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猫と刀とモルフェウス  作者: 小原ミツマサ
第一話
9/31

(あらすじ:栄治は自分の体に起こったこと、そして村の秘密を聞かされる)


   *


「つまり、君は尾道くんなんだね?」と宮司は聞いた。


「ええ、そうですよ」、栄治は答える。


 彼はいまだに檻に入れられており、客間の机の上で村長、宮司、そして絵瑠と話していた。と言っても、絵瑠は一言も口をきいていなかった。彼女は昨夜神社で見たときと同じ格好をしていた。室内でもポンチョを外さずに暑そうではあるが、しれっとしている。


「どういうことだかさっぱりわからん。説明してくれ」と村長が言う。


「説明してほしいのはこっちだよ」と栄治。


「こんなことは今までにはありませんでした」、宮司は言う。「私たちはこの村を訪れた人を君のようにキリンジに変えてきたが、みんな人としての意識を失っていた。当然、人の言葉を話すこともない。だが君は違う。これは成功なのか、失敗なのか……」


「さっきから言ってるキリンジってのは何なんだ」


「そうだね」と言い、村長が口笛を吹いた。


 するとまもなく客間の襖を鼻先でこじ開けて、栄治と同じくらいの大きさの動物が入ってきた。前に突き出た鼻とピンと立った耳は犬のように見えるが、足は有蹄類に見るような蹄を持っていた。尻尾は馬のように長い毛に覆われている。


 その生き物は、村長の膝元まで来ると、行儀正しくお座りをした。


「これが私のキリンジだよ。君とは少し見た目が違う。個体によって差が出て、複数の動物を組み合わせたキメラのようになる。これは犬がベースになっていて、そこに馬とかが入っているのだろう。君は猫がベースだね」


「私のキリンジは鱗がついていて、センザンコウにちかい見た目をしている」、宮司は言う。「他にもこの村には、50体以上のキリンジがいる。」


「それって、村人一人につき一匹キリンジを持っているってことか」


「基本的にはそうだ。キリンジを持っていないのは生まれつき魔力がなく、魔師になれない人くらいだよ」


「魔師?」


「ちょっと待ってください。そこまで話してしまっていいんですか」と宮司が二人の会話に口をはさんだ。「部外者ですよ。もし漏らされたら」


「そう簡単に自由にするつもりはないよ」、村長はつづけた。「魔師っていうのは、わかりやすく言うと魔法使いみたいなものだよ。科学では解明できていない現象を能動的に引き起こすことができる。と言っても、今は法律に定められている目的のためにしか魔法を使うことはできない。表に出ている法律じゃなくて、裏の法律だけどね。業界のルールみたいなものだ」


「その目的っていうのは?」


「うん。麒麟という怪物を倒すことだね」


「キリン?」


「キリンビールの缶に書いてある絵を見たことがあるだろ? 君が止まった部屋の掛け軸にも描いてあった。伝説上の生物だと思われているが、実在する。たまにこっちの世界にやってくることがあるんだよ。私たち魔師は、あちらの世界から人間界にやってきた魔獣をとりあえず麒麟と呼んでいる。で、そいつを倒さないといけない。

 あちらの世界と言うのは、人間界と対になって存在する別の世界だと思えばいい。実際私だって話に聞いているだけで、あちらの世界に行ったことはない。」


「麒麟が来るというのは本当なんですか?」


「本当だ。この村にも一年に一回くらいは来る。」


 そのとき、ピンポーンと来客を告げるチャイムが鳴った。


「今日は忙しいな。絵瑠、出てくれ」、村長が言うと、絵瑠は立ち上がって客間を出て行った。「魔師に伝えられる伝説によると、もともと人間は魔界に住んでいた魔獣の一種だったんだ。だが、ある日仲間うちで結託して、赤日という玉を盗んだ。赤日は青日という玉とセットで使われ、こちらの世界とあちらの世界の均衡を保っていた。だが人間は赤日を持ってこちらの世界に逃げてきて、赤日が放出している魔力を利用してあちらの世界とこちらの世界とを隔てる結界を張った。

 それでもあちらの世界から魔獣が赤日を取り戻そうと結界を破って入ってくる。その麒麟を人知れず倒しているのが私たち。その結界は今も維持されて簡単に麒麟が入ってこないようにされている。というか、赤日は実際に存在するからね」


「それって、人間は、もとは魔界にいた魔獣だったってことですか」


「そうだ。私たちのような魔法を使える人間がいまだに存在するのも、そのためだ。時代とともに、進化とともに人は魔力を失っていったが、それでも少しは持っている人たちが魔師と呼ばれている」


「じゃあ、どうしてキリンジなんて作るんだ?」


「キリンジはいわば人間に魔力を流し込んで魔獣化させたものだ。人間が失ってしまった力を、無理やり復活させたという感じだな。ただの魔師よりも強い魔力をもっているし、魔師と良いコンビネーションが取れれば魔師の力を増幅することもできる。キリンジはいるだけで助かるんだ」


「もしかして、その人間界に入ってくる麒麟ってのは、俺みたいな格好なのか」


「それは、半分は当たっている。今の君の状態はスリープモードみたいなもので、力をセーブしている。覚醒したときはまさに麒麟と同じような見た目になる。とはいえ、麒麟にも個体差があるがね。飲み込みが速いじゃないか。わかってもらえてよかったよ」、村長は暢気に言う。


「よかったよ、じゃねえよ。なんで俺がそんなことに巻き込まれないといけないんだ」


「まあ落ち着け。生きているだけよかったじゃないか」


「よくねえよ! こんな姿になってよかったとか言えるか」


「あはは、確かにそうだな」


 栄治が猫のような見た目をしているからか、どれだけ怒ってもその怒りは相手には伝わらないようだった。村長は人間をキリンジに変えることが当然であるかのように話していた。


 そのとき、玄関に出ていた絵瑠が帰ってきた。


「村に明階の宮部さまという方が来ているようです」


「明階さまだと!」、村長が飛び上がった。「すぐにお通ししろ!」


「いま村の人たちが群がって写真を撮ったり、サインをもらったりしてます」


「アイドルじゃないんだぞ!」


「明階さまも喜んで対応してました」


「……!?」

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