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013 壱章 其の拾参 死闘ヘカトンケイル

「まず、あやつの攻撃は一度に2発しかだせぬでござる」

「確かに右手と左手の一つづつしか攻撃が無いですね」


 ムサシに抱えられたキャメルを受け渡されたケントが答えた。


「次に攻撃の前には溜めがあるでござる」

「撃つ前に光っているあれか!」

「そうでござる。そして腕の角度の直線上にしか光線は飛ばないでござるよ」

「腕のベクトルで見極めるってこと?」

「他の攻撃の可能性は?殴ってきたり平手打ちとか」


 皆うまく光線を避けながら作戦を練っていく。


「おそらくその場合は光線が出せないはずでござる」


 ムサシの言葉を聞いてヘカトンケイルを見ながらマルボはある事に気がついた。


「そうか、あれだけの巨体と100本の腕を自在に動かし、掌の目から視覚情報を得るには脳細胞の数が足りないんだ。ヘカトンケイルの攻撃は単純な事しかできないのかもしれない」


「おいおい、すげーなムサシ」


「拙者、瞑想はすれど迷走することはござらん」


「「「!!!???」」」


 今のは駄洒落なのか?素で言っただけ?ラーク・マルボ・ケントの心の声が一致した。


 その瞬間地面が振動する。

 ラーク達は別パターンの攻撃と思いヘカトンケイルを見上げた。


 ヘカトンケイルは肩を震わせている。

 カタカタと笑っているように見える。


 「あいつ……笑っているのか?」

 「今のムサシさんの駄洒落でですか?」

 「まさかの以外な弱点が?」


 魔神とも言われるヘカトンケイル、魔神といえど神である。


 駄洒落を理解できるほどの知性はあるのかもしれない。


「戦いの最中でも面白いと笑っちゃうのかな?」


「脳の機能の大半を腕の動きや視覚情報に使っているとしたら、戦術に思考を使っていないとも考えられる。そんな状態で面白い事が頭に入ってしまったら笑ってしまうという可能性か……これで隙ができるなら反撃のチャンスだ」


