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異世界はAIとともに~普通に過ごしたいだけなのに  作者: とんぷぅ
第一章 近未来の普通の大学生は事件に巻き込まれる
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第1話 令和からの元号変更から10年、社会制度は変わった

時代が令和から新たな元号へと移り変わって、もう十年が経った。


俺の両親はというと、令和元年の初日に婚姻届を提出するという、ちょっとした記念日マニアっぽい夫婦で――まあ、今でも相変わらず仲良しだ。

最近じゃ、父さんの勤続20年記念でもらったボーナスと長めの休暇を使って、二人で海外旅行に出かけてしまった。まったく、仲が良すぎてこっちが照れる。


そんな両親のもとに生まれた俺の名前は――レイ。現在19歳。


以前、ちょっと気になって「俺の名前って、やっぱ令和に生まれたからレイ?」って聞いたことがあるんだけど、父さんが少し目を泳がせながら言ったんだ。

「いや、それはその……昔ちょっと流行ったアニメから取ったんだ。いい名前だろ?」って。


でもさ、俺は知ってる。

うちの両親、アニメなんてまったく見ないタイプだってことを。


まあ、それでもこの名前、けっこう気に入ってるんだ。

同じクラス(1クラス20人)に「レイ」が俺含めて3人もいるのはちょっと笑えるけど、響きはいいし、覚えてもらいやすいし――うん、悪くない。


***


あれから、元号が二つ変わった。

かつて「令和」と呼ばれていた時代は、今では歴史の一ページだ。だけど、あの時代の変化が、今の世界のベースになっているのは間違いない。


とにかく、令和の後半はAIの進化がとんでもなかった。

「AIが仕事を奪う」なんて言われてたけど、実際は“仕事そのものを作り替えた”って表現のほうが正しい。

掃除、配達、レジ打ち、コールセンター、書類作成――そういった単純作業はすべて、感情のないアルゴリズムたちが静かに、確実に、人間から奪っていった。


結果、企業は大幅なコスト削減に成功。

でもその裏で、「余った人間」をどうするかって問題が浮上したんだ。

そこで政府が導入したのが――ベーシックインカム制度。略して「BI」ってやつ。


簡単に言うと、政府が毎月、成人した国民全員に10万円を無条件で支給する仕組みだ。

働いていようが、ニートだろうが、学生だろうが関係ない。日本国民であり、成人していれば、誰でも10万円が振り込まれる。まるで国がくれる“最低限の生存ライセンス”って感じだ。


もちろん、制度導入当初は大荒れだった。

「働かない人間が増える!」「怠け者を支えるために俺たちが税金払うのか?」

「財源はどうする!?」なんて、テレビもSNSも大炎上。


でも、実際に運用が始まると、世の中は思ったよりスムーズに“次のフェーズ”へ進化していったんだ。


今では、人々の生活は大きく二つに分かれてる。


一つは、安価で効率的な汎用AIに頼る生活。

もう一つは、高品質なAIや、AIでは代替できない“人間のサービス”を選び取る贅沢な生活。


前者は「生きるために必要な最低限」、後者は「生きることを楽しむための選択肢」ってわけだ。


富裕層は、雑務から完全に解放されて、自分にしかできない仕事、やりたいことだけに集中することで、さらに資産と満足度を高めている。

そして、俺たち一般層はというと――AIがまだ入り込めない隙間の仕事を「スキル」として売るようになった。

掃除ロボが届かない狭い場所の清掃、手作業のクラフト、共感力が必要なケアワーク……そんな仕事が、全国に設置された「スキルネットワーク」でマッチングされていて、自分の得意を活かして収入を得ることができる。


月10万のBIと、スキルによる収入。

これをうまく組み合わせれば、ちょっとした贅沢もできるし、なにより“働くこと”の意味が変わってきた。

金のためじゃなく、「自分の存在を感じるため」に働くって感じかな。


とはいえ、全員が順応できたわけじゃない。

時代に取り残された人もいる。かつて高額な給料をもらってたのに、AIに職を奪われ、再起できなかった人たちも。


だけど、これはもう“選ばれた未来”なんだ。

俺たちは、この変わりきった世界で、生き方そのものをデザインする時代に生きてる。



AIの波――それは単なる技術革新じゃなかった。

それは、文明の形そのものを作り替える“津波”だった。


最初に飲み込まれたのは、製造業。

次に、接客、医療、物流、教育――そして、最後に静かに沈んだのが「行政」だった。


かつて、国という組織の中枢を担っていた“役所”や“議員”たち。

「全国一律の制度を公平に運用する」なんて建前を掲げながら、実態は非効率と縦割りと前例主義の温床。

だけど、その存在理由も、AIの登場で次第に意味を失っていった。


手続きはすべてオンライン化。法律の解釈や制度の運用も、AIのほうがよほど公正で正確。

「役所に行く」という概念そのものが時代遅れとなり、ついには“公務員”という職種そのものが、歴史の教科書に載る過去のものとなった。


議員? ああ、いたね。選挙ポスターに笑顔を貼って、票集めのために頭を下げてた人たち。

でも今じゃ、法案作成も政策提案も、AIがビッグデータを解析して最適解を導き出す時代。感情やしがらみに左右される人間の出番は、もうない。


そして、彼らと並ぶ“時代遅れ”だったのが――年金制度だ。


「100年安心」なんてキャッチコピーを掲げていたけど、実際はもう、令和の中盤には制度としては風前の灯火だった。


高齢者が増えすぎて、現役世代の負担は青天井。

学生にまで年金保険料を徴収しながら、支給開始年齢はどんどん引き上げられ、支給額はじわじわと減少。

「老後は自分で2000万円用意してね」って金融庁が言い出したときは、もう笑うしかなかった。


でも、誰も本気で制度を立て直す気はなかった。

現役世代と高齢者の間で不満と不信がくすぶるだけで、根本的な改革は先送りされ続けた。


そうして迎えたAI社会の本格始動。

ついに政府は決断を下した。

「年金制度の廃止」――そして、その代わりに導入されたのが“ベーシックインカム制度”だった。


すべての成人国民に、無条件で月10万円。

それが、生きるためのベースとして支給される。年金のように「払っていないと受け取れない」とか、「いくら払ったのにこんだけ?」なんて不満は存在しない。

一律・平等・シンプル――それが、BIベーシックインカムの設計思想だった。


もちろん、消えた年金記録の問題も、支払った分を返してほしいという声もあった。

でも政府はこう言い切った。


「制度は終了した。再現性のない記録は、復旧対象外とする」


言い換えれば、「過去の損失は過去のままに。未来は新しい仕組みで設計する」ってことだ。


結果的に、年金制度に翻弄されてきた世代間のいがみ合いも、少しずつ静まっていった。

みんな、ようやく気づいたんだ。


――過去を悔やんでも、未来は変わらない。

だったら、新しいルールで、前を向いて生きた方がマシだって。


そして今。

この国に“公務員”はいない。“年金”もない。

あるのは、AIによって管理された効率的な仕組みと、自分のスキルを武器にして生きる個人たちだけ。


だけど――

だからこそ、ここからが本当の「自由な時代」なのかもしれない。



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