107 参章 其の拾 ケントの強さ
「ケンちゃん、私も手伝うね」
キャメルがノームの力で結界魔法をはる。
「「「おぉ…」」」
そんな方法があるのを皆気付いていなかった。
「そうだ。ケント。修行したいならキャメルやセッターとも合体魔法出来るようにしないと」
「え?どういう事ですか?」
おお!流れが変わったわ!!さすがキャメちゃんよっ!!ピアニスが安堵する。
「精霊の力を僕達はそのまま使えないけど、精霊が強化魔法を使ってくれればそれを乗せる事は出来るんだ。キャメルやセッターとパーティだったら有効になる機会は多いよ!」
「はぁ」
「何度かマルボが使ってるな。ムサシの雷神剣もそれか?」
「うーんとねー。らいちんけんはおじちゃん一緒じゃないと無理だよ」
ムサシの雷神剣はムサシ、キャメル、アマルテア、雷鳥が揃わないといけないらしい。
「どうすれば良いのでしょう?」
「とりあえず結界魔法を張り替えよう。僕が一度張って説明するよ。ちょっと練習したら出来るはずだからやってみよう」
「しかし、それではマルボさんの負担が…」
「それくらい余裕余裕。むしろケントが更に強くなれば、その方が効率的だよ。魔力だってずっとは続かないし」
「わかりました」
「じゃあキャメちゃん。こっち来て」
ピアニスがキャメルを手招きする。
ラークが感知スキルであたりを警戒しながら言う。
「今のところカビ臭さ以外は問題なさそうだ。一度解除しても大丈夫だぞ」
「じゃ、カビ臭さいのは厳しいからケントが解除した後すぐ僕がかけるよ」
「わかりました。では一度解除します」
ケントが結界魔法と浄化魔法を解除した。
その時であった――
「フオオオオオッ!」
キャメルの精霊石から黒いオーラが飛び出す。
「「「えっ?」」」
一同何が起きたか分からない。
「あっ」
「ヤバいっ!」
マルボ、ラークが気付いたが時既に遅し。
精霊石からシャイターンが引っ張り出されて細道に吸い込まれて行く。
「シャイたーーんっ!!」
追いかけようとするキャメルをワカバが抑える。
悪魔精霊シャイターン。
この迷宮では分解対象で間違いない。
凄まじい勢いで吸い込まれて行くシャイターンのスピードが緩まる。
咄嗟にケントがヘイトスキルで魔力の流れを誘導してシャイターンを引っ張る。
だが、迷宮の吸引力の方が強くシャイターンは徐々に遠ざかっていく。
「フオオオオオッ!フオオオオオッ!」
「シャイたーんっ!」
切れ者揃いだが、この状況で思いつくアイデアは一つもない。
「はぁっ!」
シャウト効果でさらにヘイトスキルを強化させる。
すると、シャイターンの動きが一旦止まり迷宮の動きも止まる。
「す、すげえな、ケント…」
「いや、関心してる場合じゃないって!シャイターンが分解されちゃうよ!」
「フオオオオオッ!フオオオオオッ!」
泣き叫ぶシャイターン。
大悪魔なんだから自分で何とかしろっ!という突っ込みをする余裕もなくどうすればいいか解決策が見えない。
フル稼働のヘイトスキルで皆の意識はケントに向いてしまっているのもあるのだ。
「マ、マルボさん…メモを書いて…ムサシさんに任せましょう…」
「え、どうやってムサシに知らせるの?」
「シャイターンより…早く吸い込まれる…魔石は…ありませんか…?」
全力でヘイトスキルを使うケントは力を振り絞って喋る。
「そうか、魔石か!黒クオンを詰め込んだ魔石なら!いや!魔石持ってない!」
「ぐう!」
顔をしかめるケント。
ヘイトスキルの力が弱まるとシャイターンは吸い込まれていく。
「私が!」
アンがカードを飛ばす。
カードはシャイターンより速く奥へ飛んで行った。
「おそらくムサシ様は状況を気付いてくれるはずです。ケント様。もう大丈夫です」
「シャイターン!!ムサシに助けて貰えっ!」
「フオオオオオッ!それはそれで嫌だああああ」
