207 伍章 其の参拾肆 リジュール
クリスがモヒート達の持ってきた武器を2本持つ。
クリスも二刀流をするのかと思ったら、魔石から出ている腕に持たせた。
自身の片方の手でも剣を持つ。
左手で魔石を持ち山本五郎左衛門の腕での変則二刀流。
下衆野郎に向かって走り出す。
マニエルはシルクをカバーしながら魔法を使い続ける。
少し呆気に取られるソウジ。
「大丈夫そうかな……モヒートさん達、あの子達のフォローを……」
モヒートとギムレットも武器を持ってクリス達に加勢する。
戦神の如く鬼ゾンビ達を蹴散らしていくシャーナ。
そして、クリス、マニエル、シルク。
「ならば」
ソウジは構える方向をシャムローに変える。
シャムローはシャーナの強さに怯えているようだ。
魔人化しても気の弱さは変わらないらしい。
それならば――
――! ――! ――!
ソウジの三段突きがシャムローに炸裂する。
胸、腹、喉に刺さりシャムローは絶命する。
同時に鬼ゾンビ達は消滅した。
シャーナが振り向きクリス達を見る。
クリス達は善戦している。
攻撃は捌いていて隙を見て攻撃を浴びせている。
だが、致命傷を与える事は出来ていない。
「シャーナ」
ソウジがシャーナに何かを渡す。
「最後まであの子達に……という事ですね」
「うん。手助け少しだけ」
シャーナはソウジの指示を理解し、クリス達の元へ向かう。
下衆野郎の強烈な攻撃がシルクを襲おうとした瞬間――
シャーナが割って入ったかと思うと下衆野郎が大きく仰け反った。
「とどめを!」
シルクに向かって叫ぶ。
シルクは下衆野郎に向かって、全力でディーネの太刀を振るった。
「グアァァァァァ」
下衆野郎はその場で消滅していった。
シャーナが持っていた物。
ソウジが持っていたメガナーダの魔族の籠手。
相手の攻撃を反発させる籠手である。
◆◆◆◆
「一撃だけなんて言って三段撃つなんて……」
胡坐をかいて座り込んでいるソウジにシャーナが声を掛ける。
「ゴホッ……いや、一撃でしょ。俺にとっては……」
「もう喋らないでください……」
シロの浄化魔法で身体が保ててはいるが、結局、喀血してしまったようだ。
クリス達も心配そうにソウジを見ている。
「状況を……教えてくれるかい?」
なおも喋るソウジ。
クリス達が話す。
ディーネがヤーシャに連れていかれた事。
必ず機会は来る。私を信じて――と。
そして、ヤーシャには情がある――と。
モヒートも状況を話た。
突然、牢の中のシャムローと下衆野郎が魔人化して暴れ、建物を崩壊させた。
牢にいたメガナーダはどこかへ消えたようだ。
そして、他の牢にいた者達は魔人化したシャムローに殺された。
「仲間だったのに……」
牢にはシャムローと一緒に捕まった仲間のコーレットやカーザックも……。
この混沌は街の全域に及んでいるようだ。
「ラーク君やマルボ君は?」
クリスが途中でマルボも会った事を話す。
呆然としていて全く声が届いていないようだと。
ソウジは目を閉じて考える。
コンドー、トシはどうしているか。
ヴェスパーの棲家に向かって然程時間は経っていない。
しかし、この混乱の中、街のために動かないはずはない。
コンドー・トシを探すべきか。
ラークを探すべきか。
マルボの所へ行くか。
「ムサシ君はどうしてるか分かる?」
「ムサシさんは、おじさん……魔人と戦っています…」
遠くで強い魔力の衝突を微かに感じる。
感知力は並のソウジがこれだけ感じれるのはかなりの敵。
ふと、シャーナを見る。
「行かなくていいの?」
「はい。ムサシ様は私にやるべき事をやれと言うはずです」
この返事にソウジはハッとする。
ソウジ自身の矛盾――
自分で、"生まれ変わったのだから前世と違う生き方をするべき"と考えていたのに、今世でもコンドーに依存していた事を――
シャーナはムサシとマルボの魔力で作られた存在。
比率は圧倒的にムサシ。
シャーナにとってムサシは全て。
なのにシャーナはムサシの指示には従っても、それはシャーナ自身の意思によるもの。
ムサシと違う場所にいてもムサシのやろうとしている事を理解して動く。
――この世界に来て自分の在り方を考えてなかった……
俺は――前世の延長線上にいるだけだった――
「エール達が心配だ。魔法と生活の森に向かおう」
「ソウジさん。お体に触ります」
「あれで、俺を運んでくれるかい?」
