201 伍章 其の弐拾捌 鬼陰流
漁場では宴会も終わり、魚の処理を行う港の人達。
「お嬢ちゃん達。もう、俺達で十分だ。また今度魔物退治に来てくれよ」
「うーん。私達もうすぐ別の国行くから、もう来れないんです」
「何だって?おいっ!皆!」
ディーネの話しに驚き、漁師の一人が皆を集める。
「なんだ?」
「もっと早く言ってくれよ」
「今夜も宴会だな」
などと言いながら、悲しみと喜びの混ざった感情で皆集まる。
まさか、一日のクエストでこんな事になるとは思わなかったディーネ。
しかし、いい人達に出会えた事も確かだ。
微笑ましく思い漁師達の顔を一人一人見る。
一期一会であっても、心に刻んでいこう。
この漁師達が幸せになれますように。
だが――
その漁師達の顔が歪んでいく――
!?
広域に突如現れた霧。
背後から近付く気配。
「貴女の成長は早過ぎる。魂が揺れるのを待っていましたが、これ以上成長すると堕とすのは困難となるでしょう」
「ヤーシャ……」
ガルダの魂を宿いし浅井長政の転生者:ヤーシャ。
太刀に手を添えるディーネ。
クリス・マニエル・シルクは何故か笑っている。
漁師達も歪んでいるように見えるが笑っている。
「――幻術?」
「私と戦いますか?私と貴女が戦えは、この方々を巻き込むのは必須ですよ」
「くっ!……」
ムサシ達が戦っても勝てるかどうかと判断した相手。
昨晩も決定打を与えることは出来なかったと聞いた。
そして、クリス達や漁師達を守りながら戦えるのか。
「私の目的は最初から貴女だけです。この国の事はどうでもいいのです。貴女は私に着いてくるしかない。そう思いませんか?」
笑みを浮かべ敵意は無いと両手を広げ、ゆっくりと近付くヤーシャ。
「それで、着いてったとして、私が魔神に堕ちるとは思えないけど?」
強がり。
時間稼ぎ。
打開策を探す。
「時間稼ぎは無駄ですよ。ラークさんもマルボさんも、そしてムサシさんもここには来れません」
ムサシはギャラクーダと戦闘中。
ラーク・マルボもビーゼ・ナナエムと戦闘中。
ソウジ・シャーナは距離が遠い。
コンドーとトシはヴェスパーに気絶させられた。
その現状を、ディーネは知っていなくても、ヤーシャの言葉で察する。
駆けつけてくる仲間の期待はできない。
何か――
何か打開策は――?
「あっしに幻術魔法は効きやせんよ」
まだ山本五郎左衛門がいる!
◆◆◆◆
大魔刀・童子切安綱を振り回すギャラクーダ。
太刀筋は直線的のため避け易いが、素早く切返しリーチ差もある。
厄介な相手――
「そのような攻撃に当たるほど鈍くは無いでござる」
ムサシの回避能力は高く、余裕を持った回避を何度も成功させていく。
だが、ギャラクーダに攻撃を与えられない。
振り回してのギャラクーダの体力切れを待つ程の余裕はムサシにはない。
ディーネの元へ一刻も早く駆けつけたい。
活路はギャラクーダの強撃。
地面に叩きつける程の一撃であれば、切返しの隙が生まれるはず。
どうやって強撃を誘うか……。
源為朝
身長が高く、左腕が生まれつき長かったと聞く。
その特性を活かして大弓が得意だったという逸話。
戦果を上げた大弓は特殊な弓であったと考えられる。
強靭な腕力が無ければ扱えない。
腕力に誇りを持っている。
ギャラクーダの性格を考えれば、誇りを誘発しやすい。
大魔刀・童子切安綱を上段に構えた刹那――
ムサシが間を詰める。
瞬時にギャラクーダの上段剣撃。
ムサシが剣撃に対して木刀を振り上げる。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
魔力で光輝く木刀と、童子切安綱の正面衝突。
ムサシの一撃が弾き返す。
ムサシもバランスを崩す。
ギャラクーダの眉が僅かに動く。
力と力の勝負に誇りが揺らぐ。
「おおおぉぉぉっ!」
ギャラクーダそのまま弾かれた童子切を振り下ろす。
プライドを賭けたギャラクーダの強撃――
プライドを誘導したムサシ――
大地が割れる程の一撃!
