197 伍章 其の弐拾肆 布石
ラーク・フィオナはゲンマールの乗る船への潜入情報を話す。
新政府側の護衛であった冒険者と、ターゲットであったビーゼ・ナナエムの船内での襲撃。
しかし、襲撃は茶番の自作自演と見られる。
目的は何か?
ムサシの話と統合すると英雄不要論。
この国は英雄を求めているが、実は政府は不要論を貫いている。
しかし、シャーナからの情報では現将軍が疑われる者で、首相は知らない可能性。
一部の独断?
そして、メガナーダはヴェスパーの紹介。
ヴェスパーからの紹介というのはいつの話なのか?
死んだ後の話なのか?
「フィオナ。ヴェスパー元将軍の住居は分かるか?」
「残念ながら、トップシークレットとなっています」
冒険者ギルド職員のフィオナも知らない。
モヒートに聞くが警備保障ギルドでも知らないという。
「シャムローの尋問する?」
「いや、どうも国の陰謀とジャスティ王子襲撃の件は別軸としか思えない」
マルボの意見を即却下するラーク。
「メガナーダを尋問する?」
「それは危険すぎる。弱体化してるとはいえムサシ不在でメガナーダの尋問はリスクが高くないか?」
「でも、ソウジもシャーナもいるし」
うん。と言わないラーク。
組んだ腕の中の指を変わらずトントンしている。
「何を考えているんだい?」
マルボがラークに問う。
「何か。時間が無い気がするんだ。むしろ、すでに詰んでいる気さえする……」
「……」
静寂が不気味に襲う。
「一つ良いですか?」
フィオナが口を開く。
「ラークさん達とクラージュさん達のパーティは混同して動くべきでは無いと思います。チームワークの問題もあるし、一つのチームとして見られると巨大戦力として警戒されます」
「別々の思想があると見せる方が良いと?」
「はい。ただでさえ、ラークさん達もクラージュさん達も冒険者ギルド所属です。一つのチームとして認識されると、得られる情報に制限がかかります」
「なるほど。極端にいえば、敵対している方が敵対組織から声を掛けやすいって事か」
「どういう事でしょう?」
「あぁ、モヒートの旦那は中立の警備保障ギルドだからな。ピンとこないのかもしれない。つまり、俺達が新政府側についていたとする。コンドー達…クラージュ達と俺達が敵対関係という構図だったら旧国王派はクラージュ達を巻き込みたくなるって事だ。余計にお互い必要性を感じて情報を得られやすくなる」
「敵の敵は味方ってやつだね」
「なるほど。そういう事ですか……」
「でも、僕達はそんなにこの国に長居できないよ」
「あぁ。そこも問題だな」
ラークはいまだに指を動かしている。
「コンドー、トシ。まだか…やはりそんなに早く戻れないか…」
ラークが呟いたところで「ガランガラーン」と入口の鐘が鳴る。
コンドーとトシが戻ってきた。
◆◆◆◆
駆け上がり会議室に入るコンドー・トシ。
「失礼する」
「ヴェスパー将軍が偽物とはどういう事だ?」
「ゲンマールはどうなった?」
トシとラークが同時に質問をする。
コンドーとトシはゲンマール王子の乗るブラッサン帝国の船に突入した。
冒険者の青年、ビーゼ・ナナエムが船内で暴れだし、魔法と生活の森の魔族が突入した。
逆手にとってブラッサン帝国の手助けをしたという大義名分で船内に入ったのだ。
交戦中、冒険者とビーゼ・ナナエムは逃走。合わせて魔族三人も逃走する。
魔法と生活の森の所長と数人は、その場で逃げ出していた。
同行した魔族がブラッサン帝国に喧嘩を売ったという事実だけが残る。
旧国王軍派だけが、船に免かれる事になったが、こんな事になったので話があるなら後日改めてとなる。
ただ、ゲンマールは弟のジャスティを探したいと申し出た。
死亡扱いになっているが、死体も見つかっていないので生死関わらず探して欲しいという。
トシの話はそれだけだと。
続いてラークが話をする。
まず、フィオナと商業ギルドの店舗での一件。
ヴェスパー将軍はすでに他界しているという情報。
「俺は間違いなく会ったぞ!ラークも一緒にだ。亡霊だとでも言うのか?」
「エッジ君落ち着いて」
フィオナがトシに言う。
「ヤーシャには幻術魔法のような手段がある。情報操作も可能だ。死んだという情報自体が偽りの可能性もあれば、偽物の可能性もある」
「ラークも落ち着いて」
マルボがラークに言う。
「ふぅーっ」と深呼吸をするラーク。
「すまない。マルボ」
「あぁ。情報を整理しないとな」
「ラーク君。色々フィオナがすまなかったな」
コンドーがラークに声を掛ける。
「いや、実際色々助かった」
「まぁ!」
頬を抑えて喜ぶフィオナだが、ラーク達はリアクションをせずに話を進める。
「その後、俺達が船に潜入したのは分かってるな。ビーゼとナナエムと一緒にいたあの冒険者は何者だ?」
「俺は彼と中央統治庁でも会った。只者ではない。おそらくムサシさんにも気配を悟られる事なく我々を見ていた」
