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204 伍章 其の参拾壱 堕降深淵

 漁場付近の漁師達。

 ”アカ・マナフ悪の思考”と、ヤーシャの幻術で錯乱している。


 クリス・マニエル・シルクの三人は膝から崩れ落ちて泣いている。


 自身の魔力は強いので悪の思考の影響に支配はされていない。


 しかし、苦しみはあるようだ。


 何より、目の前に山本五郎左衛門が倒れ消滅寸前なのである。


「もぅ、諦めて、私に着いてくるべきですよ。街の状況は感じているでしょう?

 貴女は私に勝つ事はできない。この状況で私がこの街に干渉する事になれば、もっと悲惨な事になる」


「そんな脅しは……」


「いえ、私は真面目にお話ししています。もぅ、時間はありません」


「あんた達がムサシに勝てるとも思えないけどっ!」


「ふふっ!その為の最強の兵。ギャラクーダさんですよ。

 そして、今、魔人化を果たしました。

 年齢的に不完全でしたのでヴァルテイン様のお力添えが必要だったのですが……」


 ディーネは既に覚悟を決めている。

 この場はヤーシャに着いて行くしか道はない。


 だが、少しでも情報を引き出し、クリス・マニエル・シルクからラーク達に伝えて欲しいと粘っている。


 山本五郎左衛門とヤーシャの戦い。


 周囲に被害が出ないようディーネは大型の結界魔法を展開させた。


 魔法を覚えたのは数日前。

 しかし、天才ディーネは短期間に大型結界魔法を扱えるようになっている。


 だが、期待の山本五郎左衛門はヤーシャにあっさりと負けてしまった。


 いや、ヤーシャが強いのだ。


 戦いとは多くの状況が絡み合う。


 昨夜、ムサシ・ラーク・マルボとヤーシャ・ギャラクーダの戦いはムサシ達に分があった。


 しかし、ジャスティとの戦いやムサシの一撃を喰らった事などの消耗もある。


 魔神を宿しているヤーシャは一晩で全開しているようだ。


 一対一では山本五郎左衛門に勝てる相手ではなかった。


「あんたの目的は何なの?義経様を襲ったと聞いたけど、私が目的というのと関係があるの?」


「そうですね。関係はありません。頼まれただけです」


「頼朝に……」

 ディーネは歯噛みする。


「私の目的は貴女だけです。ヴァルテイン様の目的はこの国を混乱させるだけ。ゲンマール王子はこの国の支配。利害一致で行動しました」


「ゲンマール……頼朝は仲間で無いってこと?」


「そうですね。ヴァルテイン様とは同朋ですが、ゲンマール王子は思惑があるようです。まぁ、利用できるなら利用して、邪魔になるなら消すというのがお考えのようですね」


 ディーネはちらりとクリス達を見る。


 マニエルとシルクは本当に泣いているがクリスは泣き真似。


 クリスは話を聞いていると確信する。


 頭のいい子――

 奴隷であった経験――


「良く喋ると思いますか?問題ありません。ラークさん達に伝わる事はないのですから」


 ヤーシャはそう言ってクリス達を見る。


 ここまでか―

 ディーネは諦めた。


「この子達をあんたに殺せるのかしら?」


 後はハッタリ――


「えぇ。何か問題でも?」


「三姉妹で思う事ないの?」


「!?」


 ディーネに浅井長政の知識は全く無い。

 クリス達は姉妹でもない。


 ただ、咄嗟に出てしまったハッタリ。

 だが、言うだけ言ってみたその言葉がヤーシャの心を揺さぶった――


「そう……なのですか?」


 すこし、ヤーシャに動揺が見える。


 そう、ヤーシャは浅井長政の転生者。


 浅井長政に三姉妹と伝えるだけで思い浮かべる。


 三人の娘、茶々・初・江。


 勝手にその転生者と思うのである。


「さぁ、どうかしら…」

 何が起こっているのか――

 ディーネには分からないが、動揺が見えた事でハッタリを続ける。


 そして――


「この子達に手を出さないという条件を飲むなら、着いていくは」


「……」


 ヤーシャはクリス達三人に自分を明かす事は出来ない。


 悪神に堕ちたなど愛すべき娘達に言うことは出来ないのだ。


「わかりました。いいでしょう。条件を飲みます」


「ありがとう。お別れの言葉をこの子達にさせてもらえるかしら?」


「分かりました」


 少しヤーシャが離れる。


 気を効かせたのだろう。


 だが、この距離が決定打。


 ヤーシャにディーネの言葉を届かなくする。


 ディーネはこのチャンスを見逃さず、三人を抱きしめて小声で話をする。


「必ず機会は来る。私を信じてと伝えて。後、ヤーシャには情があるって……」


