002 壱章 其の弐 宮本武蔵を見つけた
「ムサシの事かい?昨日娘を助けてくれたらしいんだけどね。あんたら知り合いかい?」
「いや、ちょっと話を聞きたくてね」
ラークは冒険者のギルドカードを見せる。
この世界でライセンスカードを見せるのは挨拶のようなものである。
「冒険者が何の用だい?」
恰幅の良い野菜売りの女将は、怪訝な顔でラーク達を見る。
「素晴らしい才能の持ち主らしいからな。ちょっと話をしたいだけなんだ。悪いようにはしないさ」
女将の値踏みするような目。
やがて小さく息を吐いて、組んだ腕を解く。
「あんたみたいな顔がいい男は、あたしゃ信用できなくてね。まぁ、いいわ」
「確かに怪しいっ!女将さんが正しい!」
「おいぃぃぃぃっ!お前どっちの味方だっ!」
マルボ、まさかの女将への相槌。
突っ込み瞬発力抜群のラーク。
白い目で見ながら女将は言う。
「たぶん、この街にはいないよ。街の外に住んでいるんだろう。魚を売って、そのお金で野菜を買って帰るのさ。いつも沢山ね」
「毎日かい?」
「来るのが分かってたら留守にしないよ。ちょっと用事で出てただけなのに。あたしがいればあんな事にはならないし、ムサシに野菜を売ってあげれたのにねぇ」
「なるほど。決まった曜日とかでもないのか……」
「いつも朝に魚を売って、夕方野菜を買って帰るって感じだね」
「朝?まだいるか?魚をどこで売ってるんだ?」
「教会の隣の孤児院の近くだね。同じくらいの子供達ともたまに遊んでいるらしいからね」
「分かった。ありがとう女将さん」
と言って駆け出すラーク。
マルボは微動だにしない。
極端な二人にケントの目が泳ぐ。
「すいませんねぇ。騒がしいやつで。この果物いただけますか?」
「あんた小さいのにしっかりしてるねぇ」
「女将さん。ムサシの事はどれくらい知っているの?」
買った梨のような果物を食べながら、マルボは聞く。
「不憫な子なんだよ。服はボロボロ。喋りも片言でねぇ。貧しい暮らしのようだけど」
マルボはケントに一つ果物を渡す。
ケントは行儀が良いのか、果物を持ったまま聞いている。
「最近なんだよ。冒険者がこの街に増えてねぇ。治安が悪くなって。そしたら、ムサシがね。暴れる冒険者を、どんどん倒すようになって。でも、周りを寄せ付けないんだよ。あの子は……」
「なるほどね~。それはそうと、女将さん、この果物美味しいね。女将さんの人柄もいいから、繁盛してるでしょ」
「あらやだよ。可愛いこと言うねぇ」
「女将さん。ムサシはいつもどうやって冒険者を倒すの?」
「棒を拾って戦っているみたいだよ。でも、誰もどうやって叩いているのか見えないらしいんだ。気付いたら相手が倒れてるって」
ケントは目を丸くしてマルボを見る。
「なんで、そんなに聞き込みうまいんですか……」
聞こえないほどの呟きであった。
「ありがとう、女将さん。これ情報料ね」
握手と一緒にコインを渡してマルボは立ち去る。
「ちょっと、あんた」
ケントがお辞儀をして、後から着いていく。
「ラークさんに情報教えないといけないですね」
マルボに追いついたケントが言う。
「半径500メートル」
「はい?」
「ケントも良く知ってるだろ?ラークの感知スキルの範囲」
「あ、はい」
「教会は結構近いから、ラークも今の話し聞いてるよ」
「……」
「どうしたの?」
「いや、私の方がラークさんと付き合い長いのに、やっぱりマルボさんには敵わないなと思いまして」
「そんなとこだけだよ。僕もラークもケントに頼ってるんだから。頼むよ」
そう言ってマルボはケントの背中を叩く。
歩いていると教会が見えてきた。
ラークが教会の前で腕を組んで立っている。
「やぁ、ラーク君。今日も面白い顔してるね」
「俺は変顔人間かっ!」
「どうですか?いましたか?」
「それらしい奴はいないな」
「じゃぁ、取り敢えず街の中周ってみようか」
「そうするか」
三人は街の中を歩いていく。
◆◆◆◆
「さっきの話し。ムサシは冒険者ではないってことだな」
「そうなるねぇ」
「え?どういう事ですか?」
「街の外には魔物がいる。しかし暴れる冒険者とは棒で戦う。素手では戦わない。普段装備をしていない。冒険者だったら常に武器を持っているはず。ってとことだ」
「はぁ」
「ひゅーひゃひゃひゃひぇ」
「夕方かねぇ。ってか?ちゃんと飲み込んでから話せ」
マルボはパンを頬張ったまま喋り、それがしっかり伝わっているラーク。
ケントはいつも苦笑い。
「結局、午前中はこれといった情報は無かったな」
「うん。ってか、このスープまずいね」
「あぁ、出汁とってないな。肉も焼いて塩かけただけだ」
「ちょっと僕等、舌が肥えてるね」
ムサシを探して街を歩き周り、昼になったので昼食をとることにしたラーク達。
パンとスープと肉料理のみのシンプルなメニュー。
ラークとマルボの評論が始まる。
「あの、今はムサシさんって人の話しを……」
「……」
「どうしたの?ラーク。ケントに突っ込まれたからアイデンディティの喪失?」
「俺は突っ込み職人じゃねぇっ」
と言いながら店の外の方を向く。
「何か捉えましたか?」
ケントが椅子から立ち上がって言う。
「いや、何か騒いでる。近いな」
バリーーーンッ!
