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日常の異変

自分が常識から弾き出された特殊な人間だと気づくのにそう長い時間を有さなかった。

小学生の頃、運動会でクラスメイトの女子が怪我をした。幸い大事には至らずその子は軽傷で済んだ。しかし、かけっこの際にこけた両足には血が滲んでおり、歩くのがやっとの状態だった。その子は保健室まで連れていかれる際、保健委員の子2人に肩を貸してもらっていた。ただこの時は運動会ということもあり全生徒と教員が集まっており、さらに生徒の保護者達も大勢来ていた。そのため、その子は保健室まで連れていかれる際、肩を借りなくては歩けない、そんな情けない姿を大勢の人に晒すことになってしまっていた。僕はその時、可哀想だという感情しか抱かなかった。いや違う。同時に自身の奥深くで渦巻いていたもう1つの感情を、当時の僕は理解できなかっただけだ。その感情を理解した時。僕は...




5月も終わりに差し掛かり、雨上がりの空から見える太陽は一足早く夏の到来を告げる。

歳橋高校に通うピカピカの新1年生こと私、白石由希は終礼を終え、帰路につこうとしていた。普段ならこの後は部活があるんだけど、今日はオフの日で放課後に空きがある。


「ねぇ〜由希〜」


「ん?どうしたの」


リュックサックに今日貰ったプリントなどを入れてたら、後ろから声を話しかけられた。

声をかけてきたこの子の名前は彩香。私が高校に入って初めてできた友達だ。


「7限目のあいつが出した週末課題。さすがに多すぎると思わない?」


「あ〜確かにね。さすがに時間外にやる労働量ではないと思う」


「ほんとだよ!また夜遅くまで宿題やる羽目になるよ〜」


「彩香はぎりぎりに始めるタイプだもんね。前回の時は確か...」


「前回は3時まで起きてたよ!!全く..花の女子高生にはきつすぎる!」


「よくそこまで起きてられるなぁ。まぁその時は私も1時まで起きてたけど」


「いやいや1時と3時じゃ全然違うからね!全く私も要領が良ければなぁ」


「いやいや、要領なんて全然良くないよ」


「そんなこと言っちゃって。まぁいいや、由希はこの後部活?」


「残念だけど今日はオフの日なんだ。だからもう帰宅って感じかな」


「えぇ〜いいなぁ。私は今日も部活だよ」


「彩香のアーチェリー部楽しそうでいいじゃん。バスケ部はアップの段階からハードでもうヘトヘト」


「あはは...うちのバスケ部は県内でトップクラスに強いからね。そう考えると練習はきついだろうし、定期的にオフの日を設けるのには納得がいくかな」


「そういうこと。それじゃ今日はこの辺で」


「あ〜待って待って。由希、今日は掃除当番でしょ?」


「うげっ。そういやそうだった...」


「私はそろそろ部活に行くから。教室ピカピカにしといてね」


「何おう。任せとけ!じゃあね彩香」


「バイバイ」


たわいのない会話の後。彩香と別れ、私は教室の掃除を始める。掃除自体はそう面倒なものでは無くあっさりと終わった。


「床に黒板に机の並びに...うん。特に問題なさそうね」


教室から出て下駄箱へと向かう。途中で水筒のお茶がもう無くなっていることに気づいた私は、自販機で飲み物を買うことにする。


「何買おっかな〜」


そんなことを呟きながら廊下を曲がる。するとそこには3台並ぶ自販機とそれを眺める1人の男子がいた。


「あっ」


その男子が誰か分かった瞬間、私はつい変な声を出してしまう。

その男子は私の声に反応し、こちらの方を振り向いた。


「白石さん?どうしたの?」


その男子は私の知っている人物だった。平川穂。私と同じ中学出身だ。


「いや特に何も。ただ飲み物が無くなったから買おうと思ってね」


高校に入って久しぶりに平川君の顔を見たような気がする。同じ高校に入ったといえどもクラスが違えば話すことはほとんどない。元々接点がある方ではなかったからまぁこういうものなのだろう。


「?もしかして僕がここにいることで白石さんに何か不具合でも生じたり?」


「いや、別にそんな気を使わなくても大丈夫だよ」


私は平川君の隣に立ち、自販機の飲み物を一瞥する。何にしようか少し考え、スポーツドリンクを買うことに決める。お金を入れ商品の購入ボタンを押す。すぐさまスポーツドリンクが落ちてきてそれを手に取り、下駄箱へ向かうべく振り返ると平川君は私をじっと見つめていた。


「何?」


「あっ!ごめん!なんの商品を買ったのか気になって」


「あー、普通のスポーツドリンクだよ」


「白石さんバスケ部だもんね、この後は部活?」


私は首を横に振り返答する。


「いや、今日はオフなんだ。平川君は...文芸部だっけ?」


「そうそう。この後はちょっとだけど部活があるんだ」


あまり話さないからどの部活に入ってるのか知らなかったけど。なるほど文芸部だったか...


