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198 伍章 其の弐拾伍 大魔刀・童子切安綱

 ムサシは全力で駆ける。


 ディーネはヤーシャに狙われている。


 今のディーネの強さなら、簡単に連れて行かれる事は無いだろう。


 ディーネとヤーシャの戦いが始まれば、魔力の大きさで気づける。


 気付いてから走って向かえば十分間に合う。


 幻術魔法が無ければ――


 だが、ムサシの脚が止まる。


「よう!俺に会いに来てくれたのか?」


「お主が来たのでござろう?拙者急ぐのでござるが、後にして貰えぬか?」

 そう言いながら、木刀を抜く。


「そいつは出来ねぇ相談だなぁ。俺が引き受けた仕事は、お前を足止めする事なんでなぁ」


「左様でござるか」


「お前を殺してもいいって条件でなぁっ!さぁ!決着をつけようぜ!宮本武蔵っ!」


 源為朝の転生者ギャラクーダ。


 ◆◆◆◆


「とにかく、ヴェスパー将軍の事と例の冒険者にビーゼとナナエム、後は新政府のシャーナが作った牢の中のやつらから情報を引き出すってとこか?」


 ラークが一同に話をするのだが、マルボが紙を広げて何かを描いていて、皆がそっちに注目している。


「何やってんだ?マルボ」


「よし。これシャーナ持ってて」


「これは……?」


「浄化魔法の魔法陣。魔力回路を組んだ僕のオリジナル。これを使えば他の人が強化魔法を流す事で魔法の威力が劇的にあがる」


「……」


「覚えるのは無理だろうけど、見ながらなら出来るでしょ?」


「はい。マルボ様!」

 そして、マルボはまた紙に魔法陣を描く。


「あのーマルボさん?それ今じゃないと駄目?」

 ラークがマルボに気を使って変な聞き方をするが、マルボにスルーされる。


「はい。これが回復魔法」


「はい。ありがとうございます」


「いや、マルボ……」


「僕しか、回復魔法と浄化魔法が使えない。パーティを分けるなら必須なんだよ」


 その通りである。

 午前中の情報収集開始時に比べ、この先の危険度は高いと思われる。


「さっき、フィオナが僕達とコンドーさん達のパーティを混同すべきじゃ無いって話、僕も同意なんだけどソウジってどうなの?有名なの?」

 マルボはコンドー・トシに聞く。


 ソウジは今年10歳。転生者であっても冒険者になれるのは条件付きで10歳からである。


 有名ならばグループ分けを熟考すべきだが、エール達がソウジを知らなかった事を考えると、そこまで名が通っているわけではないと思われる。


「俺達の弟というのも、そこまで有名では無いな。つまりシャーナと組むという事か。シャーナに注目が集まるから余計目立たなくて済む」


「俺とコンドーさん。ラーク君とマルボ君。ソウジとシャーナでか」


「ソウジ。自転車一台あげる約束だったね。ベンケーのやつ使って」


「よし。俺とマルボは冒険者とビーゼ・ナナエムの追跡。コンドー・トシはヴェスパーの真偽を。ソウジ・シャーナは新政府の牢に入れた奴らから聞き出す事と機動力を生かしてうまく動いてくれ」


