200 伍章 其の弐拾漆 お姉ちゃん
中央統治庁近くの広場。
庁内職員、兵士達が避難している。
天災級の被害の復旧のため、多くの職員・兵士が出払っているものの、1,000人はいるだろう。
コンドー達が広場に行くと、中央の輪の中に将軍や黒服の暗殺者、怪し幹部職の者達が拘束されて並んでいる。
シャーナが職員達に聴き込みを行おうとしているが、私が私がと我先にシャーナと話をしたい者が多すぎて騒ぎになっている。
「普通、聴き込みは大変なんだが……逆の方向に大変な事になってるな……」
トシがぼやく。
ソウジがコンドーとトシに気付いて両手を広げて困ったもんだとジェスチャーをする。
「首相」コンドーが声を掛ける。
「おお、クラージュ君か。色々大変な事になっててな…」
「外交官達が暴露しました。ここで洗いざらい吐き出させますので、ご協力願います」
コンドーは概要を首相に話す。
「私は首相としてあまりにも把握をしていなさった。まさか身近な幹部が英雄不要論など……」
「今は先頭に立っていただけなければなりません」
「その通りだ。情けないが、やらねばならぬ……」
目を瞑り、深呼吸をする首相。
「皆の者聞いてくれっ!」
意を決して、大きな声で首相がこの場の者達に語りかける。
だが、皆シャーナに夢中で聞く耳を持たない。
「……」
首相が膝から崩れ落ちてコンドーが背中をさすって慰める。
コンドーは立ち上がり大きな声で言う。
「皆の者!首相から大事な話があるっ!耳を傾けて貰えないだろうかっ!」
「俺だ!俺が話をっ!」
「私なんかもっと凄い事知ってるわっ!」
「女神様と話をするのは僕が先だーっ!」
……全く耳を傾けてもらえない。
◆◆◆◆
ソウジが言う。
「お姉ちゃん!ちょっといい?」
シャーナが察して演出。
「なぁに?ソウジ」
皆がソウジを見る。
「お姉ちゃん?」
「あれは女神様の弟?」
「弟さん!確かに神々しさを感じるわ」
そう見えるらしい。
「同じ天馬に乗ってきたな」
自転車が天馬に見えるようだ。
幻術魔法を使ったわけではない。
「あれはクラージュさんとエッジさんの弟のリジュールではないのか?」
知っている者もいるのは当然だ。
「僕の生き別れた姉なんだ。クラージュさん達にはずっとお世話になってたんだ」
「なんだって?」
「まぁ、そうだったなんて……」
あっさり信じるこの場の皆。
「いや、無理があるだろ……」
トシが呟く。
「だが、皆信じているぞ……」
コンドーも唖然。
「お姉ちゃん。ちょっとこっち来て」
場は静寂。
首相、コンドー、トシ、ソウジ、シャーナで会話をする。
「取り敢えず、もうシャーナに話をして貰うしか無い。情報をまとめてシャーナに話してもらおう」
「ムサシさんにまだ許可をとったわけではない。このままでは勝手に英雄になってしまう」
「あれは、もう許可が降りているって事でいいんじゃないか?」
「はい。私はムサシ様の意向に添います」
「何と!女神様を英雄に立てるのかっ?いいのか?」
首相混乱。
「今、ゲンマール王子に対抗出来きるのは彼女だけです。政治的にも戦力的にも魅力的にも」
「しかし、ブラッサン帝国と敵対するわけにもいかないぞ」
「拮抗で数年保てれば問題ありません。拮抗ならブラッサン帝国も動かないと思えます」
「根拠はあるのだな?」
「はい。それより、この陰謀を裏で手を引いている者の追求が先決でしょう」
◆◆◆◆
グループセッションとでも言おうか。
十数人単位で聞き込みを開始する事にした。
シャーナを真ん中に首相とソウジとコラーダが抜擢され聞き込み側に、十数人と対面で順に話を聞いていく。
英雄不要論の話は知っていたか?
メガナーダは知っていたか?
メガナーダを紹介したのはヴェスパー将軍か?
コンドーとトシはヴェスパー将軍の家の場所を聞き向かう。
政府のトップシークレット。
軟禁されていたヴェスパー将軍の家を探るつもりである。
陰謀を裏で手を引く者とヴェスパー将軍は関連性が必ずある。
糸口を掴めるチャンスと思ったコンドーとトシである。
◆◆◆◆
東の門
厚さ5メートル、高さ10メートルの土魔法で首都デリンキーヤを囲む壁。
この東西北に門があり、東の門のみ塔がある。
昨日、住み着いた魔物を退治した鬼やオーガがいた塔。
この門から出てすぐの場所にヴェスパーの住居があった。
コンドーとトシはヴェスパーの住居の前で話をする。
「まさに灯台下暗しだな」
「あぁ……」
「どうした?」
「コンドーさん。俺達は幕末で多くの戦いをしてきた」
「あぁ、それがどうした?」
「相手も人間。何をしてくるか分からないから相手の筋を予想したもんだ」
「あぁ、兵法書も読んだし、実際に試した。思い通りになったかはさておきな」
「この世界の住人は人同士の戦いは少ない」
「あぁ、禁忌となっている」
「それだけではない。魔物を相手にするための戦闘は多くあるが、知略同士の戦いは無いに等しい」
「そうだな」
「この国の内戦だってそうだ。知略的戦闘は皆無だった。正面突破のみだ」
「あぁ、そうだが、トシ。何が言いたい?」
「ヴェスパー将軍に疑いがある時点でおかしいんだ」
「……!」
コンドーは目を見開く。
ヴェスパーは、何かを企だて行動するような人柄では無い。
頭は良いが実直で人望がある人物。
「それは、気付くのが遅過ぎないか?ヒントは随分出していたはずだ」
――っ?
コンドー・トシの背後からの突然の声。
「ヴェスパー将軍…」
瞬時に刀を抜くコンドーとトシ。
戦慄が走る。
恐怖が刀を抜かせた。
この国最強と言われるコンドー。
元将軍といえど対象外ではない。
個人的な武力という点においてコンドーの方が遥かに上だ。
だが、この目の前にいる人物は……。
「誰だ?この男は…」
冷や汗が背中を伝う。
「久しいな、クラージュ。わしの顔を忘れたか?」
「俺はヴェスパー将軍の事をよく知っている。ここまでの闘気を発しはしない」
「なるほどな。まぁ、こちらも時間が少なくなってきている。気絶でもしていて貰うか」
「なにっ?――ガハッ!」
剣先も触れる事が無いほどの距離。
一瞬でコンドーの腹にヴェスパーの膝蹴りがめり込んでいた。
気絶してそのまま倒れ込むコンドー。
「コンドーさんっ!」
ヴェスパーに刀を向けるも、瞬時に懐に入られボディブローをもらい倒れてしまうトシ。
「せめて神獣の血でも飲むんだな。それでは神の力には到底及ばない」
薄れゆく意識の中で聞こえるヴェスパーの声。
「さて。仕上げだな」
キサバ国の絶望が始まろうとしていた。




