012 壱章 其の拾弐 魔神出現
「2,000万!?」
ラークの声が店内に響く。
「……1,500万しか持ってないんだが……」
パーティーの所持金をラークが管理して持っているのだが、1,500万を所持している冒険者も異常である。
「絶対にまからん!」
店主がドヤ顔で言い放った。
「くっそー、マージン絶対ぴったり500万だろ? 足元見やがって!」
2,000万のうち店主にマージンがいくら入るか知らないが、500万というラークの予想は的中したのか店主は眉を上げながら言う。
「このきっかけは俺が長い間この行商人と取引をしていた信用があるからできる事だ。当然俺にマージンを貰う権利はある」
「くっ……ぐうの音もでねぇ」
ラークは悔しながら腕を組みながら考えていたところ
「500万私達に払わせてください!」
新米冒険者の1人が頭を下げた。
「いや、お前たちそんなに持ってないだろ」
「ギルドで借りてきます!ラークさん達がヘカトンケイルを討伐できなければ、この街は壊滅します。理由を話せばギルドも協力してくれると思います。一生かけてもギルドに返します。それに私達はキャメルに何も出来ていない!せめてお金くらいは!」
新米冒険者の瞳には涙が浮かぶ。
「よし、わかった!その気持ち受けとるぜ!俺達も冒険者だからな!それでいいな!キャメル」
「うん!ありがとう!」
新米冒険者達はギルドに赴き500万ゴールドを借りて来た。
ギルドもヘカトンケイルがいた場合は深刻な問題になるのですぐに動いたようだ。
「さぁ!これで2,000万ゴールドだ!精霊のマントを売ってくれ!」
新米冒険者は涙ぐみながらお礼を言い、キャメルは感謝を伝えていた。
行商人は精霊のマントをキャメルに手渡した。
「キャメル、これを着けてみて」
「うんっ!」
キャメルはマントを羽織った。
「おおぉ!」
マントの効果なのか、マントを着けた瞬間に体が発光し光に包まれた。
「わあぁぁぁぁ!!!暖かい!!」
光が収まると、マントを纏ったキャメルの体から魔力が溢れ出していた。
「こりゃすげぇや。本当に精霊の加護を得てやがる」
「勇者様に相応しい品ですね」
行商人と店主は感嘆している。
「キャメル、これからもずっと大切にするんだよ」
「うんっ!」
「それじゃあ、これは私からプレゼントです」
「これは俺からだ」
行商人と店主はそれぞれネックレスと腕輪をキャメルに装備した。
精霊石のネックレスと精霊石の腕輪であった。
精霊石とは精霊が宿るといわれる石なのだが、普通の人には効果が無くただの綺麗な石としての価値しかない。
ただのネックレスと腕輪なのだが勇者であるキャメルには効果があるのかもしれない。
「最後にいい印象で終わらせる…… 商人スキル恐ろしいな…」
「聞こえていますよ。 商人ですからね」
行商人は笑顔で答えた。
ラーク達は準備を整えて街を出た。
目指すはドライアドのいる森の奥地だ。
◆◆◆◆
一行はドライアドの森へと到着した。
森の中は薄暗く不気味な雰囲気が漂っている。
ドライアドの住処は森の奥地にある神樹らしい。
ラークとムサシは先頭に立ち警戒しながら進む。
後ろではマルボとケントがキャメルを守りながらついてきている。
暫く歩くとドライアドの住処らしき場所に到着した。
そこには大きな木が立っていたが、木の実などは無く枝葉が生い茂っていた。
「ここか…」
ラークが呟いた。
「キャメル、ここへ。ケントはキャメルから目を離さず、ムサシとマルボは周りを警戒だ」
ラークはキャメルを前に出す。
「大丈夫だ。俺がついているから」
マルボはキャメルの背中を押して前に出た。
「うん……」
キャメルは不安そうに歩き出した。
すると、木の幹の一部が動き出しこの世のものとは思えない美しい女性が現れた。
「ようこそおいでくださいました。私はドライアド。この森の主でございます。あなた様は勇者様ですね?」
「うん!キャメルだよ!」
「ようこそお越しくださいました。勇者様に会える日を心待ちにしておりました。」
「ドライアド。勇者と会話をしたいのは分かるが緊急の話がある」
ラークが割って入った。
