2.前世の自分
『ここは、どこ?――っ、お父様達は!?』
ルーナは真っ白なところに立っていてゆっくり自分のいるところが見えてくる。
ぼやけた視界が開き、情報が脳内に行き渡る。
はっきり見えたが、そこにはウィリアムたちが倒れていた。
『お、お父様!……う、そ。死なないでっ、死なないでくださいっ、お父様!』
続けざまに見えたのは、侍女のシャリーナ。
『シャナ!シャナ、目を開けて。寝ているだけよね?ねえ、ねえ!』
『レオン様、カペラさんまで。私を置いていかないで!っ。返事してよ………。私をっ、一人っ、にしない……っで』
ルーナは再び涙を見せた。今度はさっきとは違って涙がぼろぼろと流れ落ちていく。
止まらない涙をルーナは必死でぬぐう。
『いやっ、嫌だ。行かないで』
ルーナは顔を手で隠し、手の隙間からは涙が溢れ出す。
『小雪』
ふと、後ろから誰かの声がし、ルーナは反応する。
誰でもいい、助けてほしい! 最後の願いを、叶えてくれることを願って。
顔から手を離し、振り返ると一人の女性が立っていた。
『――――お姉、ちゃん?』
誰か知らない、分からないのに急に口からその言葉が出てきてルーナは困惑する。
知らない、こんな人、知らない。
だが、感じるのは既視感であるそれで。
『小雪。久しぶりね。今もちゃんと幸せに生きてる? 私は小雪に辛い思いをさせてしまったから小雪には幸せでいてほしいの』
ルーナはこの女性が誰か分からない。なのに、覚えてる。心の隅っこに記憶が残っているような感情になった。
『お姉ちゃん!お姉ちゃん………。よかった。生きてる……。生きてる!』
自分でも何を言っているか分からないルーナは女性に抱きつく。
『小雪。ごめんね、今まで辛い思いをさせてごめんね……。ごめんね、もう行かないといけないの。またこの世界で会いましょうね』
ルーナの頭を撫でて微笑みながらルーナから離れていく。
『待って、待って!行かないで!私を一人にしないで、また一人になっちゃう………。お姉ちゃん!紅葉お姉ちゃん!!!』
どう叫んでも女性は止まらず歩き続ける。
『待って………………待ってよ。いか……ないでっ』
潰えた想いは今も尚。
ルーナ・エメラルフの元に潜在する。
ありし日の思いはずっと。
小さな小さな、この胸に。
***
「行かないで!」
「あれれ〜?あ!小雪ちゃんだ〜。久しぶりですね〜っ!小雪ちゃん。ん?でも転生したから、えーっと……あ、そうそう!ルーナちゃんでしたわ〜」
さっきまでとは違うところにルーナはいて戸惑う。しかも、誰だかわからない人から「転生した」なんて言われたら誰でも戸惑うだろう。
白亜の空間。
何も存在しない、真っ白な部屋。
「顔、全然変わってませんね〜。珍しいですね〜。わたくしのこと覚えてますかねえ〜?」
「あなた……誰………?」
「あーあ、やっぱ覚えてないですよね〜。わたくし、生と死の判定人のユウリと申します〜ぅ。どうぞよろしく〜っ」
自称、生と死の判定人のユウリはスカートを両手で持ち、頭を下げる。
ゴスロリ姿の彼女は、現実だとかなりイタそう、というのが、混乱している脳内に響く。
(って、そうじゃなぁぁぁあい!)
