プロローグ
(あらすじ:尾道栄治は大学を卒業後、家を出て東北を放浪していた。都市伝説を頼りに山奥の村を訪れる。)
*
赤い太陽が栄治を照らしていた。
栄治の首元を絶えず流れていった大粒の汗は、アスファルトに落ちると一瞬で蒸発した。
白いTシャツの裾をしぼると、音を立てて水がしたたる。
アスファルトを除いて、人工物を見つけられなかった。
(本当にこの道で合ってるんだろうな)
立ち止まり、スマートフォンの地図アプリを見た。居場所を示す青いマークが、うす緑色に塗られたどことも分からない平面にぽつんと表示されているだけだった。自分が今どの道を歩いているのかも、栄治にはわからなかった。
(都市伝説はやっぱり伝説なのか……)
できるかぎり日に当たらないように、道の端の陰が差しているところを歩いていく。
田んぼに囲まれた無人駅からバスに乗り、三十分ゆられたところにある山の入口で下車し、歩きはじめてからすでに一時間が経っていた。
長い坂がすこしずつ緩やかになってきたことに気づき、安心した。道の両脇から迫り出した木々の葉が濃くなってゆき、日差しが遮られ自然と涼しくなる。
(まあ、行くだけ行ってみるか)
自動販売機の横を通り過ぎた。
錆びついた道路標識の横を通り過ぎた。
道路の白線がいつの間にか消えていた。
アスファルトが砂利道に変わった。
道に草が生え始めた。
流石にこんなところに人の住む村があるはずがないと思い始めたとき、道の先に、民家の屋根のようなものが見えてきた。それが村だった。