーーーーっ??」」」」
ライセンサー、船員含め100人近いこちらの乗員全てが驚きの声を上げる。
シュバババババババ!
なんとムサシが海面を水飛沫を上げて駆け抜けていったのだ。
「ムサシ君凄ーい!」
唯一キャメルだけが喜んでいる。
あっという間にムサシは海賊船の近くまで走っていき、木刀を突きの構えで魔力を込めてそのまま突進して行った。
ドッカーン!と船に穴を開けてそのまま船内に突入して行く。
「「うわあああぁぁぁぁ!!!」」
海賊の悲鳴が霧の向こうから聞こえてくる。
「た、助けてくれーっ」
「鬼だー」
「悪魔だー」
大穴が開き、沈み出した海賊船から次々と空に向かって人が飛んでいき海に落ちていく影が見える。
まるで地獄絵図である。
船内のライセンサー達は一昨日のムサシの試合を見ているがまさかここまでとは想像もしていなかったのだろう。
目の前で繰り広げられているのは夢か幻か現実なのか分からなくなっている。
犬娘三姉妹はムサシが卑怯な手で自分達に勝ったんだと現実逃避をしていたのだが、目の前の事実に驚愕していた。
ギムレットやモヒートも唖然としている。
「凄ーい!凄ーい!」
キャメルは喜びワカバは凄いねーと相槌を言いながら目がマジなのはパターン化されたらしい。
しかし更に驚く事態をラークは発見する。
キャメルの精霊石からドライアドとシャイターンが半身をのり出しながらムサシを見て怯えていたのだ。
マルボは精霊達に突っ込みを入れるのを期待してラークを見ていると
「ふっ、一々突っ込んでたら身がもたないだろ」仏のような笑顔で返されてしまった。
ムサシが飛び上がり落下速度を利用して海賊船に強烈な一撃を入れると、海賊船は砕け散ってバラバラになった。
かなり大型の船なのだが……
木の破片が所々に浮かび海賊達はそれに捕まれば運が良ければ生きられるだろうという状態になっていた。
そしてムサシは海面を走って来てピョーンと飛び上がりデッキに戻ってきた。
「ラーク殿どうでござったか?」
ラークは親指を立てて良い仕事っぷりと褒め称えた。
「あ、もう慣れちゃったんだね」
マルボはラークの突っ込みが無かった事に残念がった。
辺りは急に霧が晴れて綺麗に青空が広がっていた。
実は海賊船には水の精霊ウンディーネが閉じ込められていた。
人間嫌いで人間の持つ精霊石には宿らない精霊であるが、無理矢理魔法で閉じ込め魔法陣を使い強引に精霊石に定着させる禁呪法が存在する。
この禁呪法を使い海賊達はウンディーネの力を使い辺りの海域に霧を発生させ海賊行為を行っていたのである。
この禁呪法を使えば人間と精霊の戦争になりかねないので国際法違反で重罪に当たる。
ウンディーネはというと皆が気付かないうちにキャメルの精霊石に宿っていた。
勇者に宿ってとてもご機嫌なので今回の禁呪法事件は問題にならなそうである。
ムサシは知らない内に人類と精霊の戦争を未然に防いでいたのであった。
◆◆◆◆
突然犬娘三姉妹がムサシに抱き着いてきた。
「ぬお!お主達なんでござるか?」
悪意、殺気等の気配が無かったのでムサシも避けられなかったようである。
顔をペロペロなめながら
「感動しましたーー師匠と呼ばせてくださーい」
「弟子にして欲しいじゃーん!」
「ウケるーーっ!」
「ラーク、突っ込みどころだよ」
「すまん、意味がわからん」
ラークにも理解できなかったようだ。
獣人犬族の末裔と言われる三姉妹は見た目は人間の若い女性と変わらないのだが、犬の特性の名残なのか好意を持った相手には犬のように顔をペロペロ舐める習慣があるようだ。
そして尻尾が無い代わりに尻を振るというとんでもない習慣があるようで、見た目は若い女三人が抱き着いて顔をペロペロ舐めて尻を振っているという何とも言い難い光景がそこにあった。
その光景を見てワカバが「ムサシ!不潔よっ!」とプンスカ怒っていた。