「魔法と生活の森はどうする?」


「そうだね。もう後がないと焦って古代魔法を使ってくるかもね。対策済みだけど、エール、ティア、フロンとシャンテを残してきてるからなぁ」


「俺が寄るよ。自転車貰ったからすぐ行ける。シャーナも走るの速いんでしょ?」


「はい。とはいえソウジさんの自転車のスピードについていけるかやってみない事には」


「シャーナは俺の自転車を使ってくれ」


「かしこまりました。ラークさん」


 ラーク・マルボ。

 コンドー・トシ。

 ソウジ・シャーナ。


 三手に分かれて動き出した。


 ◆◆◆◆


 ギャラクーダが背負った極端に大きな太刀を抜く。


 大太刀・野太刀という名称では言い表せないほどに大きい。


 大柄なギャラクーダは身長も高く2メートル以上あるが、その身長を裕に超える。


 5メートルはある。


 幅も広く重量もかなりの重さであろう。


 ギャラクーダが持つと二階建ての家より上の高さから振り下ろされる事になる。


「大魔刀・童子切安綱。アカ・マナフの小僧から借りてきた伝説の魔剣だ。魔剣を見るのは初めてか?」


「聖剣なら一度」


「じゃぁ、説明はいらねえな。似たようなもんだ」


 軽々と大魔刀・童子切安綱を両手持ちで構える。


 100キロは軽く超えるだろう重量の野太刀。


 通常、刀は1キロ程度。


 この世界の住人だとしても剣として使うには10キロ程度が限界で、それ以上は運動性を損なってしまう。


 それを軽々と持つギャラクーダの異次元の腕力。


 だが、長すぎるゆえ、到達点までの時間差が発生するはず。


 ムサシは一瞬で懐に入る事はできる。


 ――が、ギャラクーダは華麗な殺陣を見せる。


「我は源氏・源為朝の生まれ変わりギャラクーダ!いざ!尋常に勝負!」


 懐に入るのは容易ではなさそうだ。


「拙者!宮本武蔵が転生しムサシ!参る!」


 お互い準備が整い戦いが始まる。


 ◆◆◆◆


 ムサシが、八相の構えで駆ける。


 足の爪先から全身へ。


 魔力を連動させる。


 リーチの差がありすぎる。


 童子切安綱が振れない位置から攻撃するしかない。


 ギャラクーダも駆ける。


 本来向きを変えるだけの後の先で待ち構えればいい。


 だが、ムサシに合わせ駆ける。


 真向勝負。


 平行に駆ける2人。


 ムサシが直角に曲がる。


 ギャラクーダに正面から向かう。


 ギャラクーダも駆けるには八相にならざるを得ない。


 八相からの振り下ろしに刹那の隙はある。


 振り下ろす前に懐に入れば――


 しかし、ギャラクーダの袈裟斬りが速い。


 想像以上。


「おるぁぁぁぁっっ!」


 風を斬る轟音。


 空気を揺らす振動。


 応える地響き。


 ムサシは左に避けた。


 前に詰める。


 振り下ろした体勢では対応できない。


 ムサシの一撃が入る――


「どるぁぁぁぁっっっ!!」


 ギャラクーダは童子切安綱を振り上げる。


 左手一本でだ。


「くっ!」


 咄嗟に跳ぶ。

 躱す。


 大きく跳んで崩れる。


 空中で身体を丸め、受け身を取って立ち上がる。


 アクロバット的で何事も無いようではある。


 しかし、ムサシがこの世界で”大きく躱す”必要があったのは初めてであった。


 ◆◆◆◆


 レッドコメットでラークとマルボが進む。


「ムサシに追いつけるか?一度ディーネ達の様子も見にいきたい」


「うーん。ビーゼ・ナナエムはもう海岸にいないだろうからね。ムサシの足も速いし追いつくには……」


「どうした?」


「ラーク。もう少し進めば分かる」


「?」


 暫くレッドコメットは前に進む。


「!!ムサシかっ!」


「相手はギャラクーダだと思う!」


 ラークとマルボがムサシとギャラクーダの戦闘を察知した。


 加勢すべき。と思いレッドコメットを進めようとした時である。


「あら?あなた達、私達に用事があるのではなくて?」


「女を放っておいて、それより大事な用なんてあるのかしら?」


 魔族の女二人組。

 双子。

 ストレートの長い赤い髪。


「そっちからお出ましか」


「なるほど。君達がビーゼとナナエムか」

 ラークとマルボがレッドコメットから降りる。


「感知できなかったの?」


「あぁ、気配消してここで待ち構えたって事だな」


「ムサシが言ってた魔力消して動かないってやつね」


「おい!お前らボスはどうしたっ?」

 ラークがビーゼ・ナナエムに問う。


「ボス?」


「冒険者の奴だ」


「ふふっ。あの方は偉大なお方ではあるけど、私達のボスではないわ」


「私達はテンマ様の僕よ」

 そう言って剣を構えるビーゼとナナエム。


「マルボ。こいつらは一個体のように連動する。気をつけてくれ」


「え?なにそれ?」


 マルボに返事をする前にラークは前へ出る。


 ラークに対してビーゼが右の袈裟斬り。


 ナナエムは左横薙ぎ。


 ラークは二刀の短剣で防ぐが、ナナエムはスライディングするように左脚の蹴りを放つ。

 と同時にビーゼが回転蹴り。


 上下の攻撃が同時に繰り出される。

 ラークは咄嗟にバックステップで距離をとる。


「えぇ……」

 マルボは唖然とする。


「双子とかそういうレベルじゃないよね?」


「あぁ、双子みたいだが、同じ個体だと思え」


「こんなのラークの感知スキルじゃないと避けきれないでしょ」


 その言葉の終わりに合わせるように、マルボにビーゼとナナエムが襲撃。


 ガキーーンッと高い音が二重に響く。


「結界魔法でもないとね」


 マルボの結界魔法で弾かれビーゼ・ナナエムが吹っ飛ぶ。

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