強制的にそこから思考を戻し、目の前の不思議な女性の前に、ぽつりとこぼす。
「転生って……!?」
「う〜ん。そうだ!ビデオを見せてあげますよ〜ぅ。わたくしちょー優しいので」
えっへん、と胸を叩くユウリはにこっと笑ってみせる。
彼女を取り巻く不可解な空気が、一瞬にして露散した。
「ビデオ?」
「はい。転生前、つまり……前世の貴方のビデオですわですわ〜!まあ、死ぬ三十分前の夢の中から始まるので、訳の分からないところから始まりますけど〜、ご勘弁〜っ」
ぽちっとリモコンのようなものをユウリが押す。すると周りが真っ暗になり目の前にルーナが映っていた。
混沌の闇の中。
アップに映る自分の姿に、ルーナはたじろいだ。
「わ、私!?」
「し〜っ!上映中ですよ〜?」
「え、す、すみませんっ」
ルーナはビデオの方に目をやる。
そこには一人の女性と自分とそっくりな少女がいた。夢の中だろうか。否、きっと自分なのだと思う。
それはいわゆる既視感。
懐かしいと思う避け難い感情。
『小雪。小雪はほんとに雪が大好きなのね』
『うん!大好き!だってだって、雪きれいだし、なんたって私の誕生日は雪の日なんだもん』
『そうね。お母さんも雪は大好きよ』
『ねぇ、お母さん』
『どうしたの?』
『お姉ちゃんは大丈夫なの?』
『ええ。多分、ね』
そう女性が言った時、場面が変わりルーナに似た少女……すなわちルーナはすっかり大きくなっていた。
『お母……さん………?』
その日も雪の日で、地面は真っ白だったが、所々靴の足跡で黒くなっている。それとは別に、ある場所から赤く染まっていた。
赤く染まった雪が、鮮血と共にそこに在った。
倒れる女性。そのそばに。
あかくあかくあかくあかくあかく。
どくん、と心臓が脈打つ。
嫌だ、思い出したくない!ルーナは思わず耳を塞ぐ。でも、この映像は、消えてなんてくれなくて。
積もった雪の上に足跡をつけるように女の子は歩いていき、涙目になる。
ああ、自分だ、とルーナは感慨深くなる暇はない。見たくない、見たくないっ。そう思ってしまうから。
『お母さん………なの、?ほんとに、お母さん………なの?』
『どうして、どうして…………。お母さん……自殺なんかっ』
赤く染まっているところには女性が倒れていた。
少女は膝まずき、女性に抱きつく。
嗚咽が喉から出始め、ルーナは慌てて口を押さえた。
お母さん、お母さんお母さんお母さんお母さんお母さん……っ。
絶望した声で、少女は言う。
『お母さんまで……。私、どうすれば……一人…………一人になっちゃった。っ私、っひ、一人だ。みんな、置いていっちゃったっ……置いてっ』
少女は泣きながらそう言い続けるがそこには誰もいない。
誰一人来ない、希望のない夜。永遠の闇。
孤独、虚無、無心。それしか、感じなくて。
ああ、雪が綺麗だな――。
『小雪、小雪!学校遅れるぞ!小雪!』
男性がそう怒鳴って少女は目を覚ます。
少女は夢の中よりも大きくなっていて、ルーナよりも年上ぐらいだ。
『夢……』
『学校遅れるぞ。もう朝食できてるから早く下降りて来いよ』
『は、はぁい』
少女は返事をしてベッドから降りパジャマから制服に着替える。
ブレザーに袖を通して、リボンをつける。
高校生のできあがり。
学校の用意もちゃんとできており、部屋のドアを開けて階段を降りる。
『おはようございます。美穂さん、健斗さん』
『おはよう。小雪ちゃん』
『おはよう。小雪』
無理、気まずい。
少女は食事をさっさと済ませて『行ってきます』と声をかけ靴を履き外に出る。
外は雪が降っていた。
『ゆ、き……か』
寒い。
今日は寒い。
マフラー、持ってくればよかったかも。
少女は近道をしようと道路に出る。
その時、夢の中に出てきた女性のことが頭の中を支配した。
あかいあかいあかい、血――。
消えていく、優しい母。
途端に少女は道路の真ん中にうずくまり、『雪……雪が…………』と顔を青ざめる。
『今まで平気、だった………のに』
むしろ、好きな方だったのに。
『怖いよぉ…………。いやっ、いや!お母さん』
あの時の出来事が、ずっとずっと苛み続け。
頭を横にふり、頭に浮かぶ記憶を振り払おうとするが頭の中にまとわりついて振り払えない。
