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217 伍章 其の肆拾肆 ディーネ編(二) 神と人

 夕食を用意されて食事を取る。


 風呂を用意されて入浴する。


 寝巻を用意されて就寝する。


 メイドの少女と共にいるのみだった。


 深夜、ふと目が覚め、カーテンを開け窓から月明かりを眺める。


 そのままベッドの上で胡座をかいて瞑想を始めた。


 つい先日、ラーク達と出会い、多くの経験をした。


 巴御前として生きた前世に匹敵するほど、充実したラーク達と過ごした数日。


 ラークに導かれ

 ムサシから技術を

 マルボから魔法を

 ソウジと稽古した

 エールとティアとフロンがいて

 クリス・マニエル・シルクと出会い


 そして、別れの道を選んだ。


 ―いや。


 選ばざるを得なかった。


 必ず戻ると誓って。


 しかし、今は……


 テンマという巨大な怪物を目にして困難な道のりを痛感する。


 この場所に来ての怒涛の展開。

 思考をまとめる余裕も無かったが、時間が経過し落ち着いて来た。

 改めて、思考をまとめる。


 自分に何が出来るのだろうか?


 テンマを思い出すと絶望を感じる。


 だが、違和感はある。


 そもそも、何に絶望したのか――


 多くの情報―


 ただ、見て聞いただけの情報ではない。

 そこから読み取れる情報があり過ぎるから混乱したのだ。


 ラーク達が言っていた。

 この世界は善神と悪神の戦いの舞台である。

 嘘では無い。

 自分の人を観る目は確かだ。


「そうよ。ラーク達は絶対に正しい。だから違和感に絶望したのね…」


 メイドの少女は救われたと言った。

 悪神を宿しているであろうテンマに救われたと言った。


 メイドの少女を見て悟ったのだ。

 テンマも正しいのでは無いか?と…


 多くの情報は一つの答えから、多くの答えを導く。

 悪神を宿していても、人間なのではないだろうか?

