帝国支部襲撃②
入り口の騒動が落ち着いてから1時間後。
本部の作戦室にてオレを含め、7人の解放軍の仲間が集まる。
その中でもアリアさんを含む4人の彼ら彼女らが、第一部隊のメンバーだ。
アリアさんが簡単に紹介してくれた。
「彼がヴァダイン。副隊長だ。私の方が強い」
「やっほー」
大柄の男。身長は2mを超えているだろう。おおらかな雰囲気が伝わってくる。
「隣にいるのがユン。回復魔法が得意だ。やはり私の方が強い」
「聞いたよ、少年。ライトニングで壁、ぶっ壊したんだってね」
豪華な杖を持った女性が小さく手を振ってきた。銀色の髪が目立つ。
きらびやかな笑顔を浮かべていたがなんだか怖い雰囲気だ。
裏がありそうというか……。
「最後にイーガル。リュウガと同じく魔法が得意だ。残念ながら私の方が強いがな」
「イーガルです」
鋭い目つきの男がそう言った。口元に黒のマスクをしている。
彼だけは赤ベースの服ではなく、黒メインに赤のラインが入った服を着ていた。
忍者?
ていうかアリアさんはどれだけ強いんだよ。
「だが皆頼りになる。よい仲間だ」
彼女は最後にそう評した。
第一部隊の皆は満足そうな顔をしている。なるほど、これは隊長の器だ。
彼女は最初に会った時の、赤の服に銀の胸当てをしている。
背中にハルバートを背負っていた。
「あとは技術班の2人だ。私たちのサポートをしてくれる」
技術班の2人が礼儀正しく頭を下げた。オレも同じようにする。
「そして彼がリュウガだ。本来であれば今日の入隊式で第一部隊の所属がきまっていたが事態が事態だ。なにより彼が望んだことだが……今回の襲撃作戦に参加してもらう」
ミアが連れていかれた。
それでオレが戦う理由は十分だった。
ステラは当然、反対してきた。
勿論、それが合理的な選択というのはオレだってわかっている。
「僕は反対だなあ」
優しそうな声で言ったのは、大柄の男――ヴァダインさんだった。
「第四部隊も研修中の子を連れていったんだよね? ホントに大丈夫?」
「その子――ミアとリュウガは同僚で友人だ。それにリュウガは純粋な強さで言えば、私たちの誰より強い! そう確信している」
「へえ……隊長よりも?」
訊ねたのは回復役を務めるユンさんだ。
アリアさんは豪快に笑った。
「はっはっはっ! 難しいところだな。悩ましいが、やはり私の方が、圧倒的に強いッ! だが、中々やるぞ、リュウガも」
ぶれないなあ、アリアさんは。
まあ、そこが安心できるところでもあるんだけど。
ユンさんは隣のイーガルさんにジト目で視線を送った。
「だってさあ。イーガルちゃんの出番なくなっちゃうかもね」
「味方が強くなるのはいいことだ。それに魔法にも得手不得手がある。彼にできないことを、俺が補えるかもしれない」
「相変わらず真面目なヤツ。つまんないの」
ユンさんが肩をすくめる。
アリアさんがテーブルを叩き、仕切り直しをはかった。
「今回の作戦はここより南にある、ゲオルバルク帝国ルーバニア第二支部の襲撃だ。ただし支部の破壊が目的ではない。奇襲作戦による敵の錯乱と、第四部隊の救出を優先する」
「第三部隊はどうしたのですか? 人数は多い方がいいのでは?」
イーガルさんは挙手して質問した。
「収容所襲撃の任務についている。合流できそうだったらしてもらうが、期待はできないな。もしも援護ができそうな場合の連絡係は技術班に一任する」
「はい」
技術班が素早く返事した。
「支部の状況がわからないのにどうやって奇襲するの?」
ユンさんが訊く。
「第四部隊の1人がなんとか戻ってきてくれた。重傷のため療養中だが、情報をくれた。彼が全身全霊で送り届けてくれたこの情報を活かさない手はない」
