序章
◇
幼い頃、僕の唯一といってもいい楽しみは、自室で人形と一緒に遊ぶことだった。
幼稚園、小学生といった幼少期、僕は人見知りをしていた。――まあ、今もだけど。
周りの人間が怖くて怖くて仕方がなかったのだ。大人も子供も例外はなく、そのどれもが自分の敵だと思っていた。
仲の良い友達というのは片手でも余り、具体的に言えば一人だけしかいなかった。心を許して一緒に楽しめた人間は、その子だけだった。その子が遊べないときはいつも部屋に一人で遊んでいた。
そんな僕だから、人形という存在に魅入られたのは、ある種当然であったといえるだろう。
だって――
人形は裏切らない。
人形は怒らない。
人形はいじめない。
自室にいる僕は、彼らにとっての神様だった。人形の背景、動き、感情、その全てを僕が操っていた。右手に握る人形が何を考えているのか、左手に掴む人形がどういう行動をするのか、全て僕の思いのままだ。
その世界では誰も僕を傷つけない。だって、僕は神様なのだから。神様の描くストーリーは絶対のものなのだから。神を傷つける存在など、いてはならない。
人形は僕の思いのまま。
僕はそんな人形を愛していた。
だけど人形の特性の中で一番好きなのが自分の思い通りになる点かというと、それは違う。
何よりも人形のことで好きだったのは、人形が総じて僕だけを見つめていることだった。彼ら、彼女らは僕が動かさなければ、何もできない。ただ僕を見つめて、未来を請う。人形たちは僕だけに献身を捧げ、僕だけの手によって汚される。
それはとても素晴らしいことだった。
全てが僕のものなのだ。
特にお気に入りの人形を見つめ、僕は言葉をかける。
「君は僕のことが好き?」
少女の体躯を模した西洋の人形は、しっかりと頷きを返してくれる。
僕はたまらなくなって、人形を抱きしめた。
人間は嫌いだ。勝手だから。
人形は好きだ。一緒だから。
あーあ。
――人間が人形になればいいのになあ。