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205 伍章 其の参拾弐 小さな光

 ラークが立ち上がる。


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせ周りを見る。


 街中が混乱の極みである。


 人々が殺し合っている。


 この惨劇を止めなければ――

 自分に出来る事はないか、考える。


 ムサシの援護に行くか。


 ディーネの元に行くか。


 ソウジとシャーナは?


 コンドーとトシは?


 今はディーネを気に掛ける方が良い――


 マルボを見る。


「無理か……」


 すぐに立ち直れそうではない。


 どうする?


 ディーネがいる漁場の方を向いた時、こちらに向かって何かが飛んでいる。


 速い。


「!!」


 上空をすれ違った。


 目が合う。


 ディーネと。


 ディーネを抱えたヤーシャが上空を飛んで行った。


「ディーネーっ!」


 冷静な時であれば、追いつけない事を理解できる。


 ヤーシャは神鳥ガルダを宿した魔神。


 昨晩の一瞬の空の攻防は飛び去った瞬間に追いかけたからであり、この状況で追いかけても追いつくはずはない。


 しかし、今のラークは冷静さを欠いている。


「あのクソカラスッ!何度も何度もっ!」


 ラークは必死でヤーシャを追いかけている。


 距離は離れるばかり。


「くそっ!くそがーっ!」


 どれほど走ったろうか。


 全力で走るが、もうヤーシャは見えない。


「くそっ!くそっ!」


 呼吸を乱し、膝に手をつく。


「ハァッハァッ…あの野郎…」


 ――


「?」


 ふと、周りを見ると人々の争いが激しい。


 そして、三体の魔人が暴れている。


「……なんだ…これは…」


 魔人は翼が生えて角もあり、牙もある。


 だが、見た事のある武器を振り回している。


 見た事のある服を着ている。


 暴れながら、魔人は涙を流している。


 その顔には面影がある。


「そんな……馬鹿な……」


 ラークはその場で膝から崩れ落ちる。


 確信する。


 エール・ティア・フロン……


「何で……何でお前らが魔人になってんだーっ!」


 ◆◆◆◆


 ヤーシャが見えなくなって暫く経った漁場。


 クリスが立ち上がる。


「いつまでも泣いてないで!」


「だって…だって…」


「お姉ちゃんが…」

 マニエルとクリスはまだ泣き止まない。


 クリスはポシェットから魔石を取り出して山本五郎左衛門に向ける。

「お願いっ!」


 クリスは魔物使い。


 魔石に魔物を宿す事ができる。


 本来、自分より強い魔物を宿す事は出来ないが、弱っている場合は別である。


 後は山本五郎左衛門が魔物であるかどうか……


 魔物の定義で作られたとはいえ、魔物かどうか疑うような存在……


 だが――

 魔石が光り輝き山本五郎左衛門は吸収されて行く。


「やった!」

 魔石は鈍く光っている。

 まだ、山本五郎左衛門は生きている。


 クリスは泣き止まないマニエルとシルクへ言う。

「お姉ちゃん言ってたじゃない!必ず機会が来るって!」

「……」

「……」

「信じてって!」

「……」

「……」


「泣いてたって何も変わらない!私達はもう奴隷じゃない!今度は私達がお姉ちゃんを助けるのっ!」

 クリスの目にもまだ涙が浮かんでいる。


 しかし、その目は覚悟を決めた目をしている。


「……私達が……」


「私達は……」


 クリス9歳、マニエル8歳、シルク6歳。


 昨日まで奴隷を強いられていた魔族。


 解放の儀式を強いられた魔族は行く宛は無い。


 そんな自分達の生きる道を示してくれたディーネ。

 ――この子達のお姉ちゃんになるって決めたから――そう言ってくれたディーネ。


 そんなディーネが拐われた。


 奴隷時代の様に受け身で、他人に操られる様な事はしない――


 助けるんだ――


「私達は戦うの!お姉ちゃんを取り戻すの!」


 マニエルは涙を拭いてディーネの弓を持つ。


 シルクは頷いてディーネの太刀を持ち立ち上がる。


 覚悟に年齢は関係ない。


「漁師さん達!頑張ってください」


 混乱している漁師達に別れを告げて立ち去る。


 絶望のデリンキーヤの中で、わずかな希望の光が輝きはじめた。


 ◆◆◆◆


 縦横無尽に飛び回る大魔刀・童子切安綱。