 ヘカトンケイルの笑いが収まり、またハンドファンネル(漏斗)のオールレンジ攻撃がはじまった。


「よし」


 ラークは意を決して叫んだ。


「布団がふっとんだーっ!」


 ヘカトンケイルは生暖かい眼差しでラークをみつめた。


「ちくしょう。何なんだこいつ……」


 ラークはガクッと両膝から崩れ落ちた。


「ラーク!ふざけてる場合じゃないでしょ!」

「俺は真面目にやってるよ!」

「二人とも落ち着いてくださいっ!仲間割れしている暇はありませんよ!」


 ヘカトンケイルはムサシの攻撃力を警戒しているのか、ムサシに攻撃を集めている。

 そのため流石のムサシでも避けるのに手一杯である。

 攻撃が届く相手であれば避けながらでも反撃できるだろうが、腕は上空にあり本体の頭は20メートルも高い。


 脚を攻撃しても巨大な脚にムサシの木刀では擦り傷にしかならないであろう。

 上空に跳んだとしても直線上の動きでは対応されてしまう。

 何とか隙を作り跳び上がって頭に一撃を入れたいところである。

 魔法で攻撃したいところだが、マルボはキャメル達に結界魔法を掛け続けながら自分自身は光線を避ける為に動いており、とても攻撃する余裕はない。


 ケントは盾の要である。

 キャメルとドライアドを庇うため、攻撃よりも防御に専念しなくてはならない。


 攻撃をするとしたらラークである。

 光線攻撃の大半はムサシに集まっている。


 たまに他の者に向けられる攻撃はあるが、体捌きに優れているラークに当たる事は無いだろう。


「俺には遠距離攻撃もあるぜ」


 ラークは懐から小さいナイフを取り出しナイフに魔力を注ぎ始めた。

 ナイフが薄い光を放ち出す。

 物質の強度を上げる強化魔法である。

 小さく薄いナイフだが、強化魔法により絶大な切れ味となる。

 ラークはそのナイフをヘカトンケイルの本体の眼に向かって投げると直撃した。

 はね返り地上の岩の上に落ちたナイフはカラーンと虚しい音を響かせる。

 ヘカトンケイルには全くダメージが通っていない。


「やっぱ無理か」


 ラークは呟いた。

 その瞬間一つの腕が転がり落ちる。

 一瞬の隙をついてムサシが一体の腕を叩き落としたのだ。


 しかし、このムサシの攻撃がヘカトンケイルの警戒をより強めてしまった。

 数本の腕が空中で集まり回転し始める。

 連続で光線が撃ち出された。

 チャージ・発射をサイクルで行う複数のヘカトンケイルの腕によるガトリング砲である。


 ムサシは横に駆けながらガトリング砲を避けていく。

 その様を見てマルボは興奮しながら言った。


「ねぇねぇっ、見て見て!映画の有名シーンの再現だよっ!」


 ここでいつもなら突っ込みを入れるラークであるが、ヘカトンケイル戦で全く役に立っていないラークには突っ込む気力が無いようだ。


 それどころか悲しそうな目でマルボを見つめるだけだった。


「ごめんなさい」

「なんで謝るんだよっ!そんな場合じゃ無いだろ!」

「だって……」


 そんなやり取りの最中、ドライアドは勇者キャメルに語りかけていた。


「勇者キャメル様、我々精霊にとって勇者様にお仕えする事は大変光栄なことでございます。どうかそのネックレスの精霊石に私を宿らせて下さいませ」

「え?どういう事?」


 攻撃を避け続けるムサシの前方から一本の右手が襲いかかった。

 今までと違うパターンの攻撃だ。

 ムサシは木刀で右に払い落とした。

 その瞬間左後方から左手の光線攻撃が襲う。


「まずい!あのタイミングは!」


 ラークが直前に叫ぶも放たれた光線はムサシの体制では避けられない。

 刹那の間でムサシは腰に携えている脇差の木刀を抜き魔力を込めて光線を跳ね返した。

 しかも跳ね返った光線はヘカトンケイルの頭に直撃し、ヘカトンケイルはグラつく。

 ついにヘカトンケイル本体にダメージを与えたのである。


 その隙をムサシは見逃さない。

 すかさず木に向かって跳び、しなりの反動を利用してヘカトンケイルの頭に向かって跳び上がった。

 強烈なムサシの一撃がヘカトンケイルの頭部を捉える。


「むむ、魔力を込める間合いがいまいちだったでござる」


 今の一撃には木刀に魔力を込めるタイミングがずれて少し威力が落ちていたようだ。

 それでもかなりのダメージを与えたのか、ヘカトンケイルは跪いている。


「折角誘い込んだ光線からの千載一遇の機会で仕留めきれぬとは、無念でござる」


「ねぇ、ラーク…光線を…誘い込んだ…って言ってるよ…」

「俺は聞いてない!聞いてないぞ」


 ラークは耳を塞いで首を振る。


 ムサシの一連の動きは全てムサシの作戦だったのだ。

 別パターンの攻撃が来る事を予想し、別パターンの攻撃でわざと隙を見せ、光線を撃たせる。その光線をはじめて見せる二刀流で跳ね返し、跳ね返した光線をヘカトンケイルの頭に直撃させ、さらに追い討ちを仕掛ける。


 全て計算尽くされた攻撃だったと言うのだ。

 一つミスがあるとすれば、ムサシが二刀を使った際、左手に魔力を込めたため、右手の太刀の攻撃に魔力を込めるのが間に合わなかったというところである。


 相変わらずのムサシの異次元っぷりに、マルボは信じられずラークは現実逃避をするといういつものやり取りが繰り広げられる中、ヘカトンケイルは頭を押さえながら起き上がり、ムサシを睨みつけている。


 ムサシは着地してすぐにヘカトンケイルから距離を取り身構えている。

 右手には長い方の木刀、左手には短い方の木刀、太刀と脇差の宮本武蔵の二刀流である。


「宮本武蔵の二刀流って実戦じゃ使えないんじゃなかったっけ?」


 マルボは疑問を口にする。


「両手一刀の一撃に片手では耐えられないから、実戦では使えないって話しで二刀流は練習用だって俺も聞いが……」

「が?」

「ヘカトンケイルの攻撃を片手で捌けるって判断したって事だろ」


 ラークの返した言葉にマルボは黙り込んでしまった。


 ヘカトンケイルがムサシに向けてガトリング砲を撃ち出した。

 しかし、ムサシはそのガトリング砲を難なく弾き返していく。

 弾き返した光線は全て空中の腕やヘカトンケイル本体に当たっているのだ。

 中にはチャージ中の腕に当てて爆発している腕もある。


「すげぇ…」

「すごいね…」


 ラークとマルボは呆然と呟く。

 ケントはキャメルとドライアドを守る為盾を構えて集中している。

 守るべき者がいる時のケントは冷静である。


 このタイミングでキャメルの周りに緑色の魔法陣が浮かび上がる。

 そしてドライアドが霧になりキャメルのネックレスに吸い込まれるように消えていった。

 キャメルのネックレスが光を放つ。

 ネックレスの精霊石に木の精霊ドライアドが宿ったのだ。


「勇者キャメル様!さぁ、私の力をお使いください!」


 精霊石から上半身を出した小さくなったドライアドが叫んだ。


「わぁ!精霊さん可愛いぃっ!」

「まぁっ!キャメル様ったら!」


 ドライアドは頬に手を当て照れている。


 そのやり取りを横目で見ていたラークは突っ込みを入れかけたが、5歳児に最適の突っ込みがわからずやめた。

 モヤっと感が残ったようだ。

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