100 参章 其の参 カイコ族のベンケー
「でも、ベンケー君を連れてダサラ・テポにもどるのかぁ…」
「何か問題あるのか?」
考え込むマルボにラークが話し掛ける。
「いや、帰路ルートがね」
「帰路のルートがどうしたんだ?」
「うん。今作ってる飛行機なんだけど、想定以上に高性能で時速600kmで10時間、つまり一回のフライトで6,000kmほど飛べる計算なんだよ」
「すげーな!で、それが何の問題なんだ?」
「6,000kmってことはさ、ここからちょうどグリーンヴィル辺りなんだ。で、グリーンヴィルからダサラ・テポまで約12,000km。ちょうど割り切れるんだよね」
「マジかっ!3日でダサラ・テポまで行けるのか!」
「ところが、飛行機のエネルギーは魔石によるものなので、エネルギーチャージに時間が掛かるんだよ。使い切った魔石が満タンになるまで、約5日は掛かるんだよ」
「それでも2回チャージで合計13日でダサラ・テポか。充分だろ」
「問題はさ。源義経を探すなら往路と同じルート使っても意味がないだろ。来た道でそれらしい人物がいたら気づくでしょ?」
「なるほど。ルートを変える必要があるのか。でもルート変えるのに何の問題があるんだ?」
「迂回すると最低1回チャージを増やす事になるから、移動日と合わせて6日増えてしまうんだよ」
「え?6日くらいどうってことないだろ」
「いるかいないか分からない人物の為に6日も使うのはもったいないよ。ルート次第でもっと時間かかっちゃうかもしれないし」
「うーん。そうかぁ?」
「しかし、源義経殿以外にも強者がいるかもしれないでござる」
「そうだなぁ…少し考えておかないとな…」
ラークは考えるように呟いた。
もちろん帰路についてもだが、他の強者についても考えるのだ。
日本史上には宮本武蔵以外の強者は多数いる。
ムサシと同等…それ以上の者達もいるのだろうか…
仲間なら良いが敵となる場合…
◆◆◆◆
「と、いう事で今日は、キャメルの精霊を探す為、資金稼ぎを兼ねてクエストをいくつか受ける」
「資金が目的だろ?」
「うるさいっ!資金全額魔石を買う事になったのはお前が魔石が足りないって言ったからだろっ!」
「魔石を使って色々作るように言ったのラークだろっ!」
「ちょっと、やめてください二人共。ムサシさんも止めてください」
「む?」
ラークとマルボが言い争いをはじめ、ケントが止める。
ムサシは本を読んでいた。
「いや!ムサシ何で本読んでんだよっ!」
ラークの突っ込みがムサシに向く。
「ふむ。ラーク殿とマルボ殿の話しはよく中断するので、暇なときに読むでござる。話の時はしっかり聞いているでござるよ」
「むぐぅ……」
「だから、資金なら国で提供するって言ってるじゃない。何では頑なに拒否するの?」
ピアニスが口を挟む。
「いや。国はドゥルジ攻防作戦に資金使うだろ。ただでさえ工房を提供してもらってるんだ。俺達は稼げるんだから、せめて自分達の資金は自分達で稼がないとな」
ラーク達も参戦する魔神ドゥルジ攻防作戦に向け、マルボは魔石を使った様々な道具を作っている最中である。
国の工房を提供してもらい魔道具作成を開発。
そのノウハウを提供してテプラン王国が使える道具を量産する。
テプラン王国側に多大なメリットがあるのだから、むしろ資金は王国が出すべきだが、開発した物は自分達が使用してノウハウ提供のみだからとラークは譲らない。
自分達の分は自分達の資金でというのだ。
ただ、ラークにも思惑はあり、ラーク達はトリカランド共和国の使者であり、独断ではあるが現在は外交官代わりでもあるのだ。
それがテプラン王国からの資金援助で旅をしていれば、周辺国との外交に支障が出る可能性もある。
テプラン王国が金を出して使われていると思われる可能性もあるのだ。
杞憂だとラークも思っているが、念の為気をつけてはいるのである。
そんな事を考え、ラークパーティの資金は全て魔石の購入費に充てられ、ラークパーティはいつもの如く資金難に直面する事となった。
そこで、本日はクエストを行い、資金を少しでも多く稼ぐ事になったのである。
