213 伍章 其の肆拾 源氏物語
ブラッサン帝国の大型船。
大きな部屋の中でゲンマールと対峙するコンドーとトシ。
船外からその様子をラークが感知スキルで捉える。
部屋の中にはゲンマール他数人。
ゲンマールの脇を固める二人。
ナタリーとジェーダ。
ラークは昼に船内潜伏時に三人が戦う所も感知している。
要注意人物はこの三人。
自作自演戦闘ではあったが、精錬された動きの所作ははっきり分かる。
三人ともかなりの手練れ。
名前:ゲンマール
種族:人
性別:男
年齢:20歳
ジョブ:鬼武者
源頼朝の転生者
名前:ナタリー
種族:人・カイコ族
性別:女
年齢:28歳
ジョブ:尼将軍
北条政子の転生者
名前:ジェーダ
種族:人・カイコ族
性別:男
年齢:31歳
ジョブ:ダークナイト
祇園藤次の転生者
特にジェーダの強さは突出している。
「北条政子……ベンケー殿が言っていた、あの女に気を付けろというのは、おそらく……」
「あぁ、そうだろうな」
「祇園藤次って誰?」
「ふむ。吉岡一門に剣を伝授した室町の名人でござるな。そして鬼陰流伝承者のはずでござる」
「まぁ、やっかいではあるな。でも、シャーナなら正面からでも勝つと思えるんだろ?」
「ふむ。しかし、今回の作戦は【完璧に勝つ】でござる」
「ふっふっふ。燃えてきたよ僕は……」
またも、悪い顔で笑うラーク・マルボ・ムサシ。
震えるクリス・マニエル・シルク。
「会話がはじまるぞ」
ラークの声で静かになる一同。
◆◆◆◆
「クラージュとエッジだったな。昼間の件はご苦労であった。以前にも会った事はあったか?」
ゲンマールは、この国キサバの第一王子。
コンドーことクラージュ、トシことエッジは、この国キサバの貴族の息子。
10年前に国外追放をされたゲンマールではあるが、それ以前での面識は当然ある。
ゲンマールが二人の年齢や顔などを憶えていてもおかしくはない。
「先ほどはご挨拶できる間もなく。あらためて」
「お久しぶりです。ゲンマール様」
恭しく応えるコンドー・トシ。
「それで?用件は何だ?」
ゲンマールが二人を見る。
「ジャスティー王子の捜索を私達にご用命いただきたいのです」
「ほう」
「私達は近隣の街でも顔が効きます。情報は入りやすい。そして隣国であってもある程度は」
「そち達の目的は何じゃ?」
ナタリーが冷たい目で見る。
マルボは言っていた。
必ず信じないであろう――と。
トシがコンドーのフォローをするように、発言する。
「目的ですか……失礼ながら、私達からも質問させていただきます。ジャスティ王子の件――目的は捜索ではございませんね?」
ピクリと眉が動くゲンマールとナタリー。
「私達に、ジャスティ王子の討伐のご用命をいただきたいのです」
「……」
一瞬静寂が生まれる。
「何を言っているのだ?お主達は――弟を殺す言うのか?」
言葉とは違い怒りの感情はない。
「当然でございましょう。源頼朝様が源義経を討伐したように」
表情が変わるゲンマールとナタリー。
「何を言っているのだ……」
トシはゲンマールの目をしっかり見て言う。
「まさか、知らないと思っていたのですか?」
トシはゲンマールに言い切る。
「お前達は何を企んでいる」
計画通り。
討伐を買って出ると言っても、目的が不鮮明であれば信用しない。
それがゲンマールにとってメリットの多きな話であっても。
「シュティール嬢をいただきたいのです」
顔を真っ赤にして言うコンドー。
「んんっ?」
想定外の答えに、驚き声をあげるゲンマール。
シュティール
ジャスティ王子の付き人として常に横にいる存在。
美少女。
そして静御前の転生者。
