021 壱章 其の弐拾壱 試合始まる
魔物が人々にとって脅威となる存在であり、その数も多いこの異世界において、戦う術を生業とする者は多い。
そして魔物と闘うギルドも冒険者だけではなく、警備保障ギルドやハンターギルド等も存在する。
警備保障ギルド
国街の警備員を派遣するギルドである。
国の軍隊や衛兵とは別組織である。
治安維持に力を入れており犯罪捜査もする世界国際連盟の警察組織も兼ね備えている。
このギルドは全世界に支部があり大きな戦力を保持している。
稼ぎは冒険者に劣るが国家同士の戦争には関与しない。
安定した稼ぎや休暇等警備保障ギルドを選択する者も多い。
ハンターギルド
魔物の狩猟・討伐を生業とするギルドである。
このギルドは、冒険者ギルドとクエストの内容が被ることが多く、例外を除きどちらかのギルドにしか発注できない仕組みになっている。
冒険者ギルドとの最大の違いは、ハンターは拠点を決める必要があり、その拠点を中心とした活動範囲となることだ。
そのため、ハンターギルドは大きな街にしか存在しない。
また、時期や季節によってクエストの量は変化するため、拠点に縛られない冒険者の方が稼ぎは多い。
ただし、ハンターギルドはある程度の保証があり、組織的な活動が多いため、冒険者よりも危険が少ないという利点もある。
したがって、一概にどちらが良いとは言えないのだ。
もう一つ付け加えるとハンターギルドから冒険者ギルドへの移籍は簡単だが、冒険者ギルドからハンターギルドへの移籍は難しい。
◆◆◆◆
港町リゾットには闘技場がある。
1,000人程観客が入るコロシアムであり、三方向で囲むように、冒険者ギルド、ハンターギルド、警備保障ギルドが隣接している。
リゾット冒険者ギルドの支部長は警備保障ギルドに来ていた。
ムサシの相手を出来る手頃な者が冒険者ギルドに現在いないため、警備保障ギルドにお願いしに来たのだ。
ちょうど応接室でハンターギルド支部長と会議中との事。
2人相手に相談する事にした。
「あぁ、いいのがいますよ。リゾット最強候補の一人が」
「ウチも混ぜろ。そのムサシって奴を見極めたい。あれの件もあるしな」
ムサシの相手はかなり強敵になりそうであった。
◆◆◆◆
「何でそうなるんだよっ!」
待機時間が長い事にラークがイラつきはじめる。
急遽行う試合は興行収入が見込まれる事間違い無いと、観客を集めはじめたのである。
ムサシの準備は終わったのだが、闘技場の待機室で待たされる事になった。
ラーク達も集まり待機中会話をしている。
「テンプレ、テンプレ」
「お腹空いたーっ」
「もう少し我慢しましょう」
マルボ、キャメル、ケントは言う。
ワカバは待機中の椅子に座っているムサシのマッサージをしている。
「ワカバもういいでござるよ」
「ううん、ムサシに頑張って欲しいから」
ワカバは年下の子供達によく人形劇を見せていた。
ムサシが街に来た時一緒に見ていた事もあり、よく知った仲でもあった。
ムサシとしては言語習得の為であったが、ワカバは街外れの貧しい家の子で孤児の自分達と境遇が近しい子なのだと思っていた。
ここ数日でムサシは転生者であり世界でもトップクラスに強いという現実を目の当たりにする事になったのだが、弟分感覚がまだ残っているようだ。
「1,000人集まるまで待たせるつもりかよっ」
「仕方ない、このマルボ様が手を貸して差し上げますか」
マルボはそう言って待機室から出て行った。
しばらくするとコロシアム中に設置してある魔法拡声器からマルボの声が聞こえ出した。
「集え!市民たちよ!コロシアムの壮絶な戦いを目撃するのだ!
今宵は、伝説の幕開けとなる瞬間が迫っている!
魔神ヘカトンケイルを1人で倒した少年、ムサシの強さが今、明かされる!
この試合は彼の真の実力を示す初舞台だ!伝説の幕開けを見逃してはならない!
彼の勇気と力、そして培ってきた技術が今、ここで試されるのだ!
