16.誰にとってのご褒美?
金曜日。それは世のサラリーマンたちが待ち望んでいる日。
やっと5日間の労働が終わり、待ち遠しかった土日がやってくる。
俺もその例に漏れず、定時で退勤し、気持ち軽い足取りで帰宅の途についた。
家につくと、いつもどおり「おかえりなさい!」と笑顔で迎えられる。
それだけで、今日も頑張って良かった・・・と思えてしまう。
それにしても、今日の瑛理はいつもよりテンションが高いように見える。
明日から休みで俺の気分がいいからそう見えるだけか・・・?
いつもどおり美味しい瑛理の手料理に舌鼓を打ち、風呂に入って疲れを癒す。
まさか俺がこんな生活を送るようになるとはな・・・。
2か月前までの俺には考えられなかったことだ。
風呂から上がり、瑛理の髪を乾かし終わると、瑛理が突然立ち上がり、
「あ、ちょっと待ってて!」
と彼女の部屋に言ってしまう。
どうしたんだ?と思いながら待つと、1分と経つことなく戻ってきて、数枚の紙を俺に差し出した。
なんだと思い見ると、それはテストの解答用紙だった。
回答のほとんどに赤ペンで丸がつけられており、点数は90を下回るものが1枚も無かった。
「GW明けにね、テストがあって、今日結果が帰ってきたの!」
「おお、そういえばテスト勉強するとか言って友達呼んでたっけか」
実を言うとあの日は全く勉強はしなかったのだが、家にいなかった康介には知るすべもない。
「それにしてもすげえな。全部90点以上かよ。俺100点の答案用紙なんて初めて見たぞ・・・」
「えへへ!それでね、私、クラスで一番だったって言われたの!」
なるほど、それで今日は帰ってからテンションが高かったワケか。
俺の学生時代なんて、平均を下回ることこそなかったものの、まともにテスト勉強に取り組んだことなんて記憶にない。
瑛理は毎日家事をしてくれていて、勉強する時間は限られているはずだ。
それでも努力して結果を残している。
そういうのは、素直に心から尊敬できる。
「よく頑張ったな」
テスト用紙をテーブルに置き、頭を撫でる。
「うん・・・っ、うんっ!すごく嬉しい・・・っ」
瑛理は涙ぐみながらも、今までで一番の笑顔を見せる。
康介は、瑛理がここに来てからの努力について言ったつもりだが、瑛理にとっては
全く違う意味を持つ。
7年前、康介と離れてから今までずっと努力をし続けてきた。
全ては、康介に再び会って褒めてもらうため。
その長年の努力が報われた瞬間だった。
「そ、それでね・・・、ご褒美が欲しいなって・・・」
「これだけ頑張ったんだしな。なにか欲しいものでもあるのか?」
「欲しいものっていうか、してほしいことっていうか・・・」
「ん?俺にできることならなんでもいいぞ」
「ほ、ほんとに・・・?」
「ああ。断る理由なんてねえよ」
そう言って笑ってやる。
「じゃあ・・・膝枕」
照れながらも、瑛理はボソッとつぶやいた。
ちょっと待って欲しい。
膝枕が何かはもちろん知っている。
しかし、これは瑛理へのご褒美のはずだ。
なのに・・・なんで俺が膝枕されてるんだ!?
「あの・・・瑛理さん?」
「なんですか?康介さん」
瑛理は俺の髪を優しく撫でながら答える。
「なんで俺が膝枕されてるのかなーって・・・」
「ご褒美だからです!」
ええ・・・。
その理由を聞いてるんですが・・・。
「こういうのって、普通されるのがご褒美なんじゃ」
「私がしたいからいいんです!」
「あ、はい」
まあオッサンに膝枕されても嬉しくなんてないとは思うが。
パジャマの布越しに伝わってくる柔らかさと、同じボディーソープを使ってるはずなのに漂ういい匂いでなんとも落ち着かない。
でも、頭を撫でられるってこんな感じなんだなぁ、と瑛理が満足するまでされるがままになっていた。
膝枕・腕枕・胸枕。あなたが落としたのはどの枕ですか?




