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猫と刀とモルフェウス  作者: 小原ミツマサ
第三話
26/31

(あらすじ:宮部らは東京都立川市にある魔師協会本部に到着した。)


   *


 八月一日に、宮部ら一行は立川市についた。


 立川駅前でバスを降りて、そこから3分歩いたところにある、小振りで、とくに特徴もないビルの前で宮部は立ち止まった。


「ここが、魔師協会本部だ」


「なんか見た目からだと全然そんな感じはしないな」


「まあ国からもらえる予算も年々減っているからな。表向きは自衛隊をやめた奴らの再就職を紹介する事務所ということになってる」


 そう言うと、宮部は建物には入っていった。


「ここは訓練所でもあるから、お前らは今日からここに通うことになる」


 玄関から入って右にすこし行ったところに、受付があった。外からぱっと見てわからない場所にわざわざ 配置しているのだろう。


 受付にいた女性に宮部がぼそぼそと何かを言うと、女性は「では、あちらの部屋に」と言って、廊下を進んだ先のつきあたりにある部屋を示した。


 その部屋に向かう途中に大きな花瓶が置いてあり、そこに白や赤の花が差してあった。その花に、栄治はどこか見覚えがあった。


「あ、これ、芥子じゃねえか」と栄治は思わず言った。


「まあ芥子の花は魔師の象徴だからな」と宮部は言った。


「なんでわざわざこんなところに」


「見えやすいところに置いておくわけないだろ。あと、栄治はここでは勝手にしゃべるなよ。むやみにお前の存在を他の奴に知らせたくない」


「わかったよ」


「だからもうしゃべるな」


 一行がつきあたりの部屋に入って行くと、そこにはスーツを着た役人風の人が、カウンターの向こうでデスクに座って仕事をしていた。それ以外に、一人だけ私服姿の女がいた。彼女はだいたい絵瑠と同じくらいの年齢に見えた。カウンターの窓口に座って、何か書類を書いているらしい。


 スーツを着た人が立ち上がって、こちらに話しかけてきた。どうやら訓練所に登録する場所のようだった。


 絵瑠と三枝は書類を渡されて、それに署名するように言われた。すでに窓口に座っている女の隣に絵瑠が座り、さらにその隣に三枝が座って、書類に書きこみ始めた。栄治はそれをうしろから眺めていた。


「ねえ、あなたも訓練生になるの?」、隣の女が絵瑠に話しかけてきた。


「ええ」、絵瑠が控えめに答えた。


「私、真木千鶴って言うの。どこまで資格取るつもり? 私は特級だけど」


「私も特級です」


「そう、じゃあライバルだね」、悪意のなさそうな笑顔で言う。「あなたは何で特級になろうと思ったわけ?」


「なんで、ですか?」、絵瑠が回答に詰まった。なぜそんなことを聞かれるのかわからないという感じだった。


「だって、特級にわざわざならなくても、生きていけるじゃない。村に一生引きこもっていればね」


「私は、自由になりたいから、です」


「自由?」、真木は笑った。「ちょっと自由になったくらいでどうするの? どうせ人並みの自由も得られないのに」


「別に、人並みの自由は――」


「私は、自由に生きることに喜びを覚える人間もいれば、不自由に生きることに喜びを覚える人間もいるでしょ。自由というのは幸福のための絶対の条件ではない」


 宮部も三枝も、二人の会話が聞こえないふりをしていた。


「それはそうかもしれないですけど、私は自由の方がいいです」と絵瑠。


「価値観が合いそうにないわね」


「……ええ」


 真木は突然立ち上がって、書き上げた書類をスーツを着た人に渡すと、部屋をドアに向かって歩きだした。そのとき、宮部のすぐそばを横切った彼女は、ふと立ち止まって、宮部の右腕を見た。


「あなた、月入村の人?」、真木は宮部に聞いた。


「そうだが」と宮部。


「ということは、あなた宮部さんね。もしかしてあの子の師匠?」


「まあ師匠みたいなものだな」


「月入村の出身者を師匠とする人が、自由を求めにやってきたわけね」


「それに何か問題でもあるのか?」、宮部は両手のひらを上に向けて言った。


「別に」


 真木は不敵に笑うと、ドアから音もなく出ていった。


 宮部の顔と絵瑠の顔が同時に曇るのを、栄治はただ黙って見ているしかなかった。

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