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10.デートと迷子

特に道が渋滞しているということもなく、2時間もかからないうちに目的の水族館へ到着した。


時刻は11時。開館時間ぴったりだというのに、駐車場にはたくさんの車があり、入口は人で溢れていた。


列に並んで入場受付を済ませ館内に入るも、そこも見渡す限り人でいっぱいだった。

おいおい、こりゃあ水じゃなくて人の海で溺れそうだな。

と考えていると、横から手を握られた。


「逸れないように、ちゃんと繋いどかないとね」

絵理は頬を薄く染めながらそう言った。


・・・そんな顔されたら拒否できねえだろうが。

まあ、はぐれたら困るのは事実なので、そっと手を握り返した。


順路に沿って少し進むと、人ごみもまばらになり、進みやすくなった。

当たり前だが、水槽の中にはたくさんの魚がいた。

量だけでなく種類も豊富で、こんな名前の魚がいたのか、と驚くとこもあった。


予想外にかわいいクラゲに二人でほっこりしたり、海の中を歩いているような気分になるトンネルの通路では、瑛理がとてもはしゃいでいた。


1時を回ったところでカフェで昼食休憩をとった。

さすが有名水族館というだけあって、料理にも工夫がしてあり、瑛理がかわいいを連呼して写真を撮りまくっていた。



食後はちょうどショーの時間だったので、二人でコーナーのベンチに腰掛けてイルカやアシカの様々な芸を堪能した。



その後も館内を見て回り、途中にあったトイレに寄ったところで事件は起きた。



先にトイレを済ませ、瑛理を待つ。

女性のトイレが長いのはわかるが、すごい列だな・・・。


もう少しかかるだろうし、近くにあった自販機で飲み物でも買ってくるかと踏み出したところ、何かが足にタックルしてきた。

なんだ?と思って舌を見ると、小さな女の子が泣いていた。

5歳くらいだろうか。しゃがみこんで「どうした?」と努めて優しく問いかけるも、女の子は「マ”マ”~」と泣き叫んでしまう。

迷子か。


「ママがどっかいっちゃったのか?」

と尋ねると、泣きながらも小さく頷く。

「よしよし、じゃあ一緒にママと探そうな」

そう言って頭を撫でると、今度は大きく頷いた。


探すにしても、この人の多さだ。

小さな女の子の目線では探しづらいだろうし、逆にお母さんも見つけづらいだろう。

そう思った俺は、女の子を抱っこして、片腕で抱き抱えた。


女の子は突然のことにビクッとしたが、

「このほうが探しやすいだろ?」

と言ってやると、頷いて服をギュッと掴んでくる。


まあこの辺りではぐれたってことはおそらくトイレだろうが・・・。

一旦戻るか、と思ってトイレに向かうと、ちょうど出てきた瑛理がこちらへやってくる。


「お待たせ・・・ってその子どうしたの?ま、まさかかわいいからって・・・」

「変な言い方すんな。母親とはぐれたみたいでな。たぶんトイレだとは思うんだが」

「そっかぁ。こんにちは!お名前なんていうのかな?」

納得した瑛理は女の子に元気よく尋ねる。

「・・・まな」

「まなちゃんって言うんだ!いくつかな?」

「・・・5さい」

「そっか!お母さんを探してるんだ!えらいね!」

そう言って頭を撫でると女の子は安心したようにぎこちなくも笑う。


そうやって話していると、まなちゃんが突然「ママ!」と叫んだ。

まなちゃんの視線の先を見ると、1人の女性がトイレから出てきたところで、まなちゃんを床に下ろしてやると、一目散に駆け寄っていく。

女性もまなちゃんに気づいて抱き抱え、こちらのほうへやってくる。


「すみません、うちの子がお世話になったようで」

そう頭を下げる。

「いえいえ、見つかって良かったです」

「ほら、まなもお礼を言いなさい」

「おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!」

お母さんは頭を下げながら、まなちゃんは手を振りながら、去っていった。


「見つかってよかったね」

「だな。お前って子供好きなんだな」

「うん。寂しい気持ちはよく分かるしね」

一瞬寂しげな表情を浮かべたが、すぐにそれを隠すかのように

「さ、デートの続きしよ」

と微笑むのであった。


俺はなにか言おうとしたが、何を言っていいのか分からず

「そうだな」

とだけ返した。

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