と、ガラスの割れる音がした。
音が聞こえた瞬間、ラークが飛び出す。
「ちよっと!ラーク!」
「すいませんっ!お会計をお願いしますっ!」
冷静で真面目なケントは、お会計を忘れない。
◆◆◆◆
音の先はテラス式の飲食店。
人だかりができている。
「ちょっとごめんよ」
掻き分けて前に進むラーク。
野次馬の視線の先に大男が二人。
だが、一人は倒れている。
「マジかよ……いや、そんなもんなんだろうな」
ラークの視線の先には、大男の前に立つ一人の少年。
黒い髪の毛。
纏った古着。
木の棒を持っている。
マルボとケントが追いつく。
「嘘っ?」
「まさかですかっ?」
「あぁ、きっと出会う運命だったんだろう。……いや、宿命だったんだろうぜ」
間違いない――ムサシだ。
そう、三人は確信する。
「小僧。何のつもりだ?」
大男が少年に聞く。
「迷惑だ」
「何だとっ?」
大男は腰の剣に手を添える。
「ねぇ、何があったの?」
周りのギャラリーにマルボが聞く。
「冒険者同士が喧嘩を始めたんだよ。暴れ出した時に、あの子が棒で叩いた……んだと思う」
だと思う?見えなかったのだろうか?
少年に視線を戻す。
棒……あれは、デッキブラシのような掃除道具……。
少年は棒を大男に向けて構える。
「青眼……」
ラークが呟く。
「ねぇっ、剣道と同じ構えだよっ!宮本武蔵だよ」
「ムサシが宮本武蔵とは決まってねえぞ」
「どう見ても剣術じゃないか」
「剣道やってた転生者かもしれないぞ」
「あーっ。もうっ」
ラークとマルボのやり取りを他所に、大男は腰の剣を抜く。
真剣だ――。
それを見てケントが怒りの形相で前に出る。
ラークが制する。
「実剣です」
「待て、構えを見れば只者じゃないのが分かる。様子を見るぞ」
「子供じゃないですかっ」
「ケント。大丈夫だから。最悪僕の魔法で回復するから」
歯噛みするケント。
子供に対しての情が強いようである。
「見てみろケント。あいつの表情」
少年の表情には焦りも怒りも無い。
落ち着いた無表情。
だが、目だけは相手を鋭く見据えている。
「動いていません。何かのスキルですか?」
「いや、後の先だ」
「ごのせん?」
「あぁ、カウンター狙いってとこかな」
「……」
大男が剣を構えて言う。
「おい、ガキっ。謝るなら今のうちだぞ」
威嚇する。
だが、少年は一歩前に出る。
棒の先を少し揺らす。
煽っているようにも見える。
「ガキがっ!しっ……」
突然、大男は倒れた。
「なんだ?何が起きたっ?」
野次馬達が騒ぐ。
「なんて速い剣閃」
「だな」
ケントとラークが言う。
「やばっ……見えなかった……」
マルボが呟く。
「このガキっ!」
「何しやがったっ!」
大男の仲間か、後ろの二人が剣を抜いた。
だが――
二人もその場で倒れる。
野次馬達は声も出ない。
「これは引くの分かるわ〜」
マルボが言う。
「どこまで見えた?」
「二人を倒したのは見えたけど、最初のは見えなかった」
「あのデカい奴の剣を交わして、顔面を叩いたんだ。一瞬でな。ちょっとヤバいかもしれないから後で回復魔法かけてやってくれ」
「よし!治療費貰おう!」
「こんな時でも相変わらずですね」
ラークは少年を見る。
「俺には見えてるぜ」
小さな声で呟く。
稲妻の如きの剣速。
針の穴を通すが如く的確な太刀筋。
だが、真に恐るべきは――
1センチ以下の見切り。
あれは、鍛錬の果てに辿り着く領域だ。
まさに剣豪――
少年は店員に暴れた事を謝っている。
店員は愛想笑いを浮かべたまま、固まっていた。
ラークが前に出る。
「なぁ、君。ムサシっていうんだろ?」
少年は睨むように見ながら一言だけ答えた。
「そうだ」
やはり、ムサシ。
ラークが笑顔で言う。
「俺の名前はラーク。見ての通り冒険者だ。ちょっと話し……」
突然、ムサシが手に持つ棒を宙に投げた。
全ての視線が棒に集まる。
そして、ムサシが人混みの中に消えた。
「あっ!おいっ!ちょっと待てって!」
「どうしますっ?」
「追いかけるっ!」
言葉を残し、ラークは建物の二階に跳び乗った。
常人には考えられない跳躍力。
「俺の感知スキルからは逃げられない。見えたっ!」
人混みから抜け、疾走するムサシを追跡するラーク。
屋根から屋根へ、そして壁を蹴り、まるで忍者のように移動して行く。
人がいる道を走るより、はるかに速い。
だが、ムサシとの距離が開く。
「人混で俺より速い?舐めるなっ!」
「ちょっと!ラークが本気で走ったら追いつけないよ!」
マルボが叫ぶが、もうラークには届かない。
「とにかく追いかけましょう」
マルボとケントが追いかける。
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【キャラクターファイル:ラーク】
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名前:ラーク
種族:人
性別:男
年齢:21歳
ジョブ:トレジャーハンター
備考:松平健斗の転生者
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