8.変化と恋バナ?
俺は一日気合いを入れて仕事に勤めた。
このペースなら今日は残業しないで帰れるな。そう思っていたのだが。
「おーい、内田ちゃん。今日新入社員の歓迎会やるってよ」
そう話しかけてきたのは、同期の同僚である池田。今時のチャラ男風のイケメンだ。
歓迎会ねえ。結局ウチの課には一人も入ってこなかったので、関係ないと思うんだが。
「俺らには関係なくね?」
「それがよぉ、部長の方針で、他の課との親睦も兼ねて全員参加だってよ」
なんとまた面倒くさい。今日は早く帰りたいのだが、それであとからネチネチ言われるのも癪だ。
「分かった。少しだけなら出るよ」
「あいよ」
そう返事して池田は去っていった。
「はぁ・・・」
ため息をついて瑛理にメッセージアプリで連絡をする。
すると数秒で「了解!」と返信が来た。
さすがJK。返信が早いな。
気合いを入れ直し、残りの業務を片付けにかかる。
仕事後、歓迎会は現地集合ということで、池田と共に店へと向かう。
入口で予約名を伝えると、大部屋に通される。
まだ誰も来てないようで、俺はそそくさと隅っこに陣取る。
絡まれにくく、すぐにフェードアウトするためだ。
隣に腰掛けた池田とたわいもない話をしていると、続々と人が入ってくる。
全員揃ったところで、部長の演説が始まり、歓迎会はスタートした。
俺は普段酒を呑まず、強くもないので、チビチビと飲みながら食事をつまむ。
そうしていると、隣にいる池田が突如爆弾を放り込んできた。
「そういえば内田ちゃんさあ。最近女でもできた?」
唐突な話題に咽せそうになってしまう。
「な、なんだよ急に」
「いや、だってよー。最近の内田ちゃん、やる気がみなぎってるもん。顔に生気があるし、仕事もパパっと終わらせちゃうし、怪しいよな~」
と、ニヤニヤしている。
顔に生気があるって・・・。今まで俺はどんな顔だったんだよ。
「そうですよね~!お昼はコンビニか食堂だった先輩がお弁当なんて持ってきてますし!あと最近たまにニヤニヤしててちょっと気持ち悪いですよ~」
と言いながら会話に参戦してきたのは、向かいの席に座っていた後輩女子社員の保坂だ。
所謂ゆるふわ系の保坂は、恋バナと察知するや、目を光らせて会話に入ってくる。
「べ、別にそういうんじゃねえよ。ただ親戚が家にいるってだけだ」
思わずそうポロっとこぼしてしまうが、それを見逃す二人ではなかった。
「お?それって女の子だろ?女の子だよなぁ?」
「その子っていくつですか!?かわいいですか!?」
二人共うざい。もう酔っ払ってんじゃないだろうな。
まぁ、変わったというのは自分でも感じることだ。
規則正しい生活にちゃんとした食事。
仕事の効率が上がったのは、毎日朝食を摂っているからか、それとも見送ってくれるあの笑顔のおかげか。
全てを正直に話すと、それはそれで二人が面倒くさいだろうし、どうするかなぁ、と考えていると、視線を感じた。
ふと顔を上げると、1人の女性と目があった。
が、俺は気付かなかった振りをしてそのまま視線を逸らした。
そりゃ、二人がこんだけ騒いでたら聞こえちまうよなぁ。
「はぁ・・・」
俺は深くため息をつくのだった。
二人の質問をかわしつつ、頃合をみて退散する。
あのままいたら何時になるか分かったもんじゃない。
さっさと帰ってウマい飯を食うとしよう。
と思っていると、背後から声がかけられる。
「内田君」
振り返るとそこにいたのは、先ほど目があった一人の女性社員。
榎本香織という名の、違う課の社員だ。
「何か用か?」
「さっきの話、本当・・・?彼女ができたって・・・」
ほら見たことか。さっそく面倒くさい事態になっている。
「誤解だ。彼女じゃねえよ。あいつらにも言ったが、親戚がウチに来てるだけだ」
「でも、最近私のこと避けてるよね・・・?」
うぐっ。言葉に詰まってしまう。
彼女とは、男女の関係というわけではない。
ただ、誘われて数回食事に行ったというだけだ。
何があったというわけでもないが、迂闊にも池田にそのことを漏らしてしまい、彼女が俺に気があるなどとからかわれ、勝手に気まずくなってしまった。ただそれだけのことだ。
「・・・別にそんなんじゃねえよ」
「本当に?じゃあ、またご飯誘ってもいい?」
別に彼女のことがキライだとかそんなんじゃない。
ただ、人間関係自体が面倒くさいのだ。
誰と誰がくっついただの、フッたフラレただの・・・。
仕事には関係ないのに、餌に群がる鯉のように、噂話に人は群がる。
「ああ、勝手にしろよ。じゃ、俺用事あるから」
そう言って話を切り上げて背を向ける。
家では瑛理が夕飯を作って待っているのであろう。
今日は途中のコンビニでケーキでも買っていこう。
世話を焼いてくれる同居人に「入学おめでとう」という言葉を送るべく、帰宅の途についた。
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