「おほほほほ。クラージュ様は、あんな子供がお好みでございましょうか。貴方様ならいくらでも良いお方はいらっしゃるでしょう?」
ナタリーが煽るように言う。
「いえ。今でも美少女。そして絶世の美女になる事はお二人も存じておりますでしょう?」
10歳のシュティールを見て、絶世の美女になると想像するのは普通あり得ない。
「静御前の転生者ですから――」
「何っ?」
どうやら、シュティールが静御前の転生者である情報は、ゲンマールやナタリーにも伝わっていないようだ。
「これを、ご献上いたしたいと思います」
マルボ特製の真実の眼鏡。
真実の鏡の理論を応用して相手のステータスを見る事が出来る眼鏡である。
「これは……」
掛けてみて驚きの声を上げるジェーダ。
コンドーとトシのステータスが見れて驚いたのだ。
通常、ステータスは本人の意思表示がなければ覗き見することは出来ない。
「なるほどな……」
ゲンマールが頷きながら言う。
「とはいえ、我らが信じるには値しない提案だな……」
「おや。源頼朝様ともあろうお方が【源氏物語】を知らぬとは言わせませんよ」
ゲンマールの眉が動く。
「……何が言いたい?」
コンドーは落ち着いた声で語り始める。
「源氏物語。
光源氏が幼き紫の上を引き取り、
誰よりも慈しみ、愛し、そして――
理想の女性に育て上げた物語」
ナタリーが薄く笑う。
「ほう。それで?」
「本質は一つ。
美は、幼い頃から見抜くもの……と」
ゲンマールの眼光が鋭くなる。
「……続けよ……」
「つまり――」
コンドーは立ち上がり、堂々と言い放つ。
「源氏物語の思想は、
幼女こそ完成された美の原石である
……という事でございます!」
「…………」
ナタリーが言葉を失った。
コンドーはさらに続ける。
「静御前の転生者たるシュティール嬢。
あの幼い姿がすでに“完成へ至る原石”。
ゆえに――
幼い段階で強く惹かれてしまうのは、
人として自然な欲求なのです!!」
ゲンマールの口元が引きつる。
トシが笑いをこらえるために、太ももを抓りながら補足する。
「昔の貴族は幼い方が好きでしたからね……歴史的に」
船外ではラークが肩を震わせて笑いを堪えている。
マルボは満面の悪い笑顔。
ムサシは苦笑い。
コンドーは胸を張って締めくくる。
「源氏物語を語る以上、
幼女に心動くのは――」
「高貴なる血筋の特権なのでございます!!!」
部屋が静まり返る。
ラークとマルボは結界内で転げ回っていた。
コンドーは若干涙目でマルボの言葉を思い出す。
――「それじゃぁ、頼むよ!ロリコンドーさん!」――
幕末からの転生者のコンドーに、ロリコンの意味は分からないが、深く突き刺ささる言葉であった。
◆◆◆◆
「いいかい、コンドーさん。人にとって最も強い原動力はお金でもない!地位でもない!性癖なんだ!マニアックな趣味なんだよ!!」
少し前。
作戦を練っている最中にマルボから熱弁されるコンドー。
「お金や地位を望んでも信じてくれない。でも性癖を望めば信じる!!これは絶対なんだ!!」
「ふむ。しかしそれも信念でござる。確かにマルボ殿の言う通りでござるな」
「ム……ムサシさんが仰るなら……」
ゲンマール達を信じさせるには、これしか無いと言い切るマルボにコンドー同意するしか無かった。
「しかし、それでも信じぬでござろうな」
「つまり、更に追手がかかる可能性がある」
――そして、今、コンドー達が船を出る。
「ジェーダよ。行ってくれるか?」
「はっ!奴らがジャスティ王子を討てばよし。
そうでなくても追えばジャスティ王子の居場所は分かる。
奴らが結託するなら一緒に討つということですな」
ラークが感知スキルで状況を確認する。
「想定通りだ!皆!配置についてくれ!!」
一同頷き、配置についていく。