 クリスは頷き、マニエル、シルクは泣きじゃくっている。


「元気でねっ!強く生きてっ!」

 涙ながらディーネが三人を強く抱きしめ叫ぶ。


 それを聞いたヤーシャがくるりと振り返り近づいてくる。


「そろそろよろしいでしょうか?こちらも時間が無いんですよ」

 ヤーシャがディーネに声を掛ける。


 ディーネを見てはいない。

 視線の先はクリス・マニエル・シルク。


 ディーネは太刀と弓をクリス達に渡す。


 あたかも別れの品のように渡すがマルボの技術を解読させない為に置いていく。


 ヤーシャが魔人化し、ディーネを抱え飛び立つ。


 ディーネは最後に山本五郎左衛門を見て声を掛ける。


「ありがとう。ごめんね……」


 空中を駆けるヤーシャは、最後までクリス達を目で追っていた。


◆◆◆◆


 魔法と生活の森の活動家達は武器を持ち、暴れながら中央統治庁に向かう。


 中央統治庁の方からは職員や兵士達が武器を持ってやってきた。


「新政府の奴らだっ!皆殺しにしろっ!」


「殺せぇぇぇっ!」


「森のやつらだっ!市民のゴミどもだっ!」


「やっちまえっ!」


 ついに街の中で市民と職員の戦いが始まった。


 それを悲痛な表情で見ているフロン・エール・ティア。


「やめてっ!やめてぇぇっ!」

 何とか割って入り止めようとするが、誰も聞く耳をもたずフロンの言葉は消えていく。


「どうしちゃったの?急に……」

 エールが呆然と呟く。


 何とか止めようとフロンが叫ぶも、一向に収まる気配はない。


 フロンの姿を見てエールとティアも諦めずに止めようと努力する。


 しかし、言葉はもう届かない。


「こんなのおかしいよっ!普通じゃないっ!」

 ティアが叫ぶ。


「どうして、こんな…」


 ラーク達と一緒にデリンキーヤに帰ってくると決意したのは、ほんの数日前。


 自分達に何か出来る。


 出来る事を探すんだと。


 現実から逃げるのではなく、向き合って、少しでも変えていきたい。


 そんな思いを胸に秘めて、この街、この国の為に尽くそうと。


 なのに――


 なんで――


 なんでっ!?


 膝から崩れ落ちてフロンが涙を流す。

「何で、何も出来ないの…」


 ティアも呆然と立ち尽くして呟くように言う。

「私達、何の…力もない…」


「ラークさん達だったら…」


「もっと…もっと…強かったら…もっと頑張ってれば…」


 絶望を通り越して、涙が出てくる。


 突如――

 胸が苦しむ。


 抑えつけなければいけないような苦しさに襲われる。


「くっ!……苦しい……」


「私も……うぅ……」


 ティアが苦しんでいる時にエールも同じように苦しむ。


『力を求めよ──さらば与えられん―』


「何?」


 頭の中に声が聞こえる…


『闇を叩け──さらば開かれん。深淵を索めよ──さらば応えん』


「何?何なの?これ?何なの?」


『汝の嘆き、汝の涙、汝の折れし正義、

 そのすべてが、我が門を啓く鍵なり。

 ――見よ。――汝が助けを乞うた時、誰ひとり応ぜず。

 汝が救いを叫んだ時、その声は虚空に消えたり』


 エール、ティア、フロンの心臓が張り裂けるように疼く……


『これぞ、人の世。

 ―これぞ、光の欺き。

 ――ゆえに、求めよ。

 ――怒りを。嘆きを。

 ―失いし者らの断末の声を。

 ――汝が救えざりし者らは、いま闇の底より呻く――われらの無念を、力に変えよ――と』


「うぐっ!」

「ぐぅぅ……」

「あぁぁぁっ」


『我、聞けり。

 ―我、応えん。

 ――汝が血に潜みし毒、既に脈動し、門はひらかれたり。

 ――願え。

 ――人を棄ててなお余りある力を──』


「いや…嫌ぁぁぁぁっ」


『求むる者に、我は与えん。

 ―その魂を裂く代わりに。

 ―さあ、言え。

 ――力を求めよ──さらば与えられん

 ――と。そのことばは契約となり、汝は陥ち、汝は歪み、汝は新たなる獣となる』


「嫌ぁぁぁぁぁぁっ!やめてぇぇっっ!」


『……堕ちよ』


「がぁ…っ…アァァァァッッ!!」

「アァァァァ!!」

「イヤァァァァッ!!」


 エール・ティア・フロンの身体から大きな翼が生え、身体の色が変わりだす。


 目が赤くなり、角が生え牙を生やす。

 爪は鋭く尖り、身体を覆う肌は鱗のような硬質なものへと変わる。


 その姿は……

 禍々しく

 醜悪に――

 魔人へと変わった――

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