どんっと何かが少女に当たり、少女に鋭い痛みが走ったのがビデオ越しでも分かる。
「あ……っ」
倒れる少女。
傍ら、雪に染み込んでいく赤い血がどんどん広がっていく。激しい瞋恚が、ルーナの心を揺さぶった。
その光景にルーナは「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。
自分が、死んでいく。
あかい血から、生気が抜けていく。
車から人が出てきて、少女に駆け寄る。
そのあと、すぐに救急車が到着した。
でも、助からないだろうな。
なぜか客観的に、それでいて主観的に、無関心に。なんとも言えぬ感情が、胸を渦巻いた。
「終わりで〜す」
ユウリがぴっとリモコンを押すと明るくなった。
「これ、私、だ。覚え、てる。全部、覚えてる。ユウリ、さんのことも、全部」
朧げに、それでいて、鮮明に。
「よかったあ〜。わたくしのこと忘れられてたので流石に寂しかったですから〜」
「あなた、ほんとに……判定人…………?」
「だからそう言っているじゃないですか〜。もう忘れたんですかぁ〜?…………ん、もう時間ですか〜。貴方、結構睡眠時間少ないんですねえ〜」
「へ?」
「また、会える日を楽しみにしていますよ〜っ。さよーなら〜」
ユウリは「ばいば〜い」と手を振りルーナの視界からうっすらと消えていく。
美しい、雪の日の出来事。
小雪が死んだのも、母が死んだのも。
あたり一面、銀世界の彼方。
***
「っ…………………!」
ばさっと布団を両手で抑え起き上がる。
そこはいつものベッドでもなくユウリのいたところでもない小さな小屋だった。
「ここ、どこ?――ユウリさんは………?」
自分がどこにいるのさえもわからないルーナを見て男は「起きたか。どこか痛いところはないか?」と唐突に聞く。
きゃっ、と変な声が出て、必死に当たりを見回した。「ここだ、ここ」という声がして、後ろを見る。
「ぎゃぁぁあ!!!」
「お、おいっ、騒ぐな!」
「変態! 痴漢! 拉致! け、けけけ、警察呼びますよっ!?」
「謂れのない非難を受けた気がする……冤罪だ!!」
男は焦り、「で、体の調子は?」と聞く。どうやら、ルーナが思っているような人ではないらしい。
「痛い……ところ?ありませんけど………それより、ここは?」
「ここはあの屋敷の近くにあった小屋だ」
「…………小屋。ところで、あなたは何方、ですか?」
「なっ、君を魔女から救ってやり、挙句の上に君が僕の膝の上で寝てしまったから、わざわざ、ここに連れてきてやったのに」
男はむっとした顔をルーナに見せルーナにしてやったことを次々と挙げていく。
「…………………………っ!す、すみませんでしたぁ!」
顔を真っ赤に染めてルーナは九十度に頭を下げる。
しばらくそのままにしていると男が「もういい。頭を上げろ。ちなみに僕の名前はロズベルト・ルフィオだ」とルーナの額を人差し指でぐいっとあげる。
「わ、私はルーナ・エメラルフですっ。よろしくお願いします」
ルーナはロズベルトに人差し指で押された所をを両手で抑え、慌てた口調で言う。
「あまり、混乱していないんだな」
「え? さっきしてましたけど? あなたのこと、変態とか言ったし」
「覚えてたのかよ。っていや、もっと質問とかしてくると思ってたから」
「え、あ、あぁ。混乱、は、してます。すごく。だけど、それより頭に出てくる事があって、その事で一つ、質問していいですか?」
「聞きたい事があるなら答えてやる」
「ありがとうございます。あの、単刀直入に聞きます。――転生って……本当にあるんですか?私の前世とか……………」
「本気でど直球な質問するやつがあるか」
「います。ここに!」
「あっそう」
ルーナのその言葉を聞きロズベルトは黙る。
そして、少し経った後、「あるぞ」と一言言い終えた。
ルーナは目を見開き「ほんと。に?あれは……夢じゃ…………………?」と口元を抑える。
「君の見た夢が何かは知らんが、転生というものはこの世に存在する。ただし、この世だけだ」
「この世だけって、他にも世界が?」
「ああ。意外に理解が早いな」
「その枕詞、いらなくないですか?」