と叫んだところで、ケントが限界に達しヘイトスキルが解除されシャイターンは闇の中に消えて行った。
「シャイたん消えちゃったの?」
「大丈夫ですよ。ムサシさんが助けてくれます」
膝立ちになりながらもケントはキャメルを慰める。
ケントは思っていた以上に凄かった事を知ったピアニスはハっとなりワカバとアンを見る。
複雑な表情のワカバと、ちゃっかりケントの背中を摩っているアン。
頭を抱えるピアニスであった。
だが、ピアニスはハッと気づく。
ケントは...強い。
ムサシやマルボのような派手な強さではない。
ラークのように判断してまとめるリーダーシップも持っていない。
地味な能力であり、そして...優しすぎる。
しかし、迷宮の力を止める。
あの凄まじい吸引力を、ヘイトスキルだけで。
そして、結界魔法と浄化魔法を同時に使い続けている。
覚えたての不得意な能力を広範囲に歩きながらである。
マルボが「ケントが更に強くなれば効率的」と言ったのは、お世辞ではなかった。
ケントは、強い。
最強の盾。
優しさによる守ろうとする盾。
ムサシは途中加入であるが、元々、最強パーティーであったのだ。
ラーク・マルボ・ケントは…
かく乱と感知のラークに、アタッカーの大魔法のマルボ、そしてその優しさが信頼となる最強の盾。
一つの戦力とすると自分自身をも凌ぐ戦力であることにピアニスは気付く。
ピアニスは改めてワカバとアンを見る。
ワカバは...複雑な表情で俯いている。
そして、アンはちゃっかりケントの背中に手を当ててボディタッチを続行。
もう、頭が痛い。
自分の弱さを認め、助けを乞う事も成長に繋がる大事な要素。
今のワカバにはこのパーティーの力にはなれない。
ワカバは今の自分を認めて、助けを乞える事も必要なのである。
ワカバは周りに追いついて活躍しなければいけないと焦っているだけである。
ムサシは自分で気付かねばいけないと言う。
しかし、アンの存在が関係を脅かす。
誰かが伝えるべきではないだろうか…
ラークには期待できない。
ミスター朴念仁だから。
◆◆◆◆
ラーク達が奥に進む。
キャメルの精霊との合体強化結界魔法はシャイターンの心配をしているキャメルの事を考えて見送った。
結局、ケントが引き続き浄化魔法と結界魔法をかけ続けている。
「大丈夫ですよ。キャメルさん」
そう言ってキャメルを抱き抱えようとするケントをワカバが止める。
「キャメル。自分で来たがったんだから自分の足で歩きなさい」
「うん」
「ワカバさん。私なら大丈夫ですよ」
「いいえ、ケントさん。貴方は力を使いすぎてヘトヘトじゃないですか。無理しちゃダメです」
「ありがとうございます。でも、この位は平気ですよ」
「そういう事を言っているんじゃないんですっ!ケントさんはもっと自分を大切にして下さい!」
ワカバが声を荒げて言う。
小さな声で「あちゃ〜」とマルボはため息混じりの声を漏らす。
「もうっ!」とピアニスも小さな声で頭を抱える。
ケントがワカバの方を見る。
「申し訳ありません。ワカバさん」
「謝らないでください!ケントさんが謝る必要なんてないんです!」
ワカバは半分泣きそうになりながらも必死にケントに訴える。
「私はワカバさんが心配なのです」
「私が……?」
「ええ。ワカバさんは優しすぎる」
「!!!」
優しすぎるのはあなたでしょう。ケントさん。
もう、その言葉はワカバの口からは出ない。
「あのぉ、ピアニス様。ケントさんとワカバさんって仲が悪いのでしょうか?」
何言ってんのあんたーっ!分からないの?女でしょう?女の感ってあるでしょう!?占い師でしょーっ!空気読めーっ!
アンの質問にピアニスは叫びたくなるが口に出さず怒りを抑え込む。
表情は死んでいたが……。
「……違うわ。二人とも優しすぎるのよ」
「優しすぎる……」
アンが呟く。
ケントを見るアン。
胸がときめくアンであった。