「そうですか……残念ですが仕方ありませんね」
「悪いな」
「いえ、お気になさらず。それで、どのようなご用件でしょうか」
「この森にヘカトンケイルが出現もしくは誕生した可能性がある。あんたらドライアドが住処を変える事はできるか?」
「強い魔力を感じてはいましたが、魔神とは……」
ラークとキャメルがドライアドと会話をしているところにマルボは何かが近づいているのを察知した。
「ラーク!何かいるかもしれない!」
マルボの声を聞き咄嗟にラークが振り返ると、巨大な腕のようなモンスターが木々の間から姿を現していた。
「こんなに近づくまで気が付かなかった?」
マルボは少し困惑していた。
「キャメル!下がれ!」
ラークが叫ぶとキャメルが下がる。
盾を構えてキャメルとドライアドの前にケントが立った。
「なんだ?あれは?」
肘の下から前腕の形をしたモンスター、掌には一つの目があり2メートルほどの大きさであった。
腕のモンスターは空中に浮き始め空中からこちらを見下ろしている。
「飛べるの?」
マルボが驚いていると、掌の目が光り、目から光線を撃ってきた。
「うわっ!?」
ケントは慌てて避けたが、光線は地面をえぐり焦げた跡を残していた。
「なんて威力だ!」
「ケント!気をつけろ!」
ラークが叫んだ。
ドガッ!
腕のモンスターが転がり落ちてきた。
ムサシが飛び上がり木刀の一撃で地面に叩き落としたのだ。
「さすが!ムサシ!!」
「まだでござる!」
珍しく強めの口調でムサシは言った。
木々の間から更に腕のモンスターが出現した。
6匹7匹と次々に腕だけが出現する。
「え?こいつら仲間を呼ぶ系のハンド族?」
「マルボっ!誤解を招くような発言するな!」
「む?何の話でござるか?」
「お二人の前世のゲームの話みたいですよ。前に聞いた事があります」
4人は腕のモンスター達の攻撃をいつものように会話しながら対処している。
腕のモンスターの動きを観察しながら攻撃を避けていると、更にモンスターは増えていった。
その数すでに15体。
「また増えた!100体くらいになっちゃうの?……あ……」
自分の発した言葉に何かを察してキャメルが青ざめた。
ラーク、マルボ、ケントもその言葉にハッとする。
「100本の腕ってそういう事かよ!」
ラークの予想は的中する。
ドスン!
ドスン!
と地響きの音と共に地面が揺れ、奥の方の木々の頂きの上から大きな一つ目の頭が顔を出した。
そして、ゆっくりと大きな体が姿を現す。
体長20メートルはある巨人。
肩や背中をから無数のウデが生えている。
「これが、ヘカトンケイル……」
「嘘だろ……こんなやつどうしろっていうんだ……」
ヘカトンケイルは多くの腕を空に飛ばした。
その数97本。
1本は倒れ2本は本体についている両腕の分、その他の腕を空中に飛ばし空は腕で染まるという異様な光景となっている。
「あの数を捌くのは無理そうだな……」
ラーク達が考える間もなくヘカトンケイルの攻撃が始まった。
空中の掌の目から順次光線が撃たれる。
「散開!!」
ラークの指示で全員が回避行動を取る。
「わああぁっ!!なんじゃありゃあっ!!!」
「きゃーっ!!」
「ぬおおぉぉ!!」
ムサシもキャメルを抱えて避けた。
「これじゃファンネルのオールレンジ攻撃だよっ!」
「む?ファンネルとは何でござるか?」
「漏斗の事だ!」
誤解を招かないようラークはすかさずフォローを入れた。
ヘカトンケイルは上空から無差別に光線を放ち始めた。
ヘカトンケイルの頭上には腕が浮いているため、自由に動き回りながら光線を撃ち続けている。
「このままだとジリ貧だぞ!!」
ラークは焦っていた。
「皆の衆、落ち着くでござる。あやつの攻撃には一定の法則があるでござる」
ムサシが言った。
「まじか!そんなもんあるのかよ!」
「当たらなければどうということはござらん!」
「教えたのかマルボッ!」
ムサシの言葉にラークが過剰に反応する。
「いや、昨日は幕末の話だけっ!大佐のセリフは教えてないっ!偶然だよ!」
際どく避けながらもラークとマルボは会話ができるのは余裕があるのだろうか。




