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1.再会は突然に

朝起きて会社に行って仕事して、終わったら帰って寝てまた起きて仕事。


独り身のサラリーマンのありふれた日常だろう。


遊ぶような友達もおらず、好きでもない仕事を惰性で続ける日々。



「はぁ・・・」

ため息もつきたくなる。なんてつまらない人生なのだろう。



prrrr。


・・・電話?かけてくるような知り合いなんていないはずだが・・・。

そう思ってディスプレイを見て顔を顰めた。


そこに表示されていた名は内田瑛介。


10コも歳の離れた兄だ。大手企業に勤めて結婚して子供もいる、俺とは正反対の勝ち組代表だ。



「・・・もしもし」

「よう康介、久しぶりだな!元気してるか?」

「ああ、元気だけど何か用か?」

挨拶もそこそこに用件を聞く。俺はコミュニケーション能力が高いこの兄が苦手だった。


「ああ、お前って一人暮らしだよな?彼女とかいるのか?」

「いないけど」

彼女とかってなんだよ。彼女も彼氏もいねえよ!


「はは、相変わらずだな。好きな人は?いるのか?」

イラッとする。なんでお前にそんなこと言わなきゃならんのだ。

「仕事でそれどころじゃないよ。用がないならもう切るけど」

「冷たいなぁ。元気にしてるか気にしてやってんのに―――」

ブツッ。最後まで聞かずに切ってやった。気にしてやってんのに?何様だよ。そんなこと頼んだ覚えねえよ。



「はぁ・・・」

何度目かわからないため息をつく。




サラリーマンにとっての休日というのは貴重だ。

時間を気にせず惰眠を貪り、ひたすらぐうたらできる。特に3月は決算に向けて忙しく、仕事の疲労が半端ない。

だから、その貴重な時間を妨げられるとイライラする。



ピンポーン。


先程から数回に渡って室内に響き渡るインターホンの音。

時計を見れば午前10時。こんな早い時間に誰だ?

宅配業者かと思ったが、ネットで買い物をした記憶も無いし、ここまでしつこくないだろう。

宗教の勧誘か?電波受信料の徴収か?


どちらにしろ、まるで中にいることを知っているかのようにここまでしつこく鳴らされては二度寝もできない。

文句の一つでも言ってやると思い、玄関に向かう。



ガチャ―――。



玄関の扉を開けるとそこには、一人の少女がいた。




幼さを残した顔立ち。中学生くらいだろうか?まぁ隣の部屋と間違えたのだろう。そう判断して扉を閉めようとすると、少女が口を開いた。


「なんだ、やっぱりいるんじゃん」


てっきり、あ、間違えました!と言われると思ったのに、まるで自分を訪ねてきたかのような予想外の言葉。


なんだ?美人局みたいなアレか?どこかで写真なり動画なり撮っていて脅されるのだろうか。とりあえず警察でも呼んだほうがいいか?

無言でそんなことを考えていると、少女が再び口を開く。


「康介さん久しぶり!」

はにかみながら挨拶をする少女。


え、なんで俺の名前知ってんの?この声どこかで聞いたことあるような気がするけど・・・。

「あれ?私のこと忘れちゃったの?っていうかお父さんから聞いてない?」


混乱しつつも一つの可能性に思い当たる。俺の名前を知っていること、幼さの残る面影、そしてこの声・・・。


「え・・り・・・?」


「あ、思い出した!?7年ぶりだね、康介さん!」

花が咲いたように笑う少女。



目の前のこの少女は兄・瑛介の一人娘・瑛理だ。俺が今25歳で兄が35歳ってことは、この子は15歳か。兄、俺、この子がちょうど10歳差ずつだったからわかりやすくて覚えている。


「あ、ああ。久しぶりだな。それでどうしたんだ?何か用か?」

「やっぱりお父さん話してなかったんだ。ねえ、とりあえず中に入れてくれる?」

「え、ああ、そうだな。何もないけど、入ってくれ」


知り合いと分かった以上、玄関で立ち話もなんだし・・・と招き入れようとして気づく。

今まで彼女の陰に隠れて見えなかったが、そこにあったのは大きなスーツケース。


嫌な予感しかしない。

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