010 壱章 其の拾 ヘカトンケイルをどうするか
「ガーゴイルってのは洞窟や宝箱を守る石のモンスターでな……」
ラークはムサシ、キャメルを含めた新米冒険者達にガーゴイルについて説明している。
ラーク達一向から少し離れたところに洞窟の入り口があり、両脇に石像が立っている。
洞窟入口のガーゴイル、クエスト指定場所である。
ボンッ!
ボンッ!
突然2体のガーゴイルの石像が破裂して粉々の石になった。
「む?ガーゴイルが粉々になってしまったでござるよ」
「今のはマルボさんですよ」
ケントが親指でマルボを指差し言う。
指の先にはマルボが杖を構えて立っていた。
「アマルテアって爆発系魔法は使わないの?」
爆発系の魔法をはじめて見たかのようなムサシにマルボは尋ねた。
ムサシが言うにはアマルテアは雷魔法が得意との事だ。爆発魔法は初めて見たらしい。
新米冒険者達にガーゴイルについて説明をしていたラークは、段取りを崩されてしまいちょっと拗ねていた。
◆◆◆◆
ラーク達は森でオーガを探している。
【オーガ10体の討伐】
オーガ1体の討伐にB級〜C級の冒険者が3人ほど必要といった難易度である。
冒険者になりたての6人組では1体を倒せるかどうか。
オーガは数体で群れている事が多く1体のみに遭遇する事は稀なため1体ずつ討伐するというのも無理な話である。
「いた。ちょうど10体いるが……」
ラークの感知スキルでオーガ10体の群れを見つけた。
「あ……ジェネラルがいるね。どうする?」
マルボがラークの視線の先を覗き見て言った。
オーガジェネラル、オーガの群れを統率する上位種である。
「ジェネラルがいるとなると、新米6人組にちょっとリスクがあるな。他の群れを探すという手段もあるが……」
「私がヘイトを集めます。オーガなら視覚、聴覚、嗅覚で集められます。ムサシさんならジェネラルでも一撃ですから他の群れと大差ないですよ」
ケントが言う。
「じゃあ、それで行くか。ムサシはあの3本角を一撃で仕留めてくれ。ケントが隙を作るからその瞬間に頼む。俺が周りのオーガを一掃する。マルボは撃ち漏らした時のフォローを頼む」
「うん、分かった」
「了解でござる」
ケントはヘイトを集める特殊スキルを使う事ができる。
敵対する相手の注意を引き付ける事が出来るのだ。
ケントはオーガの群れの前に出て行った。
オーガの群れは突然人間が現れた事で身構える。
ケントがスキルを使おうと身構えた瞬間……
3本角のオーガジェネラルが吹っ飛んだ。
ムサシがオーガが身構えた瞬間を隙と捉えオーガジェネラルを倒してしまったのだ。
ラークはズッコケている。
マルボは爆笑している。
「あっははははは!早すぎだよ!」
「む?今の隙ではなかったでござるか?」
「大丈夫です、ムサシさん。問題ありません」
どんなアクシデントが起きても常にヘイトを集めるように心掛けているケントは、このタイミングでもしっかりスキルを発動させ残り9体のオーガを惹き寄せていた。
「はぁ……。まあいいか。」
ラークも気を取り直して、オーガの殲滅に取り掛かった。
◆◆◆◆
ラーク達一向はグリーンヴィルの街に一旦戻り昼食前にクエストの報告をしている。
「えっと、人面樹23体とオーガ10体、ゴブリン30体、ミノタウロス1体、ガーゴイル2体。クエスト達成報酬は合計191万ゴールドですね」
受付嬢がカウンターに積み上げられた素材を見て言う。
「あ、ゴブリン30体はお前達の分だな」
ラークは新米冒険者達に言った。
「え?僕達ほとんど何もしてないですよ」
「いいんだよ。新人の面倒を見るのは先輩の役目だからな」
「ラークさん、ありがとうございました」
受付嬢からお礼と午前中に受取り逃したドライアドへの貢ぎ物、報酬を受けり、食堂へ向かった。
「今日は俺のおごりだ。好きな物食ってくれ」
ラークは新米冒険者達に言った。
新米冒険者達は恐縮そうな顔をしているが、キャメルは大喜びである。
「さて、この後の事なんだが……」
「ちょっと情報が多いね。整理しないと」
「むむ?クエストは後2つではござらぬか?」