ついでに、キャメルに宿る精霊を探そうという訳である。
「某もついていくでごわすか?」
会議に参加していたベンケーが聞く。
「あぁ、今日はどちらでも構わないが…」
「勇者がいる以上、大した役には立てぬでごわすが、某、精霊とは多少交流出来るでごわす」
そう言いながらベンケーは頭の手拭いをほどき、その頭を見せた。
坊主のように短く刈り上げられた頭であるが、髪の色は白かった。
「白髪でござるか?」
「白髪…魔族で髪を隠しているのかと思っていたが…」
「カイコ族ね」
ムサシ、ラークに続きピアニスが答えた。
「カイコ族?」
「そうでごわす。某はカイコ族でごわす」
「カイコ族って?」
「この世界にもシルク、絹があるのよ。だからカイコもいるの。そのカイコと共に生きる人達がカイコ族よ」
「何で白髪なの?」
「某達カイコ族は生まれながら白髪でごわすが、カイコの里ではカイコから取った絹を食べる儀式があるでごわす。その儀式はずっと昔から行われていて、それが原因と言われているでごわす。既に遺伝が進んで白髪しか生まれないでごわす」
「この世界、結構色々な種族がいるのよね。大都市を拠点にしてるとあまり見かけないけど」
「そうなのか?」
「ピース達も獣人犬族の末裔でしょ?魔族もそうだし、妖精とのハーフもいるわ。ハーフエルフってエルフと人のハーフもいるらしいわ」
「へぇー。でも、カイコ族だと何で精霊と交流できるの?」
精霊は裂罅神の生み出した魔力に対抗するために生まれた存在であるが、人々が魔力を使うようになった事で人間の魔力も嫌うようになったのである。
「言い伝えでは、カイコを進化させるため神樹の葉を食べさせていたと言われているでごわす」
「なるほどな。ドライアドが宿る神樹の葉を食べたカイコ。そのカイコの絹を食べ、精霊の力を得たのがカイコ族か」
「ねぇ、そういえば、カイコ族は皆肌が綺麗なの?」
ふと言ったピアニスの一言に一同はベンケーを見る。
確かに無骨な体躯に似合わないきめ細かな白い肌である。
はじめてベンケーの肌が綺麗だという事に気付いたのだが、男がそういう事に気付かないのはどの世界でも一緒のようである。
「まぁ、カイコ族の特徴でごわす」
「ちょっと羨ましいわね」
話しは脱線しつつも、その日はクエストで稼ぎつつ、精霊を探す事になったのだが…
「ラーク。アンを連れていかない?」
「ふむ。間諜の疑いを見極めるのでござるな?」
「そうだな。ちょうどいい機会だな」
会議室で解散した後、ラーク、マルボ、ムサシで話しをしていた。
テプラン王国に向かう海路にて、助けた奴隷の中にいたアン。
特殊な《占い師》というジョブや、タイミング的に悪神達のスパイではないかと注視している。
さらに魔神ドゥルジの発言。
君達の仲間の中にスパイがいるという一言。
混乱させる為の可能性もある。
何しろ《不義・虚偽と不浄の魔神ドゥルジ》
何が本当で何が嘘なのか。
だが、スパイがいると仮定するならば最も怪しいのがアンなのである。
占い師という特殊なジョブの為、アンはトニック王子の直属の配下として働いている。
次期国王となるトニック王子であるが、ピアニスの親でもあるためアンを連れ出す相談は可能であるが、トニック王子は少しお人好しというか甘いところがあるのでスパイを疑い無理矢理同行を認めさせられるかは微妙なのだ。
「取り敢えず冒険者ギルドでクエスト探しながら考えるか…」
「え?クエストの目処立ててないのに会議したの?」
「……」
ラークを弄る時の突っ込みは鋭いマルボである。
◆◆◆◆
「手頃なクエスト無いなぁ…」
「無計画だなぁ、ラークは…」
「マルボ殿、ラーク殿は忙しいのでござる。仕方ないのでござるよ」
「えー。どう見ても僕の方が忙しいよ。飛行機開発、攻防戦に向けて兵器開発や通信機開発までしてるんだから」
ぐうの音も出ないラーク。
「ハンターギルドの方を見るのはどうでごさる?ベルモートがいるのだからハンタークエストも受けれるでござるよ」
「あ!そうだったな!よし、行ってみよう」
ラーク、マルボ、ムサシの3人は隣接しているハンターギルド支部へ移動した。




