15.恐怖の夜
家に入った数分後、また雨が激しく降り始めた。
さっきのはただの雲の切れ間だったようだ。
しかし、おかげでとてもいいものが見れたな。
ご飯を食べてお風呂に入り、瑛理の髪を乾かしている時、それは起こった。
始まりは微かな音。幸か不幸か、それはドライヤーの音によってかき消された。
しかしそれは回数を重ねるごとに次第に大きくなっていく。
そしてドライヤーの音を上回り、瑛理の耳がその音を捉えた瞬間、ビクンッ!と体を震わせた。
あー・・・そういえばそうだったな。
昔を思い出していたその時、轟音と共に視界が真っ暗になった。
そう、雷が落ちたのだ。
瑛理は昔から雷が大の苦手だった。
思い出すのが遅れたのが失敗だった。
停電になると同時に、鳩尾に衝撃を受けた。
瑛理が振り返って、俺に突撃したのだ。
声にならない悲鳴をあげるが、誰も見ていないし聞いていない。
こんな時でも、かすかに湿った瑛理の髪からいい匂いがすると思ってしまうのは仕方のないことだろう。
しかしおかげで痛みも多少和らいだ。
なによりも、俺にしがみついて震えている瑛理を放置するなんてありえない。
俺は腕で瑛理の耳が塞がるように抱きしめながら頭を撫でる。
「大丈夫。大丈夫だよ」
と囁きながら、ゆっくりと髪を撫でていく。
何分たっただろうか、
急にパッと電気がつき、部屋が明るくなる。
俺は目を瞑っていたので、「目がああああ」となることはなかった。
停電が短くて良かった。
暗いだけで、いまだ外でなっている雷の恐怖を増長させるし、冷蔵庫の中身もダメになりやすいしな。
腕の中の瑛理を撫で続けることさらに数分。
恐る恐る顔をあげた瑛理は涙で濡れた瞳でこちらを見つめてくる。
雷の音もだいぶ遠のいたし大丈夫だろうと腕を緩めたのだが、瑛理は再び俺の胸に顔を埋めてしまう。
「ふもふっふもふも」
「え、ごめん、なんて言ってるか分かんない」
顔を埋めたまま喋られても、テレパシーとかないからね・・・。
わずかに顔をあげた瑛理はやっと聞き取れるくらいの小さな声で
「・・・今日、一緒に寝て」
とつぶやいた。
いつもと同じ布団の中。
いつもと違う感触。
俺の腕の中には瑛理がいた。
雷はすでにやみ、聞こえるのはシトシトと雨の降る音と目の前の少女の寝息のみ。
最初は背中を向けて寝ていたのだが、無言で服の裾をグイグイ引っ張られ、寝返りをうつと瑛理も俺と反対側を向いて俺の腕をとって、瑛理を後ろから抱きしめる形になった。
寝るときはこれが一番落ち着くと昔は言っていたが、今は俺の気持ちも理解して欲しい。
後ろから抱いているので、少し腕を動かすだけで当たってはいけない場所に当たりそうになるのだ。
それでもこの体勢をやめようとしないのは、俺は今もこの子に甘いんだなぁと思う。
昔は夜中にトイレに立っただけで、瑛理が目を覚ましてしまい、泣いて大変だったなぁ・・・と思い出しつつ、瑛理の髪の匂いに包まれて眠りにつくのであった。
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「ぼっち」の俺がトップカーストの美少女に告られたから、台無しにしてやったのに、まとわりつかれている件。
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