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215 伍章 其の肆拾弐 デリンキーヤを跡にして

「女神様~!」

「女神様~!」


 熱狂の大観衆の輪の中、コンドーとトシがリジュールに声を掛ける。


「ソウジ……いや、リジュール」


「俺達は行くぞ。元気でな」


「うん。コンドーさん、トシさん。あ、同じことになると思ってたから言わなかったけど、クロはコンドーさんの元に行く事になってるから。暫くコンドーさんがクロを預かってて」


「そうか。助かる。クロの諜報力は俺達にも必要だからな」


 コンドーとリジュールが掌をそっと合わせる。


 武士同士の仕草。


「ソウジ…リジュール。お前は言っていたな。前世を卒業するべきと。壬生の狼と呼ばれた事に俺は侮られ、恐れられ、迷いもした」


 リジュールは強く頷く。


「だが――

 それも全部、俺達の道だった。俺は壬生の狼を誇りに思う事にした」


 トシがリジュールの肩を二度叩く。


「影を抱えて、生きてきた。なら次は、その影ごと誇りに変える。俺達もそうする」


 リジュールは涙を堪え、静かに頷く。


「うん……。

 壬生の狼として…

 壬生の狼として生きた俺達を――

 誇りと思えるように…」


 コンドーとトシが同時に頷く。


「それでいい。影を誇れたら、もう迷わないだろう」


「生きろよ。病気なんかに負けるなよ」

 三人は掌を重ね、観衆の喧騒の中で、ただ静かに別れを交わした。


 ◆◆◆◆


「うーん。これどうしようかね?」


「ふむ。ちと重いが担げなくはないでござる」


「ちと重いで済むんだ……」


 デリンキーヤを出発する朝。


 魔石を囲いマルボ・ムサシ・リジュールが話をする。


 昨夜、シャーナが起こした、《海岸の奇跡》の後。


 ムサシは、しれっと魔法と生活の森から巨大魔石を盗んで来た。

 しかし大きすぎる魔石をどう運ぶか悩んでいるのである。


 ラークがモヒートと話しながら建物から出て来る。

「本当にお願いします。ラークさん……今回、私の責任が……」


「分かったって!ちゃんとブルグラム首相には伝えておく。モヒートの旦那にも世話になったって!本当の事だしな」


「本当に、本当にお願いします!」


「大丈夫だって!ブルグラム首相は俺の兄弟子みたいなもんだから」


「えぇっ??」


「あれ?言ってなかったか?」


 トリカランド共和国現首相ブルグラム

 バリバーの弟子であった。

 転生後のラークを色々と世話してくれたバリバー。 そのバリバーの弟子であるブルグラム。よく知っている仲なのである。


 その信用もあり、ラークに神の神殿訪問クエストが依頼されたのであった。

 国のクエストを、手練れとはいえ一冒険者に依頼することは、普通に考えればあり得ない。


 モヒートは警備保障ギルドの所長としてデリンキーヤに派遣されたが、そのタイミングで大事件が起きた事。


 そして直轄の部下のはずのシャンテが魔神側に堕ちた存在であった事。


 真相を聞いた直後はシャンテの事で落ち込んでいたが、一夜明けて自分のキャリアの心配に頭が動いてしまっていた。


 ブルグラム首相の後ろ盾を得る為、必死にラークに頼み込んでいたのであった。


「その代わりシャーナの後ろ盾を頼むぞ」


「はい。もちろんです。この国を立て直したとあれば私の評価は爆上がりですので!」


「おい。最後、心の声出てたぞ」


「あっ!これは失礼しました!」


 モヒートに別れの言葉を伝えて、マルボ達の元へ。


「どうだ。魔石どうするか決まったか?」


「どうやって運ぶか考えているんだけどね」


「ふむ。拙者が担いで自転車に乗るでござるよ」


「いやいや、両手使えないよ」


「ふむ。しかし手が無くても大丈夫でござるよ」


 手を使わずに自転車を乗りこなしてみせるムサシ。


「ついに、完全手放し運転を会得してしまった……」


「もう、常識を捨てよう。ムサシに対しては」


「では、魔石を担いで乗ってみるでござる」


 ムサシが自転車から降りて魔石を担ぎ、また乗る。


 グシャ!