「確かに残りのクエストはドライアドとヘカトンケイルの件で2つですが……」
「僕が説明するよ」
マルボは皆に説明を始めた。
「まず、ヘカトンケイルが存在するのかどうか。100本の腕を持つ巨人でありこの世界で魔神とも呼ばれる存在。存在していた場合この街グリーンヴィルの壊滅危機となるだろう。いた場合、他の街、他国からも動員してA級ライセンス冒険者が最低でも18人以上の討伐チームを作る事になる」
「マルボ殿、質問でござる」
「はい、ムサシ君」
「拙者ら4人でヘカトンケイルを倒せるでござるか?」
「全然わからない」
笑顔で答えるマルボに皆がずっこけた。
「このクラスの魔物とは戦った事ないしね」
「昨日の魔人と比較してどうでしょう」
ケントが言う。
「それなんだよね。昨日の魔人と比較してヘカトンケイルの方が圧倒的に強いとは思うけど……」
「思うけど?」
「ムサシも全力じゃなかったでしょ?ムサシを戦力に加えるとムサシの戦闘力も僕らに計れないのでまったく分からない」
「少なくともムサシ抜きでの俺達では難しいかもな」
ラークが腕を組みながら言った。
新米冒険者達は言葉を失っている。
「あ、すまないな。折角キャメルの誕生日を祝ってやらないといけないのに」
「いえ、僕達の街の存続がかかってますし」
新米冒険者の1人が言った。
「クエストは存在確認かつ討伐でしたね。存在確認のみでも達成なのですか?」
ケントがラーク、マルボに尋ねるとラークが答えた。
「ああ、だが間に合わないな」
「ラーク、話進めすぎ。皆分かってないよ」
マルボがラークに言い話を続ける。
「存在確認をした場合ギルドに報告をする。そして討伐チームを結成する。という段取りを組むわけだけど、討伐隊が揃うのに一月以上かかる。準備の前に街が滅んでしまうからラークは間に合わないって言ったんだ」
新米冒険者達はゴクンと唾を飲んだ。
「まぁ、いない可能性もあるんだけども……」
「間違いなくいるな」
ラークが断言する。
「なぜそう言えるのでござるか?」
「ギルド支部長から聞いた話と魔物達の不自然な分布。ヘカトンケイルの出現もしくは誕生により魔物の分布に影響を与え街の周辺に魔物が増えたというのが合点いくからな」
「私達が討伐するしかないという事ですね」
「今この街にいるA級は俺達だけだからな」
ラークがケントの言葉に続いて言った。
「ここでもう一つ問題なのがドライアドのクエストだね」
「ドライアド、森の精霊でござるな。何度か会った事がござる。」
「えーっ?何で?」
森の精霊ドライアドは強い者の前には現れないと言い伝えれれている。
あきらかに強い者であるムサシがドライアドと接触するというのはおかしな話なのだ。
実は、言い伝えの真相は精霊は人間の強い魔力を嫌うのである。
「む?何故と言われても……。拙者にもわからぬでござる」
「いや、俺は予想ついたけど、更に話がややこしくなるから深掘りしない方がいい」
「え?何?教えてよ。気になるじゃん」
「マルボ、落ち着け。その話はまた今度だ。勇者と精霊とヘカトンケイルの関係性の話をしてくれ」
ラークはマルボの話を止めて続きを促した。
「う〜ん。しょうがないなぁ……」
マルボの話で更に複雑な自体になっている事が明確になる。
ヘカトンケイルは精霊を好んで食し、食べると強化してしまう。
ヘカトンケイルより先にドライアドに接触する必要があるがラーク達は強いのでドライアドには会えない。
ムサシが会える可能性があるとマルボは思うのだが、ラークは今後ムサシはドライアドと会える事は無くなると言う。
勇者は精霊に愛される存在で精霊の力を授かれる者でもある。
勇者であるキャメルがいればドライアドと接触は可能だがキャメルは5歳。
「あーそうか、ムサシが会える可能性もあるな」
ラークが言った。
「どういう事でござるか?」
「説明より先にムサシの解放の儀式をしてしまうか。飯が出てくる前に終わるだろ」
「あ、そういう事か」
「あの、いつも2人で納得する癖やめてもらえないです?」
ラークとマルボのやり取りにケントが苦笑いしながら言った。




