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105 参章 其の捌 ベンケー、マルボの策に

「このいくつもある細い道は一度一つの部屋に集まっているようです。この大通りは真っ直ぐ続き、この先が女神不快不浄と関わっているようです」

 アンがもう一度占い説明をする。


「両方調べないといけないようだな…」


 強者とは何者か?

 強い魔物か?

 善神に関わる者の可能性もある。

 ラークが考えていると、マルボが口を開く。


「ねぇねえ。アンの集中力が途切れると占いは失敗するって事?」


「はい。無意識に魔力をそのまま受け流さなければいけません。私が何か別の事に気を取られれば占いには必ず影響があります」


「ねぇ、失敗する状況も確かめてみたいんだ。集中力が途切れるとどうなるか見せてくれない?」


「はぁ…」

 アンはマルボの質問に驚きラークの方を見る。


「まぁ、確かに見ておきたいと言うのもあるな…やって貰えるか?」

 ラークも占い能力の見極めが必要な事には、理解しているので反論はできない。


「ただし、俺は手伝わないからな」


 ラーク、突然のマルボへの梯子外し。


 絶対よからぬ事を考え、ラークを犠牲にする。これがマルボのいつものやり口。その手には乗らないと目で訴える。


「大丈夫、大丈夫、ベンケー君。ちょっとこっちへ来てくれるかな?」

 どうやら犠牲はベンケーのようである。


「某でごわすか?」


 何やらよからぬ事を察したのか、不安そうな顔をするベンケー。


 ◆◆◆◆


 マルボが耳打ちする。

「そ、それは流石に無理でごわす」


「何だい、ベンケー君。君はアンの覚悟を聞いていなかったのかい?アンは自分がスパイと疑われても仕方ないと全てを正直に話し向き合ってくれているじゃないか!君もつい先日僕達の仲間になった。覚悟を見せてくれ、ベンケー君」


「そ、某を疑っているのでごわすか?」


「僕達はねぇ、信じる事が美しいなんて美談では生きていないよ。論理的に疑いの可能性は捨て切る事は無いのは当然でしょう。源平合戦を生きた君がまさか美談で信用して欲しいとでも思っているのかい?ベンケー君」

 恐るべき論破。


「し、しかし…」


 離れたところでラークが呟く。

「今はどう見てもお前が悪魔だ。マルボ…」


 マルボがベンケーから離れる。


「何を指示したの?」

 ピアニスが聞く。


「アンの集中力が途切れるようにね」

 悪い顔でニヤリと笑みを浮かべなるマルボにピアニスは震える。


 暫くしてアンの目の前にベンケーが来る。


 マルボが絶対くだらない事を企んでいるのはアン以外一同わかってはいるのだが、アンが失敗する時を見るのも、ベンケーが無理難題を受けるのかも、合理的に必要な事ではあるので誰も止められない。