 と一瞬で自転車が潰れた。


「……」


「まぁ、そうなるよね…」


「自転車の強度が耐えられないよな…」


 暫く考える4人。


 短い間だったが、シャーナ・エール・ティア・フロンそしてクリス・マニエル・シルクは分かれの挨拶をしている。


 エール・ティア・フロンはデリンキーヤに残りシャーナを支援する事で国を支える事にした。


 リジュールの弟子になる予定であったが、シャーナが鍛えてくれる事になったので十分と判断したのだ。


 クリス・マニエル・シルクはラーク達に同行する。


 行き場は無い上に、クリス達はディーネを取り戻すという強い意志があるのだ。


「置いていくわけにはいかないか?」

 ラークが魔石を見て言う。


「悪神達に利用されたら困るでござるよ」


「それに、研究材料だし、とんでも無い価値があるからね」


「どれくらいの価値なの?」


「純粋な魔石だったら70兆ゴールドくらいかな」


「兆???」

 ラークが叫ぶ。


 直径7メートル。

 重さは約3500トン。

 1グラム20,000ゴールドの魔石相場を考えれば妥当な計算である。


「粉とか、かき集めて作ったんだろうから、もっと価格は下がると思うけどね。まぁ、そんなことは些末な事だよ」


「戦利品としては十分でござる」


「戦利品扱いなんだ……」


「兆って言ったら億の千倍だぞ!億の!!」


「当たり前だろ。何を言ってるんだ。ラーク君は」


「ふむ。拙者も計算を学んだゆえ、分かるでござるぞ」


「そうなんだ!俺も勉強しなきゃ」


「そうじゃねーーーっ!!」

 ラークの突っ込みは誰も相手にしてくれない。


 ◆◆◆◆


「この魔石の力を使って、荷車の強化魔法に循環させるのはどうでござろう」


 魔石は巨大なので流す力と吸収する力が拮抗できるのである。


 流す量のコントロールで半永久的エネルギー炉になるというとんでもない魔石。

 70兆の価値も納得である。


「それは僕も考えたんだけど、荷車のキャパ的に無理なんだよね」


「あぁ、クリス達も乗せるしベンケーも乗せるからな」

 氷魔法でコールドスリープ中のベンケーも荷車に積まれている。


「いっそ、置いて行くでござるか?」


「え?ベンケーを?」


「あぁ、まぁそんなに戦力にならないしね」

 冷たい返事をするリジュール。


「ちょ!お前ら冷たすぎるぞ!冷たいのは氷魔法だけでいいっ!」

 ラークの突っ込みはスルーされる。


「冗談でござるよ」


「僕らそんな酷い人間じゃないよ」


「うん。基本的には優しいよ俺達」


 何故か冷たい視線の三人。


 リジュールの息の合い方が尋常ではない事に恐怖を覚えるラーク。


 暫く考えるが結局解決策は無く……


「やむえぬ。拙者が担いで走るでござる」

 とムサシが担いで走る事になった。


 リジュールが自転車に乗り、ラークとマルボがレッドコメットに乗り、荷台には氷漬けのベンケーとクリス・マニエル・シルク。

 そして、リジュールの猫達が大量に乗り込んでいる。


「では、シャーナ!この国は任せるでござる」


「はい。いずれまたご一緒に!」


「ごめんね。俺達の代わりに」


「いえ。リジュールさん。またお会いしましょう」


 ラーク達一同を見送り、手を振るシャーナとエール・ティア・フロン。


 大声で叫ぶ。


「ありがとうございましたーー!!」


「必ず国の役に立ちます!!」


「いつかまた!!!」


 クリス達が荷車から顔を出し手を振り返した。


 エール達が見えなくなるまで。


 第5章完

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