レッドコメットを指差すソウジ。
「わかりました」
クリス達を見る。
ここにいろと言ってもついてくるのは間違いない。
「あまり、揺らさないで速度抑えて頼むよ」
それは、クリス達が走って着いて来れる程度という意味。
「あの、私達はどうしましょう……」
モヒートが言う。
「ここで、待機を。誰か来たら状況を伝えて」
ソウジが言う。
シャーナがレッドコメットに乗り、ソウジを後ろに乗せる。
レッドコメットは移動してクリス達は着いて行く。
モヒート達は、見送りながら、自分達は6歳の女の子よりも役に立たないのではないかと少し落ち込んでいた。
◆◆◆◆
レッドコメットが走り暫くすると、シャーナが、異変を感じる。
「何か、大きめの魔力が……」
その方向を指差すシャーナ。
その方向は魔法と生活の森と中央統治庁の中間地点辺り。
「寄ってみよう」
ソウジが判断する。
その現場は、最悪で残酷な光景。
街の人々が争い、三体の魔人が暴れている。
見間違うはずがない。
ムサシとマルボが作った魔剣を振り回している。
「エール、ティア、フロン……何で……」
「あっ!ラークさん!」
膝立ちで茫然としているラークの姿を見つけた。
絶望している……。
ラークは、
前世で交通事故で亡くなった事で、愛する家族と別れ孤独になった。
女の子を見ると、前世の娘、結愛を思い出す。
喧嘩した朝が最後の別れの言葉。
父性として女性を守りたい気持ちが常にある。
だが、この世界で―
好意を持たれたエルフの勇者マティは、悪神に堕とされ―
仲間となったディーネは悪神に連れ去られ―
フィオナは悪神の手先であった―
そして、慕ってくれたエール・ティア・フロンが魔人化―
親友マルボの絶望―
「皆んな。時間を稼いで。あの魔人は、大事な仲間なんだ。殺さないで欲しい」
レッドコメットを降りたソウジが歩きはじめる。
「ソウジさん?何を?」
「ラーク君を復活させてみせる」
◆◆◆◆
「ラーク君」
「ソウジ……」
虚ろな目で答えるラーク。
シロが肩に乗り浄化魔法をかけ続けている。
依然としてソウジは危険な状態だ。
「ディーネちゃんの事は聞いたよ」
「あぁ…連れて行かれちまった…フィオナも…」
「フィオナが?」
「フィオナは悪神側に堕ちていたんだってよ…」
「そうか…」
フィオナはコンドーの弟子。ソウジもよく知った仲であるが、驚きはしたものの、あまり動揺は無いようだ。
「驚かないのか?」
力弱くラークは言う。
いつもの覇気が無い。
「まぁね。驚きはするけど、前世で散々慣れてるからさ」
新撰組――
仲間も幕府も、頼った背中が全て崩れていく――前世で嫌というほど見てきた沖田総司。
「……強いんだな……俺は…所詮、人間が神様に立ち向かおうなんて夢物語だったって……ちょっと本気出せば、こんな簡単に壊れちまうんだよ」
「まだ、終わって無いだろ」
「あぁ…頭では分かってるけどな…」
暫く二人だけの静寂が続く。
「人は、別れるために出会うわけじゃない」
「?」
「きっと大きな意味があるんだ。だから繋がりを信じて……」
「繋がり……」
「エールとも、ティアとも、フロンとも、繋がりを信じる。必ず取り戻してみせる。ディーネちゃんも」
ソウジが刀を抜く。
ムサシとマルボが作った魔刀。
「俺達の繋がりは切られないんだ」
「ソウジ……」
悪の思考の魔力で、急激に病気が進行している。
顔は青白く、冷や汗が出ている。
しかし、声は落ち着いている。
その時であった。
ソウジの中心に魔法陣が展開される。
浄化魔法と回復魔法が同時に。
「マルボ……」
「待たせてごめん。何とかしよう」
「お前……」
「昨日まで奴隷だった子供達に、いつまでも支えて貰うわけにいかないだろ」
復活したのか?だが、目に光は無い。無理をしているのが分かる。
「ソウジ。僕が魔法をかけ続けていれば戦えるだろ?」
「大丈夫そうだけど、他にも魔法使うんだろ?」
「これくらい余裕余裕」
「……」
マルボを見るラーク。
「ラーク。復活したら手を貸して」
ラークの目を"見ない"まま言う。
マルボとソウジはエール達の元へ向かい歩き始める。
ふと、ソウジはラークの方に振り返る。
「あ、今から俺の事はリジュールで呼んでね」
「え?急に何で?」ソウジの言葉にマルボが言う。
「前世と決別するために」
「!!」
ラークに深く言葉が染み込む。