さあ、市民たちよ!この壮絶な戦いを見逃すことなく、彼の勇姿に心躍らせろ!
コロシアムの闘いの始まりだ!感動と興奮に包まれたこの瞬間、目撃せよ!」
闘技場の外からワーッと大歓声が聞こえ出した。
あっという間に闘技場は満席となり、闘技場の外にも人集りが出来てしまった。
あまりの盛り上がりに警備保障ギルド構成員が警備に来る始末だった。
ラークはズッコケている。
それを見てキャメルが爆笑する。
マルボが待機室に戻って来たところに、冒険者ギルド職員が入ってきた。
対戦相手の書かれてる紙をムサシに見せて了承を得たいとの事だ。
ムサシが受け取った紙をラークとマルボは覗き込む。
「はぁ?何で対戦相手4人もいるんだよ!」
「む?そういう事でござるか?」
ムサシはまだ文字が読めないので、内容を読んであげた。
ギムレット:警備保障ギルドAAランク
ピース、ホープ、ラッキー:ハンターギルドBランクの獣人犬族の末裔三姉妹。
「随分精鋭を集めたねーっ、犬族の末裔ってたぶんランク以上に強いよ!」
「ピース、ホープ、ラッキーって犬かよ!!」
「今しがた犬と言ったでござるよ?」
「だから犬の“名前”が犬すぎるって話だよ!」
「むむ……犬は犬でござろう」
「ムサシ天才!!」
マルボが爆笑する。
キャメルはマルボの爆笑を見て意味もわからず爆笑する。
ワカバはキャメルの隣で面白いねーと相槌をうつ。
俺の味方はお前だけだとケントに視線をやるが、察したケントはサッと視線を外す。
ラークは絶望するしかなかった。
ムサシ以外は待機室から出るように促され、ラーク達は観客席に向かう。
「って席空いてねーじゃねぇか……」
「どうぞこちらへ」
職員に解説席に誘導される。
「これは……」
「あわよくば解説かナレーションってことかよ」
魂胆が丸見えである。
警備保障ギルドとハンターギルドの支部長も同席していた。
職員が闘技場の端に木刀を10本程立て掛ける。
観客達はいよいよ試合がはじまるとザワつきはじめる。
ムサシと反対側の門が開き1人の男が入場してきた。
「おい?あいつギムレットじゃねーか!」
大都市リゾット最強の一角と言われるギムレットの入場に、観客がざわつく。
さらにピース、ホープ、ラッキーの犬族末裔三姉妹が続いて入場して来て、またも場内は大騒ぎとなる。
ムサシ側の門も開きムサシが入場してきた。
「え?あんな子供が魔神を倒したってのか?」
観客達は別の意味でざわつく。
「どう見てもただの子供だよ!詐欺じゃねーかっ!」
場内はブーイングに包まれた。
ムサシは気にせず立て掛けられた木刀を取って試し振りをしている。
自前の木刀は危ないので、用意した試合用の柔らかい木刀を使うように言われた。
長さが木刀と同じ程で、反りは無く発泡スチロールより少し硬い程度の軽い木の棒。
ギムレットはムサシの素振りを見て眉間にシワを寄せた。
ムサシのその仕草、表情、佇まい、その全てが強者だと悟る。
試合が始まる前である。
開始の合図どころか選手の紹介を待たずに、三姉妹の1人がムサシの背後から襲いかかった。
「汚ねぇっ!」
「でも残念!」
ラークとマルボが呟いた瞬間、ムサシはスッと攻撃をかわし木刀で首元を強打した。
柔らかい木刀は粉々に砕け、三姉妹の1人はそのまま気絶して倒れ込む。
「うおっ!なんだっ?全然見えなかったぞ!」
「何だ今の!速すぎて見えないなんてあるのかよ!」
「本当に魔神倒したのか」
観客達から驚愕と感嘆の声が上がる。
「ふむ。早速一本駄目にしてしまったでござる」
何事も無かったかのようにムサシは別の木刀の試し振りを始める。
「そういえば、そなたの名前も聞いていなかったでござるな。まぁ戦いは会場に入った時から始まっているものでござるよ」
ムサシが戦いの場で隙を見せる訳が無い。
隙と見せ掛けて相手を誘い出したのだ。




