甘いカレー
「飯を食わせてやる」と言われ、言ってみると...
「なあこいつは甘すぎやしないか?」
古びたアパートの一室で俺は脳を溶かすような甘さに悶えていた。
「そんなことないさ。確かに子供向けの甘口だが、むしろ懐かしくて手が進むだろ。」
そういって奴はスプーンを持つ手を進める。
「じゃあお前は手順を間違えたな。せめて俺が1口食べてから残りのカレーの箱を見せるべきだった。」
「どちらにせよこの甘さは変わらないよ。」
奴の隣にはダンボールに収まってない子供向けカレーの山がある。付録目当てで箱買いしたらしい。馬鹿なヤツだ。
「俺たちが生まれるよりずっと前にシール付きウエハースのウエハースを捨てるやつがいて問題になったらしいな。もしお前がその時代にいたらお前は立派な不良少年だ。」
「そんなガキンチョと一緒にしないでくれ。俺はしっかりとコレクター魂を持って付録を集め、しっかりカレーも残さず消費する。むしろ模範人さ。」
「そんな模範人がこの有様とはざまあないな。」
「他人に頼る力を持つ立派な模範と言って欲しいな。1人で自爆するよりよっぽどましだね。」
奴は模範人を譲らなかった。奴ほどプライドが高い人なら、これ以上言うと長くなると思い俺が黙った。
トロトロの人参とかなり小さい肉が甘いルーに包まれて胃に入っていく。
「よくガキの時にこれを食べれたよな。辛口に慣れた今じゃシロップみたいなもんだよ。」
「あの時はこのカレーをスペシャルメニューに感じてたのにな。」
懐かしい幼い気持ちがふと脳裏を過ぎる。
「俺、母さんとスーパーに行くと必ずレジカゴの中にこのカレー入れてたわ。で、母さんが気づいて戻すように言うんだよ。でも、たまに許してくれたりしてさ...」
「なつかしいな。」
「ああ、なつかしい。」
「あの頃の俺たちは今の俺たちがこんな事してるって思いもしないだろうよ。」
「あの嬉しさと期待をここまで持っていけないことも知らないんだよな。」
「この世に染まったな 。」
甘いカレーはこの気持ちを紛らわすにはちょうど良かった。
カレーメシならハヤシライスが1番好き