 悪神を宿している者は、悪だと考えていた。

 しかし、悪神を宿した源為朝の転生者ギャラクーダは、人間臭さが溢れていた。

 ヤーシャには情がある。

 そして、テンマとヴァルテイン…

「なんてことなの…」

 人間だ―

 彼らは、神を宿しただけの、力を持った人間なのだ…


 ◆◆◆◆


 朝


 まだ、日は登っていない。


 だが、ムサシの稽古がはじまる時間。

 部屋は広いので場所を取る。

 ムサシが行っていたヨガのようなストレッチを行い、瞑想を始める。


 ふと、剣が欲しいと感じる。

 それは誰かを傷つけるためではなく、素振りをする為の剣。

 この部屋に剣は無い。


「あれ。持ってきちゃっていいかなぁ…」


 こっそりと、廊下に出る。


 まだ、誰も起きていないのか、静けさだけが支配している。


 入口付近にいた魔神の騎士。


 指示が無ければ動かないと言っていた。


 腰に付けている剣を、そーっと抜いてみる。


 魔神の騎士は動かない。


 剣を持ち、部屋に戻る。


「やったね」


 少し高揚感がある。


「これは、奪ったんじゃないよ。借りただけなんだからね。うん」


 自己弁護しながら、剣を構える。


 剣を振る。

 振る剣に合わせて魔力を流す。

 暗闇の中、光り輝く剣。


 眩い光が窓から漏れると思い、カーテンを閉める。


 そんな事をしていると、行動が思考を変える事を思い出す。


「うん。これが私だよね。私らしくいこう」


 静かな朝が始まった。


 ◆◆◆◆


 素振りを終え、瞑想していると、メイドの少女が入ってきた。

「あ、おはようございます」

 ディーネはまだ寝ていると思っていたのだろう。

 慌てている。

「申し訳ございません。ディーネ様。まさかこのような早いお時間に起きられているとは……」

「うん。気にしないで。いつも早い時間から起きているの」

 ディーネはベッドの下に剣を隠しておき、床で胡座をかいて瞑想をしていた。

 思考は一晩の瞑想によりかなりクリアになっている。

 違和感を受け入れ、新たな認識を得たことで、混乱は解消されていた。

 なにも自分がテンマを倒す存在でなくて良いのだ。

 巴御前の前世で良く知っている。

 武には個と団がある。

 一騎当千と言われた巴御前でも、巨大な組織には敵わない。

 テンマは組織の怪物。

 しかし、この世界の個は前世より遥かに強い。

 最強クラスの武人を集めた組織で対抗すれば勝てる可能性はある。

 そして、個の力としてムサシという怪物が仲間にいる。

 ラークもマルボもソウジも。

 希望はある。

 自分が悪神に取り込まれなければいい。

 後は出し抜く。

 出し抜くと思うと、マルボを思い出す。

 善神側なのに、時折悪魔のような発想をするマルボ。

 見た時は震えたが、思い出すと笑いそうになる。

 数日の付き合いがディーネの常識を一変させていた。


 自分で言ったのだ―

 ―必ず機会はある―と


 天才ディーネの本領が発揮されるのはこれからであった。


 ◆◆◆◆


「ディーネ様。お茶を淹れました。こちらにどうぞ」

「ありがとう。頂くわ」

 テーブルにつき、湯気が立つ紅茶が注がれているカップを手に取る。

「美味しい」

 香り豊かで芳醇な味わい。

 ディーネの舌を唸らせた。

「よかった。喜んで頂けて嬉しいです」

 微笑む少女。

「ねぇ。お名前を聞いてもいいかしら?」

「え?」

「え?」

 少女は驚き、ディーネも驚いた。

「私如きが名を告げるなどおこがましくて……」

「え?そういう文化なの?名前知らないと呼べないし不便だと思うけど……」


「それはそうなんですけど……」

 困惑する少女。

「昨日も思ったんだけど、やっぱり、あなたは只の魔族だよね?」


「え?」


 再び、困惑する少女。


 只の魔族は只の人とあまり変わらない。

 洗脳されてる様子も無く、奴隷でも無い。

 普通の人に合わせた会話が必要である。

 ラークの交渉力を思い出す。

「テンマ様もヤーシャ様も、凄い人でしょ。緊張しないのかなぁ?って」


「はい。私達にとってテンマ様は神そのものです。このような場所で働けるのは最高の名誉なのです」

「そうなんだ……」

 暫く静寂が流れる。

「ねぇ。お名前教えて貰ってもいい?」


「はい。カレドニアと申します」

「ありがとう。私はディーネ。よろしくね」

「は、はい。こちらこそ宜しくお願い致します」

 ディーネはお辞儀をすると、カレドニアもお辞儀を返す。

(やはり、只の魔族ね。神そのもの―最高の名誉―つまり一国くらいの人心掌握をしてるってことか。テンマっていうのは……)

 洗脳でもない、奴隷でもない。

 普通の魔族が信仰している存在。

 力任せでの支配では無いのが分かる。


 武力支配であれば、簡単に情報を引き出せると踏んでいたが、想像外の状況である。


 テンマ―

 どう見ても10代前半。

 どうやって人心掌握をしたのだろうか?

 一度や二度の奇跡を見せた程度で、ここまで人心掌握を出来るものではない。

 前世においても、人の心に働きかけた稀有な武将がいたが、それは家柄と実績があって成り立つもの。


(神の力?そんな都合のいい力があったらもっと違う使い方をするわよね。神の神殿が全て堕ちているはず。それに私に対して使えばいい…)


 悪神達の目的は全ての時空・全ての異世界を破壊する事。

 その為に神々を堕とす。

 神の神殿の力を使って。


(私に堕ちた神を宿すって事よね?神と会話って出来るのかしら?)


 ――もし、神が人と同じように悩み、迷う存在だとしたら……

 神とは、揺れに触れ得る存在なのかもしれない。


 ◆◆◆◆


 朝食を取り、城内をカレドニアに案内された。

 城内は100人前後の人がいるようだ。

 料理人・雑用係・医療担当者も入れば研究者らしき人物もいる。


 そして、依代候補者らしき者もいる。

 直接の会ってはいないが、メイドの数や、時折感じる強い魔力などから察する。


 案内され廊下を歩いている最中であった。

「あぁぁぁぁぁっっっ!!」

 突然、扉の向こうから叫び声が聞こえる。

 苦痛の叫び――

 だが、それは肉体のものではない。

 誰かの心が、耐えきれずに軋む音だった。

「タローマティ様!落ち着かれてください!」

「お水を!タローマティ様っ!」

 部屋から二人以上のメイドの声と、苦しみ叫ぶ声を聞き、ディーネは足を止めたまま身動きが取れない。

 いつもの自分なら、すぐにドアを開けて中に入るはず。

 だが、身体が動かない。

 足元に沈むような感覚。

 冷や汗が背中を伝う。


「ディーネ様?」

 カレドニアの声で我に帰る。


「あ、うん。中の人はどうしたの?」

「はい。こちらの方はご病気で静養の為に滞在されている方でございます。とてもお偉い方ですが、今は弱っているので、安静にする為にこの場所に居られるのです」


「そう…なんだ……」


 病気?

 そんな単純なものでは無い。

 あれは魂を引き裂く叫び―


 カレドニアに促され、この場を後にするが、その声は耳に焼き付いて離れない。

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