「いる。さっき変態とか罵ったのはどこの誰だ?」
「……ここにいる私です」
「分かったら聞け。いいか、この世界は【聖火】と呼ばれていて、他にも【王水】【天雷】【土塊】【怪光】と言う世界が存在するんだ」
「あ、聞いたことあります。五人の神様が作ったとか。世界にも名前があるんですね」
「そうだ。それと、転生が存在するのは【火神】が定めた、この【聖火】の世界に、前世で人を憎みながら死んだ人間が、魔女や魔人になって転生してきたからだ」
「ま、まっ?」
「あの屋敷を襲った女――いや、女たちだ」
「………………………」
あいつらが。
ルーナは悲しみがぶり返したのか黙り込み唇を引き結ぶ。
「奴らは人の魂を食って強くなる。まあ強化材料だと思ってくれていい。その魂の持ち主が強ければ強いほど魂も強くなる。だから戦士のレオンたちを優先的に攻撃していただろ?」
「…………はい」
「その魔女を退治するのが戦士の【鬼哭】だ。選抜試験で通った者が【鬼哭】に所属する事が出きる。そこで、だ。僕は君を【鬼哭】のメンバーに推薦する。どうだ?【鬼哭】に入らないか?」
思わぬ事態にルーナは口を開き瞬きさえしない。「ぁ、」と小さな声は聞こえるが石像のように固まる。
「わ、私、その、ロズベルトさんが使ってたなんか技みたいなの使えないし、運動神経も良くないし……私なんか【鬼哭】に入れないし………」
数秒経った後ルーナはやっと口を開ける。
「案外、ネガティブだな」
「あ、当たり前です! 死ぬのいや! 戦争反対、平和賛成派が私ですから!」
「よくもまぁ……。それに、簡単には死なない。君は魔法が使える」
「ま、まほ、う?ロズベルトさんがなんか使ってたやつですか?私に出来るんですかっ!?」
「ああ。試しに魂の中心に全ての魔力を通してみてくれ」
「魔力?」
ルーナは瞬きを何回もする。
「人間も魔女も魔人も魔力を直接、魂の中心に溜め込んで放出するんだ。君にも、微かだが魔力の気配がある。まぁ、なんとなく感じでいいから“水よ来たれ”と言って魂に魔力を込めて放出してみてくれ」
「そ、そんなこと言われても………」
ルーナは内心「なんとなくって………?」とロズベルトの教えの下手さにあきれる。いやこの人、誰かに物事を教えてその人は納得できたのか? 甚だ疑問である。
「まあ、こんな感じだ」
ロズベルトは「雷よ落ちろ」と言うと黒い雲ができ微かに電気が走っている。
「分かったか?」
「いえ、全く」
即答。
「なぜだ!」
「言い方雑すぎ! もっと具体的にっ」
「……魂は脳内にあるから、毛細血管の細部にまで行き届くようにする。詳しくは身体を網羅する神経系の78.5%あればいい。それと、血液に対する割合がだな」
「医学的にって意味じゃないっ」
「む。……だから、つまり、ぐぅぅうって魂の中心にぃ」
「ロズベルトさん、なんか説明の仕方が子供っぽくなっちゃってますよ…………っ?」
「そういうのは歳上の相手に面と向かって言うな。君はほんとに侯爵令嬢か?」
「うっ、何故それを?っていうか私より六歳しか歳上じゃないでしょぉ!」
「侯爵令嬢に魔女の気配があると上に命令されたからな。それに、六歳も、歳上なんだっ」
「ぐ、ぐぬぬ………。上、恐るべしっ」
「いや、上が特殊なのではなくて」
「と、とにかくぅっ!私魔法使えないので、【鬼哭】には入れないと思いますっ、それに命懸けで魔女と戦うなんて、ごめんです。ぜーーーったいに嫌っ!!!! 戦争はんたーい!!」
無論、【鬼哭】に入ったら死ぬ確率が高くなる。
ルーナもそれは承知の上でロズベルトの話を聞いていた。
すると、ロズベルト「ふぅっ」と一息つく。
「君の決断がそれならいい。だが、一つ言い忘れていた事がある」
「?」
「――お前の父は生きているぞ」
ロズベルトの思いもよらない言葉に「っ」とルーナは息を詰まらせた。
うそ、そんなことあるわけない。
「君の父は魂を抜かれただけだ」
「それってもう。し、し…………………」
言いたくない言葉、というよりは信じたくない言葉だった。ルーナの胸が、感情が、締め付けられ苦しい。
魂を抜かれただけ? それは廃人ということだろう。それのなにが生きている?