「じゃあ、アン。さっきと同じ占いをしてみて」

「はい…」


 アンがカードを空中に浮かべる。


 今だ!と合図をベンケーに送るマルボ。

 顔が引き攣るベンケー。


 ほら!早く早く!と急かすマルボ。


 いきなりアンに向けてお尻を突き出すベンケー。

 オナラ事件でそれだけでも集中力が途切れそうだ。


 さらに、その突き出したお尻を左右にフリフリ振る。


 可愛らしい女子がやればセクシーなダンスであるが、大男のベンケーがやると滑稽を通り越して、絶望の塊である。


「クハッ!」ちょっと吹き出すアン。


「お尻フリフリー♩モモンガモモンガ♩」

 最後に変なダンスを付け加える。


 どこかで見聞きしたようなダンスに似ているが、ラークは顔を背けて笑いを堪える。

 一同、目を逸らし笑いをこらえる。


 肝心なアンは――

「アヒャヒャ!何してるですか、ベンケー様!」

 変な笑い声で爆笑してしまった。


 ベンケーは石化している。


 占いの結果は

「愚者」

「戦車」

「死神」

「悪魔」

「塔」

 となった。


「すいません。ちょっと意味が分からないです」

 何言ってるか分からないと言う意味ではなく、自分の占いカードの意味が読めないという事である。


「なるほどね」


「ただ、面白がっただけだろ」


「でござるな」

 適当な事を言うマルボにラークとムサシが静かに突っ込む。


 ◆◆◆◆


「さて、この道をどうするか…」


 いくつもの細い別れ道とメインの大通り。

 ラークはどう進むか悩んでいる。


 アンがカードでまたも占う。

 選ばれたカードから何か答えが出たようだ。


「何を占ったんだ?」


「はい。この道の過去を占いました」


「過去?」


「この迷宮には過去に何人ものハンターが探索に入り一人も帰って来ていないとの事です。以前のハンター達はどのように進んだかを占ったのです」


「そんな事まで占えるのか」


「魔力の記憶を占うのです。その時の魔力が残っていればどれだけ昔でも占えるのですが、この迷宮は魔力が流れ続けているので過去の魔力から占うのはできませんが、どのように流れているかは探る事ができました」


「それで、結論は?」


「悪しき心の者達は脇道に。より正しい者ほど真っ直ぐという傾向が強いようです。黒のクオンが多いほど脇道に、白のクオンが多いほど真っ直ぐ進みたくなるような流れになっているようです」


「細い道の先には悪しき者への守護者が配置されていて、真っ直ぐ行った先にはトラブルが起こっているって事じゃないか?」

 ラークが言う。


「どうしてそんな答えが?」

 マルボが聞く。


「ここまでの話をまとめると、この迷宮は神の神殿と関係があり、人間が使える魔力の生成器のようなもの。構造が人体生成に似ている事から、クオンの塊を分解して白いクオンと12色のクオンを合わせて外に放出していると見るべきだろう。食べ物を食べてエネルギーや栄養にする人体と同じ構造と思える。で、胃で分解されたら今度は腸に行くわけだが、悪い物は肝臓で更に分解される。つまりこの細道は肝臓へ、大通りは腸って事だ」


「げげっ!ラークのくせに何でそんな頭のいい事言えるんだよ!」

 一同頷く。


「おいーーっ!何なんだお前らよー!俺は前世で格闘技やってたから身体の構造とかも勉強したのっ!」


「そういうものなのでござるか?」


「たまたま知ってただけだと思うよ。ラーク君の事だから」


「……」


 ◆◆◆◆


 小さな通路の先にあるのは肝臓にあたる部分と思われる。


 肝臓の不具合というのであれば、それも問題であるとラークの知見である。


 話し合った結果、一同は二手に分かれる事にした。


 ラーク・マルボ・ケント・ピアニス・アン・ワカバ・キャメル

 と

 ムサシ・ベンケー・ピース・ホープ・ラッキー


 戦力的にこのチームに分ける事がベストと結論にいたったが、ムサシチームに欠点があり何度も議論を重ねた。


 ムサシチームには光の魔法が使える者がいないので暗闇の中を進む事になるのと、浄化魔法、結界魔法も使えないので毒などの汚染に対処が出来ないという事である。


 また、カビ臭さも三姉妹にはきつい。


 だが、それはマルボの新アイテム浄化魔法生成器マスクで何とかなりそうだ。


 あまりアンやベンケーに見せたくなかった事。


 マルボが浄化魔法を使えば済む事。


 せいぜいカビ臭さを浄化できる程度でしかない出力の制限。


 魔石を使っているので、教えるとラークがうるさい。


 などの理由でここで初お披露目となった。


 そんな事を考えると、むしろムサシ一人で1チームとした方がいいのでは?という話しもあったのだが、ムサシといえど、予想外のトラブルがあった時に、フォローする人物がいた方が良いと判断。


 機動力、危険察知能力の高い犬娘三姉妹と犬娘達の盾となるべくベンケー。


 その他がラークチームとなる。


 バランス的にはベンケーとケントを入れ替えるのがベストだ。


 しかし、アンとベンケーの疑いは晴れていない。


 もしムサシとケント抜きでアンとベンケーが裏切った場合、ラーク・マルボ・ピアニスの主戦力でも対処が厳しい可能性がある。


 だから、疑惑のある二人は別々のチームに分けるべきだ。


 実はキャメルもいるので巨大戦力なのだが、5歳の子供を戦力に考えるのをついつい忘れがちになるようだ。

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