 飛び交う外法鬼陰流・覇魂の炎の矢。


 近づけば太刀で応戦。


 4メートル程の魔人となったギャラクーダ。


 源為朝の転生者であり、アストー・ウィーザートゥを宿した、まさに悪魔の化身と言える。


 速度・力・体力――

 技量・技術・業――

 経験・勘――


 この世界において、ムサシが戦う相手で未来を踏まえても最高峰であろう。


 ムサシとギャラクーダを中心に、辺りは何も無い平地へとなっていく。


 建物は吹き飛び、岩も砕け、砂煙が舞い上がる。


 樹木も草も剥ぎ取られ何も無い平地。


 この何も無いところに、三人の少女が視界に入る。


 クリス・マニエル・シルク。


 ディーネが連れ去られたのは何となく気付いていた。

 山本五郎左衛門は――?


 いつもであれば、他にも思考が巡るであろう。


 しかし、今は目の前にいるのは、最強のギャラクーダ。


 意識は削げない。


 だが――

 一瞬ギャラクーダの動きが止まり三人を見る。


 ムサシは警戒をするが、ギャラクーダは微動だにせず三人を見ている。


 この戦いで初めての膠着状態――


 この隙を逃すムサシではないのだが――


「行くでござるっ!この場は拙者にっ!」


 クリス達は走り去っていく。


 あれは決意の目――


 もしかすると、今デリンキーヤを託せるのはクリス達だけかもしれない。

 そんな気がしていた。


 クリス達が去っていく様子をギャラクーダは眺めていた。


 その目に宿るのは微かな優しさ――


「お主…なぜ堕ちた…」


 ムサシの言葉にギャラクーダは嘲笑う。


「こうなっちまったんだよ…後悔はしてねぇ…」


 ◆◆◆◆


「今の、私を助けてくれたおじさんだよね…」


 涙を浮かべながらディーネの太刀を強く握りしめて走るシルク。


 船が転覆して溺れたシルクを助けてくれたギャラクーダが魔人として暴れている。


「悪い人だったの……?」


 優しい言葉を掛けてくれた

 おじさんが――


「分かんない……分かんないけど……でも、私達を助けてくれたのは本当だよね」

 マニエルが答える。


「仲良くやって強く生きろよ――って言ってくれたよね」

 クリスが呟く。


 ラークが夕方には警備保障ギルドに戻るように言っていた。


 まずは、警備保障ギルドに行って誰かに話を――

 自分達が何をすればいいのか――


 街中、混沌とした状況は続いている。

 たった数百メートルの距離でも、凶暴化した人々がクリス達を襲う。


 ムサシ、ソウジから天才と称された三人。

 凶暴化しているとはいえ人々の攻撃くらいは避ける事が出来る。


 視界に赤く光る何かが見えた。


「あ!あの赤い乗り物!」


 レッドコメットが前方に見える。


 近づいてみると、膝立ちのまま呆然としているマルボが見える。


「マルボさん!」


 クリスが大きな声で呼びかける。


「……あぁ…」


 気の抜けた声を出すマルボ。


 クリスは必死で状況を説明する。

 マルボの服にしがみつき、涙を浮かべながら。


「――っ!――!」


 マルボはボーッとしているのか、話を聞いてはいるものの表情に変化は無い。


「私達にっ!私達に何か出来る事は無いですかっ?」


 マルボからの返事は無い。

 届いていない――


 マルボに何か絶望的な事が起きたのだと察する。


「クリスっ!」


 マニエルがクリスに声を掛けた。


 クリスが振り向くと、マニエルとシルクがレッドコメットに乗っている。


「こうやって、たぶんこうして……」


 レッドコメットが動き始めた。


「やった!動いた!」

「クリス!乗って!」


 マニエルに促され、クリスもレッドコメットに乗る。


 大人二人乗りのSF的自転車だが、子供三人なら乗れるスペースは十分。


 ペダルに足は届かないが、魔力で動かせるハイブリッド式。


「マルボさん!先に行ってます!」


 クリスが声を掛け、レッドコメットを発進させる。


 とにかく警備保障ギルドに向かおうと。


 自分達が何をしていいかも分からないが、必死で直感のままに動く。


「キャーーーッ!!」


 想像以上にスピードが出たレッドコメットに驚く三人。


 今までの三人であれば、怖がっていただけであろう。


 しかし、覚悟を決めた者であれば恐怖で足を竦ませたりしない。

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