微かなる憎悪が、怨念が、遺憾が、体中を支配する。この男の戯言が、どれほど父に、ルーナに対する侮蔑になるか。
「ふざけないで……っ」
「ふざけてない。人間は、魂を抜かれただけじゃ死なないんだ。魂を抜かれた人間の状態は、ただの抜け殻。魂を喰われたら死ぬが、食われなかったから魂は生きているのだから死なない。その身が焼けたとしても、魂さえ残っていれば魂が身を呼び戻してくれる」
けれど、ロズベルトの声音は極めて真剣で。
「………………ほんと、ですか」
「ああ。そんなことで嘘ついて、お前を【鬼哭】に入れようとしているとでも?」
「………………」
ルーナは先ほどまで「嫌」と断言していたが、黙り込む。
ああ、だめ。
このひとに、まけちゃうかもしれない。
そう思いつつも。ルーナは脳内会議を始めた。
「お父様が助かるかもしれないのよ?【鬼哭】き入るべきだわあ!」
強気ルーナがばんっと机を叩く。
「でもぉ、かもでしょお?ルーナ、確信がないと嫌だよぉ〜」
ぶりっ子ルーナがくねくねしながら言葉を並べる。
「確信はないけれど、ロズベルトさんを信用してみるのもいいんじゃない?」
素直ルーナが微笑みながら丁寧に言う。
「信用って………キミさあ、まだあってばっかりなんだけど。バカじゃないの。信用できない!」
生意気ルーナが馬鹿にするように素直ルーナに言う。
「まあ、二人とも。わたくしはお父様を助けに行きたいです」
真面目ルーナがずり落ちていく眼鏡を上に戻す。
「で、でも、わたしは……死にたく………ない。ですっ」
弱気ルーナは目をぎゅっと瞑り小さく呟く。
「ですが、お父様には小さい頃から面会はあまりありませんが、誕生日の日、いつも誕生日プレゼントがお父様から届いていましたし、親孝行、そう言う口実でお父様を助けにいくのもいいと思います」
強気ルーナが「ど正論………」と呟く。
「ううっ、でも、でもぉ…………」
弱気ルーナ以外は真面目ルーナのど正論に納得しているが弱気ルーナは心底納得出来ないようだ。
「死に……たく。ない、よお」
「そんなに怖がってたら何もできないわよ!?お父様たちを助けないと思わないの!?」
「死にたくないのはぁ、ルーナも同じだけどお、お父様たちにもお〜、死んでほしくないんでしょぉ?」
「そうだよ。みんなで勇気を出してお父様たちを助けに行きましょうよ。ね?弱気ルーナ」
「はっ、勇気って素直ルーナには、そんな勇気があるんですかっ」
生意気ルーナはいつも素直ルーナに突っかかる。
けれど、素直ルーナは「ええ、多分ね」と笑って返すので生意気ルーナは「むうっ」と声を尖らせる。
「弱気ルーナさん、死にたくない気持ちはわかります。けれど死ぬと言う確証もありません。みんなで頑張ってお父様たちを助けませんか?」
みんなのそんな言葉にどうしても一人だけ「いやだ」なんて言えなくなる。
弱気ルーナは「う……………ん」と納得した。
「じゃあ決まりぃ!お父様たちを助けましょう!!」
「入ります……」
ルーナが出した言葉はとても小さくどんなに近くにいても聞こえないくらい弱い声だった。
「え?」
「【鬼哭】に、入ります」
今度は大きく。誰でも聞こえるような声、決意を固めたような声でロズベルトに言う。
「そうときたら修行だな」
「修行?」
「【鬼哭】にはただでは入れない。入るには二日間で四つのゲームをし、生き残ったやつだけが【鬼哭】に入れる」
「は……い?今生き残ったって言いましたっ?【鬼哭】に入る前から死ぬ確率はあるってことですかぁ!?」
「そうだが?」
「ストップ、ストップ!!脳内会議開始ぃ!」
