49 怪物によりそっていた怪物
「仲良くやってたみたいだな」
集めた食糧を浪費した怠惰な生活。
その中心人物となっていた二人、いや、二匹は震えていた。
押しいってきた四人を見て恐怖をおぼえてる。
何より、ユウマを見て。
「ユウマ……」
怪物の片割れが名前を呼ぶ。
まだ人間の形を保った方が。
しかし、それが人間でないのは明白だ。
放ってる気が人間のものではない。
一見すると人のように見える。
ユウマの恋人と一緒にいる怪物は。
人間型の怪物といえば良いだろう。
人の姿を保っているが、その中身は完全に怪物になってる。
ヒロキ達の前にいる二匹はそんな生き物だった。
素早くヒロキは鑑定する。
両方ともレベル15。
他の怪物に比べれば強力だ。
しかし、ヒロキ達ほどではない。
戦えば確実に勝てる。
それが分かってないのか、怪物二匹は全く怖じけてるところがない。
むしろヒロキ達を侮った態度を見せる。
「どうしたの、ここまで来て?」
恋人だった女はユウマに問いかける。
問いかけるように首をかしげて。
笑みを浮かべたその顔は、明らかにユウマを嘲っている。
よりそうように肩を抱いてるもう一匹もだ。
こちらは頭が獣もようになってる。
顔中に獣毛が生えている。
口の周りも膨張し、犬のように盛り上がってる。
他の怪物と違い、理性や知性は残ってるようではある。
だが、その姿はどう見ても怪物というしかないものだった。
そんな怪物化した男は、ヒロキ達を見て、正確にはユウマを見て笑う。
人間離れした形になってるが、はっきりと嘲笑と分かるものだった。
そんな怪物に、ユウマは蹴りを入れた。
錬気・操気を使って一足飛びに怪物に接近し。
突き出た顎を蹴り上げた。
どこから持ち込んだのか分からないダブルベッドから、天井まで瞬時に吹き飛ぶ。
天井の板を吹き飛ばし、その奥にあるコンクリートに叩きつけられる。
重力に反した方向であったが、怪物は硬い建材に叩きつけられた。
「…………え?」
ユウマの恋人だった女は、すぐ近くまで来たユウマを見て。
それから視線を上にあげて怪物化した男を見る。
勢いのままに天井に吹き飛ばされた怪物。
それはほんの少しの間だけ天井にはりつき、そして落ちてくる。
どさっ、とダブルベッドの反発力でも吸収しきれない重みがのしかかる。
その反動で恋人だった女はわずかに跳ね上がった。
「え……、あ……」
何を言おうとしてるのか。
そもそも、何を考えていたのか。
何かを恋人だった女は言おうとする。
しかしそれは口にされる事はなかった。
どん、と女の頭が蹴り飛ばされる。
隣にいた男と違い、こちらは横方向へ。
黒板にまで吹き飛ばされた女は、重い衝撃音を出して衝突した。
全身に満遍なく圧力がかかり、骨と内臓がきしんだ。
怪物化してるから即死は免れている。
だが、くまなくひびの入った骨は身動きをとる事を許さない。
抜けきらない衝撃が響き渡る内臓は一部が破裂した。
「が、あ……」
一瞬呼吸すら出来ず。
息が出来るようになったら全身が動かず。
ただうめき声をあげて、体中で響いてる痛みにならない痛みに悶えていく。
そんな恋人に近寄り、ユウマは冷めた調子で見下ろす。
表情の抜け落ちた真顔で口を開く。
「それで」
冷淡ですらない、感情の抜け落ちた声。
だからこそより一掃の激情が感じされる声音で尋ねる。
「何をしていた?」
そんなユウマの足下で悶絶する恋人だった女は、寒気をともなく怖気を感じた。