「只者じゃないのは同感だ。壁を挟んで俺達に気付いていたと思われる」
コンドーの意見にラークは同意する。
「ねぇ。その冒険者ってどんなやつ?」
マルボが聞く。
「あきらかに、冒険者という若者だ。20代の青年といった感じだ」
「軽装の鎧を身にまとっていたな。船のまえでもコンドーに絡んでたな……」
マルボは黙って話を聞いている。
「あ、昨晩マルボが会ったやつか?」
「分からないけど……特徴は似てるね……」
すこしの間、静寂が支配する。
「あの冒険者は何者なんだ?フィオナ」
ラークが聞く。
冒険者ギルドの職員であるフィオナなら知っているはずである。
だが――
「分かりません」
「そんな馬鹿な話あるかっ!」
トシが声を荒げて言う。
「駄目だよトシさん。落ち着いて」
「すまん。フィオナ。情報は他に無いか?」
「私が知る範囲で彼がギルドでクエストを受けた記憶はありません。そして、あんな実力者が無名で知られていないというのもおかしな話です。ビーゼとナナエムは常に2人でギルドにいました」
その時、窓から一羽の鳥が入ってきた。
「フィオナ。フィオナ」
伝令用のオウムだ。
足に紙が巻かれている。
「フィオナに手紙のようだ」
コンドーが紙をフィオナに渡す。
「うーん。残念ながら冒険者ギルドからの呼び出しのようです。また会ってくださいね。ラークさん。それと、私からは二組は別行動すべきという事だけ念を押しておきます。また会ってくださいね。ラークさん」
ラークに会ってくださいを二回言う。
皆突っ込まないで黙っている。
ラークは立ち上がり「ありがとう」と言うのだからフィオナは顔を赤くする。
フィオナは警備保障ギルドを出て行った。
「また、なんで立ち上がって言うかなー」
「全くだ。ラーク君。君も隙だらけだ」
「俺ぇ?」
全貌が全く見えない状況にラーク達は焦りを感じていたが、このやり取りで少し緊張感が解けたようだ。
しかし――
フィオナが受け取った手紙を誰も見ることは無かった。
[もうすぐ]とだけ書かれていた手紙。
◆◆◆◆
「!?」
突然ラークが何かに気付く。
窓からピョーンとムサシが現れた。
「え?」
一同驚く。
「どうしたの?」
マルボが聞く。
「ふむ。ラーク殿、感知スキルでも気付かなかったでござるか?」
「あ、あぁ、消えたと思ったが」
「実はここにいたでござる。直前にコンドー殿とトシ殿の気配を感じそこにぶら下がっていたでござるよ」
「ぶら下がるって…」
ラークが窓から外を覗く。
ぶら下がるような突起物など何もなく外壁だけである。
「何でラークの感知スキルで気付かなかったの?」
「ふむ。感知スキルには魔力を消して動かなければ気付かれにくいのでござる」
「え?そうなのか?」
感知スキルのプロのラークが驚き、マルボは白い目でラークを見る。
「意識されれば分かるでござるが、意識が向いていなければ、感知できないでござる」
「え……」
ラークが知らなった衝撃的事実。
「なんで、ムサシ知ってるの?」
「テプラン島で何度か試したでござる」
「あっ!」
ムサシが何度かラークの後ろから忍び寄った事がある事を思い出す。
「動くとどうしても風の動きや、土を踏む感覚で知覚されるでござる」
「って事は魔力使わないで腕力だけで……」
何も無い壁にぶら下がっていたという事である。
「何でそんな事を?」
「ふむ。ついでに冒険者ギルドにも知られたく無い事を言っておきたいと思ったのでござる」
「?」
「シャーナ。お主、英雄になる事を考えておくでござる。では」
と言い残しムサシは今度こそ走り去って行った。
「シャーナを英雄に?この国の?」
「ジャスティ王子が戻るまでの間、シャーナに英雄役をさせるって事かっ?」
マルボとラークが言うとコンドーは考えこんでいる。
そして――
「流石です!ムサシさんっ!」
両手を上げてガッツポーズする。
「何?どういう事?」
ソウジが聞く。
「あぁ、シャーナは生まれついての人徳がある。いや、女神と拝まれるくらいだ。その魅力に気絶する者すらいる。そして、中央統治庁はすでに掌握しているようなものだ!流石です!全て計算されていたのですね!」
涙を流して拳を握るコンドー。
ムサシ信者が加速しているコンドーを見てトシとソウジは頭を抱えている。
ラークは山本五郎左衛門からシャーナはムサシの一割くらい強いという評価を聞いている。
一割の強さと聞くと弱そうだが、対象がムサシなのでとんでもない実力になる。
ラークはそんなに凄いなら
テプラン武闘大会に参加させるべきでは?
と思いステータス感知スキルでシャーナを見る。
名前:シャーナ
種族:人・神獣人
性別:女
年齢:0歳
ジョブ:ムサシの従者
九尾龍神の転生者
ツッコミどころが多すぎてラークは膝から崩れ落ちた。
5年後のテプラン武闘大会は15歳からしか出場できないのは言うまでも無いだろう。