やっと脳内会議が終わったと思ったらまた次の脳内会議が始まる。
「何回やるのよこの脳内会議………」
「まだ二回しかやってないんだけどっ?」
「むぅぅぅ。どうするのよぉ!」
「だってだってぇ〜、【鬼哭】に入る前から死ぬ確率があるなんて知らなかったんだよ〜?ルーナだって怖くないわけじゃないんだよぉ〜?」
ぶりっ子ルーナはきゃっきゃ言いながらいつものような口調で話す。
「ですが、、、。そんなことを言っていたらお父様もシャナもレオン様もカペラさんも助けられませんよ?」
「そういう真面目ルーナは怖くない訳?」
「そ、それは………ですね」
「ほらね。魔人たちと戦うなんてふつーに怖いんでしょ?」
「…………」
「もうっ、どーするのよ!」
「強気ルーナうるさい。とにかくロズベルトさんにどういうゲーム内容なのか聞けば良くない?」
生意気ルーナの名案に素直ルーナは、ぱちんと手を合わせ「そうね。聞いて考えればいいわね」と言った。
「ゲームの内容ってなんなんですか?ほら、四つのゲームをするってやつ」
「分からん」
「へ?」
「だから分からん。毎回ゲーム内容が変わるからな。まあ僕の時はグループに分けられるんだが、一回目のゲームがグループとグループ同士で戦うゲームでこのゲームは負けても死にはしない。二回目のゲームはえっと…………………………………………………忘れた」
「は、はあ!?わ、忘れた………?嘘でしょ?忘れるほど身に染みなかったってことですよね……」
「まあ、簡単ではなかったけど難しくもなかったな」
「ほんとっ?信用できないんですけどっ」
「ああ。嘘偽り無い」
ロズベルトの嘘偽り無い言葉を聞きルーナは驚きつつ少し安心感を覚える。
「まあ、君の好きにするといい。【鬼哭】に入りたくなければ無理に入る必要もない。故に僕たち戦士だって君の父親を助けるよう努力する。だから無理に【鬼哭】に入らなくてもいいんだ。君が決めるんだ。ルーナ」
ルーナは黙り込む。
どうしよう。心の中で葛藤する。
勿論、ルーナはウィリアムたちを助けたい。
けれど、普通に考えたら不可能だろう。死ぬかもしれないし。だったらここは素直に拒否し、また数年後に……。と考えた。
だが、ルーナは何かが心に突っかかり「無理です」と言えない。
本当に、それでいいのか?
いつかなんて不確定な未来を描いて。
目の前の現実から逃げて。
「………私、お父様たちを助けたいです」
「ああ」
「ですが、怖いです」
怖い。死ぬのは、怖い。
「まあ、それが君の決断ならいいだろう。だが、君の屋敷はあまりにも酷いからここに住むといい。住めるぐらいのものはあったし、一応、必要以上のお金は用意した」
「え、いえいえ! そういうことではなくてっ」
「ん? 入らないんだろ?」
死ぬのは怖いでも。
逃げるのは、もっと怖い。
「違います! 入ります! もう何にでもなれっですよっ! 高尚なヒロイン様になる気はありませんけどっ」
ルーナがそういうとロズベルトはそれはよかった、と言い、「もう少しゆっくりしていきたいんだが任務があるからこれで失礼する。明日、ここに来てくれ」と言ってルーナに一枚の紙を渡すとドアの外へ出て行った。
ここまで読んでくださってありがとうございます(*^^*)
夢中になって書いていたら6000文字程度にするつもりが9000文字になってしまいました.....(なんかすみません)
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次回もお楽しみにっ!!