魔王が復活した。みんなトイレットペーパーを買え
魔王が復活した。
そのニュースを目にした時、俺は思わず冷や汗をかいていた。
この世界に住んでいる者なら勇者と魔王の話を知らないものはいない。
かつてその強大な力と魔力で人々を恐怖に陥れた魔王。その魔王は勇者によって封印された。それ以来魔王が度々復活を繰り返し、その都度勇者が封印するという事が続いていた。
「なんてこった。大変だ」
そして、また魔王が復活したというのだ。
再びまたあの恐怖の時間がやってくる。
俺は震えた。頭を抱えるしかなかった。
「い、一体魔王が復活してどれくらい経ってるんだ」
普段ニュースを一切見ない事が完全に仇となっていた。世の中の情報に疎い自分を呪うしかない。
恐る恐るニュースの日付を見る。
三日前のニュースだ。
俺は目の前が真っ暗になった。
もう、そんなに経っているのか。だ、駄目だ。もう手遅れかもしれない。
早く、早く家を出ないと。
俺は急いで家を出ると、近所のドラックストアに直行する。
そして棚を前に崩れ落ちる。
俺はすがる思いで店員に話かける。
「て、店員さん。トイレットペーパーは?」
「すみません、トイレットペーパーは売り切れてしまって」
目の前にはどこまでもカラの棚が広がっていた。本来、ここには沢山のトイレットペーパーは山積みにされていたはずだ。
それが今は一つもなくなっている。
遅かったのだ。
俺はトボトボと手ぶらのままで家に帰るとパソコンのニュースサイトのコメント欄にアクセスする。
〈また、魔王が復活したんだって〉
〈マジかよ怖いな〉
〈どこ?〉
〈どうせ群馬でしょ〉
〈マジレスすると魔王はワープするからどことかないぞ〉
〈あー、またトイレットペーパーが品薄になるな〉
〈近所の店、もう棚から消えてたわ〉
〈みんなアホすぎ〉
〈魔王が復活した。みんなトイレットペーパーを買え〉
〈魔王が復活した。みんなトイレットペーパーを買え〉
〈魔王が復活した。みんなトイレットペーパーを買え〉
〈魔王が復活した。みんなトイレットペーパーを買え〉
画面に表示されるその一文に俺は画面を殴りつけた。
お前達も普段言ってたじゃないか。
魔王が復活する事とトイレットペーパーには何も関係がないって。だから買い占めなんてするやつは馬鹿だって。
「なんでなんだよ……、なんでねぇんだよ」
俺は一人トイレで泣いた。
魔王が現れると、トイレットペーパーが品薄になる。
魔王はトイレットペーパー工場を優先して狙う。
トイレットペーパーが魔王除けになる。
果ては、魔王はトイレットペーパーを食うというものまで。
近年、魔王が復活するとあらゆる理由をつけてトイレットペーパーがなくなるというデマが拡散し、深刻な品不足を起こすようになっていた。
家に残るトイレットペーパーのロールは残り三つ。
再びあの恐怖の時間がやって来た。