アリアさんはテーブルに大きな紙を広げた。
そこには支部の周辺の地図と、警備の配置、そして侵入可能な経路と方法が事細かに記されていた。
「他に不満・不安な材料は? なんでも言ってくれ。私が全部答えてみせよう」
アリアさんの自信に満ちた言葉には妙な安心感がある。
誰ももうなにも言わなくなった。
「では作戦を伝える」
アリアさんは支部の正面入り口を指した。
「方法は北からの正面突破ッ! 最も厚いところを狙う」
「「「え、ええええ⁉」」」
オレ、ユンさん、ヴァダインさんが一斉に声を上げた。
イーガルさんも無言だったが、大きく目を見開いている。
≪作戦失敗の確率は2%です≫
ステラも現実的な数字を叩きだす。2%あることに驚きだが。
「――と思わせて、西側から侵入する。ここが最も牢獄に近く、脱出も簡単に行える」
言われて少しホッとする。
≪作戦成功の確率は5%です≫
ステラはまだ不可能だと判断しているようだ。
≪南からの侵入が最も適していると推測します≫
「アリアさん、でも西側の警備も厳重ですよ。南側は崖になってるから、警備も薄くて一番入りやすいんじゃ?」
オレはステラに言われた通りのことを訊ねる。
「脱出まで考えると南は難しい。そう判断した」
≪その判断は正しいです。失礼いたしました≫
ステラが引き下がる。
でも、オレの疑問は解消されていなかった。
「でも、じゃあどうやって侵入するんですか?」
「そのための正面突破だ。北側に敵の兵力を集中させる」
なるほど、と納得した。
アリアさんが満足げに頷いて、全員を見る。
「では配置と伝える。イーガルは西側の攻撃を担当。侵入経路と脱出経路の確保を頼む」
「了解」
「ヴァダインは侵入を担当。襲ってくる敵は全て蹴散らせッ!」
「う、うん……ちょっと不安だけど」
「ユンは今回、支部に侵入してもらう。第四部隊に動けなくなってるものがいるかもしれない。あとはヴァダインの補助だ。ヴァダインはユンを守りながらの戦いになる。頼んだぞ」
「わかった。副隊長、頼んだわよ」
「あまり期待しないでね……」
アリアさんがオレの肩を叩く。
「そしてリュウガ。君は――正面突破。囮だ」
「え……」
正面突破って……。
「ちょ、ちょっとまってよ!」
ヴァダインさんが前のめりになった。
「それって一番危険な役だよね⁉ そんなのだめだよ‼」
「その通りだ。だが言った通り、私の見立てによれば、彼はこの中で誰よりも強い。適任なのだよ」
「でも」
「そう急くな、ヴァダイン。なにも1人で、とは言っていない。私も囮役だ」
「アリアが……?」
「不満か?」
「……」
ヴァダインさんが渋々引き下がった。
「返事を聞いていなかったな、リュウガ。危険な役目で、おまけに私たちがどれだけ敵の気を引くかで勝負が決まる。重要な役割だ。できそうか?」
≪死亡する確率が50%ほどあります≫
ステラの宣告が、一瞬だけ動揺を誘う。
でも、やらないときっと後悔する。
ミアを救えなかったら、オレは――だから。
「…………それでミアを、……皆を救えるなら!」
「決まりだな」
役割は決まった。
覚悟を決めたつもりだったが、それでもまだ不安はぬぐい切れなかった。
「大丈夫だ。君のことは私が命に代えても守ってみせる。なんせ私は、最強だからな」
アリアさんはオレの肩にそっと手を置くと、歯を見せて笑った。
どうして彼女はそんなことを、こともなげに言えるのだろう。
「時間が惜しい。出発だッ!」
そう言って、アリアさんは扉の方へ歩いていく。
大きい……彼女の背中はずっと大きいものだと思った。
≪作戦の成功確率は13%です≫
オレはステラの言葉を誰にも伝えなかった。