「部活頑張ってね。それじゃ」


「またね。白石さん」


彼は「またね」と私に言ったが次話すことはもしかしたら無いのかもしれない。こういった機会でもないと学校が同じでもなかなか話すことは無いもんね。

そう考えながら歩いてると身体がブルッと震えた。


「.........トイレに寄ってこ」


ちょっと歩くすぐトイレについた。とっとと用を済ませて帰宅するとしよう。そう考えた矢先の出来事だった。


ザーザ ザッ ザー


鼓膜に異常をきたしたのだろうか。テレビの砂嵐の音のような小さな雑音が頭に響いてくる。


「何なに...なんなのこの音は」


人差し指を耳に突っ込んでみるが音が止む気配はない。


(外から音じゃない...?ってことは耳に何か異常でもあるの?)


そう考えた直後。


ザァーザーッ ザァー


先程の砂嵐のような音がより鮮明になって頭に響き渡った。


「いてて...さすがにこれはうるさいって...」


こめかみ辺りを手で押え壁に持たれかかる。


(まずいな...さすがにこれは耐えられそうに...)


早くこの雑音が止んで欲しい。そう考えるが音は都合よく止まってくれやしない。むしろ段々と大きく、より鮮明になっていく気がした。あまりのうるささ、そしてそれが脳内に響き渡って来たことによる若干の頭の痛み。

景色は歪んでいき、視界が明滅する。私は耐えきれなくなり、目を瞑ってただ時間が解決してくれることを待つ。


『...........を作動...........し............接続せ......』


(...なんだ......今...砂嵐に混じって...声が聞こえたような...)


プツンッ......


(ん....音が止んで.........)


『えーと...聞こえてるのかなこれ?』


「ッ!?」


『とりあえず台本通りにと...こほん、あなたはこの世界を救う勇者に選ばれました』


なんだ?

何が起こってる?

砂嵐から何やら声が聞こえたと思ったら、唐突に音は止み、今度ははっきりと声が聞こえてくる。相手の人は女性の声。ロボットとかなんかじゃない、間違いなく人の声だ。


『まぁ初めは混乱すると思うけど、習うより慣れろってことで後はよろしくねー』


そう言うと声は途切れた。


(何...どういうこと...?この声は何を言ってるんだ?さすがに意味が分かんな..........ってあれ?)


おかしい。

なんだか感覚が歪んでるような気がする。例えば今私が2本の足でたってるはずの地面。これはほんとに私が先程まで踏んでいた地面なのか?例えば匂い。私はトイレにいたのだからトイレ特有の匂いがしてたけど今はそんな匂いがしない。例えば視界。目を瞑ってたから景色は分かんないけど、暗かったはずの世界がなんだか眩い光に包まれてような。


ちょっと待て。


私はすぐさま目を開け今何処にいるのかを確認する。すると明らかに今までいた場所とは違うことが分かった。私が立っていたのは草原の生えた地面で、匂いは自然に包まれた場所だからか草木特有のもの。そして私の視界きすぐさま目に入ったのは、太陽に照らされ、その緑色をより美しく醸し出している立ち並ぶ木々だった。自分が何処にいるのか理解した。さっきの場所じゃない。ここはきっと森の中。

でも、どうしてこんなとこにいるんだ?

先程、私に聞こえてきた言葉を反芻する。その中で特に気になった1文。


「世界を救う勇者に選ばれたって...?」


すると誰かの足音が聞こえてきた。いや...足音にしては重すぎるような。


(これって人の足音じゃなくて......)


何か足音と共に、木の葉っぱたちが細かく揺れ動く。そして、それが私の近くまで来たのが分かった時。


ギギギギギ.........


何かが軋むような音がした。音がした方をを振り向くとこちらに木が倒れてきていて...


「あ、危なっ!?」


すぐさま私は横によけて、木の下敷きにならずに済んだ。一体何が近づいてきたのかと思い、倒れた木の根元の方へ目を向けると...


「.........は」


それはとにかく巨大で木々と同じくらいの身長だった。

それは全身レンガが積み重なってできていた。

それは手らしきものが2本あり、地面に着け2本の足と共に4足歩行をしていた。

それは目があり顔を構成するレンガの割れ目から覗いていた。


「なにこれ...理解できないんだけど」


それは手らしきものを大きく振りかぶり、こちらの方へ殴りかかってきた。

そして私の視界は1面真っ黒に染まり、グチャっと何かが潰れるような音が辺りに響き渡った。

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