だが、その場にムサシはすでにいない。
ムサシの一撃がギャラクーダに――
「!!」
いるはずの場所にいない。
ギャラクーダの動きを目で追う。
大魔刀・童子切安綱を軸にして体を翻していた。
「その体躯で器用な事を……」
◆◆◆◆
自身を軸に大魔刀・童子切安綱を振り回し、
逆に大魔刀・童子切安綱を軸に自身の体を振り回す。
変幻自在の攻撃を繰り広げるギャラクーダ。
近くで山本五郎左衛門の魔力を感じる。
戦闘が始まった事を知る。
ヤーシャがディーネの元に来た事を察する。
常に冷静を心掛けるべきと判っていても、焦りを感じるムサシ。
「焦りが出ているなぁ!宮本武蔵さんよぉっ!」
横薙ぎの攻撃と同時に言葉での精神への攻撃。
動揺は命取り。
精神も刃を研ぐ如く鍛錬せよ。
何度も自分に言い聞かせてきた教え。
その教えを忠実に守ってきた。
常に冷静で在るべし――
「一人の小娘に随分ご執心じゃねぇか!散々人を殺した鬼がよおっ!」
今はギャラクーダの太刀筋に集中せよ。
惑わされる事なく。
ただ剣筋のみを見よ。
ギャラクーダの口元が笑みを浮かべる。
「埒が明かねぇな」
突如ギャラクーダが大魔刀・童子切安綱を右手のみで持ち右肩で担ぐ。
空いた左手をかざす。
「外法鬼陰流・破魂!!」
赤く黒く鋭い三本の矢が飛んでくる。
「魔法っ!?」
咄嗟に木刀で叩き落とす。
ムサシに隙が
――
「何故、今の隙に魔刀で仕留めぬ?」
「お前とは力と力で勝負したかったんだがなぁ。これは弓術をこの世界で昇華させた魔法だ。俺は元々弓が得意なんでな」
「技を見せて正々堂々とでも?」
「おうよっ!」
眼光は鋭くも口に笑み。
「ふむ。お主の方がよほど綺麗事を並べるでごさるな」
「うるせえんだよ!聖者を気取る人殺しの鬼が!」
◆◆◆◆
「外法鬼陰流・破魂!!」
再び三本の鋭い矢が放たれる。
威力は高い。
見せ技ではない。
木刀で捌くと魔刀が迫る。
この二つの連携を躱すだけで時間が削られていく。
ムサシは糸口を探す。
焦ればそれだけ判断が鈍くなる。
まずは冷静に。
鬼陰流――
前世では聞いた事は無いが、陰流といえば剣の流派は多い。
源為朝の時代は宮本武蔵の時代より、およそ500年前。
昨夜の戦いの場でも言っていた。
源義経の転生者であるジャスティ王子の動きを見てギャラクーダは確かに言った。
――「いいぞ甥っ子!まさか鬼陰流とは恐れ入ったぜ!やっちまえ!」――と……
同じ流派?
同じ師?
源義経の師といえば鞍馬天狗?
もしくは…
鬼一法眼?
鬼一法眼が実在した人物?
鬼陰流の創設者?
可能性としては捨てきれない。
「お主、鬼陰流とは鬼一法眼の流派でござるか?」
「よく知ってるじゃねぇか。ジジィは有名だなっ!」
もちろんムサシは知らない。推測しただけ。
「源義経殿も鬼一法眼が師でござるか?」
「さぁな!甥っ子とは会った事ねぇからな!ジジィが教えたんだろうけどなっ!」
ならば、同じ技があるはず。
同じ流派であるならば。
「お喋りは終いだっ!外法鬼陰流・破魂!」
三本の矢の魔法。
しかし、ムサシはその魔法に向かって前へ出る。
ジャスティは精霊魔法と剣撃を同時には扱えなかった。
一つ!
二つ!
魔法の矢を木刀で捌くが――
ムサシに三本目が直撃して燃え上がる。
「ぬうっ…はぁっ!」
全身から魔力を放出して炎をかき消す。
だが――
「貰ったぁぁぁぁっ!」
ムサシに大魔刀・童子切安綱の一太刀が直撃!
「!?」
確かに、直撃したはずであった。
「せやぁっ!」
ムサシの木刀がギャラクーダの額を捉える。
ギャラクーダの額が割れる。
膝から崩れ落ちるギャラクーダ。
倒れたギャラクーダが言う。
「捉えたはずだったが……何をした……」
「拙者の仲間の技でござるよ」




