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友人Aの彼女の話

友人Aのファミレスのアルバイトの彼女の話

作者: 華鳳


Aと飲みに行くのは、久しぶりだった。

最後に飲んでから4ヶ月が経っていた。


その日は冷たい雨が降る、暗い夜だった。


「俺、熱燗」


と言いながらAはダウンをハンガーに掛けた。

Aの黒のダウンには、キラキラ輝く雨粒が付いていた。


店の座敷に上がる時に、自分のスーツの裾が少し濡れていた。そう言えば、Aはいつもラフな格好だか、何の仕事をしていたのだったか。今考えると自分があまりAの事を知らない事に気がついた。


居酒屋の店員がおしぼりを渡してくれた。

僕はそのおしぼりで顔を拭きながら、


「最近はどうしてたんだ? 」


と雑に聞いた。


「あ?どうもしてねえよ」


Aは僕と同じように顔を拭きながら雑に答えた。


「そう言えば、お前仕事は――」


「お待たせしました!熱燗です」


爽快で活発そうな若い女性店員がニコニコと熱燗を置いて行った。


「今の、彼女に似てるな」


「ああ、バーテンのだったか」


「イヤ、今はファミレスでバイトしている


「うへー、お前は次から次へと……」


僕は尊敬と妬みの気持ちが合わさり、そして呆れる他なかった。


「そう言えば、この前その彼女がおまえの好きそうな話をしてたぜ」


「俺の好きそうな話?」


Aは特に僕の言葉を聞かず話始めた。




Aの彼女が働くファミレスは、深夜まで営業している店で、彼女が夜シフトの時だったそうだ。その日は今日の様な冷たい雨が降る暗い夜で、お客はほとんどいなかった。

3日程前に入った、新しいアルバイトの女の子が、Aの彼女に話しかけてきた。


「5番のテーブルのお客さん、何か変ですよね」


Aの彼女はホールを覗き込んだ。しかし5番テーブルには誰も座っていない様に見えた。


「どんな感じなのかな?」


Aの彼女は何も見えていない事には触れず、聞き返した。


「なんか、黒い女性……の様な姿をした人が壁にもたれて動かないんです。それに、何故かあの辺りだけ暗くてよく見えなくて、何と言うか、黒のクレヨン……で殴り書きされたようなそんな人が……」


Aの彼女にはそんなものは全く見えておらず、確かに少し暗い様な気はしたが、ライトの関係だろうと思っていた。


そもそも、5番テーブルにお客さんを通していない。


「あ、あ、あ、い、いや!」


新しいアルバイトの女の子は、Aの彼女にしがみつきながら怯え出した。


「す、すいません、帰ります」


新しいアルバイトの女の子は、Aの彼女の体を突き飛ばす勢いで離れ、更衣室に走って行った。


Aの彼女は少し驚いたが、奥で事務作業をしていた店長にすぐ戻りますと告げ、新しいアルバイトの女の子を追いかけた。


更衣室を開けると、新しいアルバイトの女の子がバタバタと手足を動かしながら着替えていた。

髪はボサボサ、靴も服も散乱し、上着の袖を半分脱ぎながらズボンをずり上げ、ぐちゃぐちゃになっていた。


どうしたの、だか大丈夫、だか声をかけようと息を飲んだ瞬間、新しいアルバイトの女の子はこちらを振り向き、そのままダダダと目の前まで近づき、息がかかりそうな程に近くで、


「Aの彼女さんは見えなかったんですか! アレが見てなかったんですか! 」


と叫ぶように言ってきた。

その顔は、目は焦点が全く合っておらず、口の端には泡がたまっていた。


「見えていなかったんですね! アレにあんなに覗きこまれていたのに!」


「え?」


「ここのバイト無理です! 辞めます!あとは宜しくお願いお願いします。 さようなら!」


ほとんどを叫ぶように話、新しいアルバイトの女の子はガタガタといろんなものにぶつかりながら、勝手口から飛び出して行った。

ふと下を見ると、店で履く靴が一足落ちていたそうだ。





「うーん。なんだか分からないまま終わったな」


と、僕はその話が少し物足りなく感じ、詰まらなそうに言った。


Aはごそごそと携帯を取り出し、


「あの後、新しいアルバイトのから彼女にメールが来てたんだが……」


僕は見せられたメールを見て、総毛立った。



『先日はすいませんでした。連絡をしようが迷ったのですが伝える事にしました。


私が仕事を辞めた日、変な女性が居ると言っていたと思います。

その女性はゆっくりとこちらに向かってきて、Aの彼女さんに息がかかりそうな程近づき、ニヤリと笑いながら

『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……』と繰り返していました。


その女の目は焦点が全く合っておらず、口の端には泡がたまっていました。


何もないと良いのですが』



Aにその後はどうなったのか、と聞いても


「よくわかんねーんだよなー」


と消化不良になる様な返事ばかりよこしやがるので、今日はAよりも先に帰ることにした。


「じゃあな」と言うとAはこちらも見ずに「うーす」軽く左手を上げただけだった。


相変わらずAはのらりくらりとしているな、と思いながら居酒屋を後にした。

いや、あれ? 相変わらず?

いつからアイツはあんなヤツだっただろうか。

そもそもアイツは、いつ、どこで、どんな風に仲良くしていたんだっただろうか。


……とりあえず今日は酒もはいっているし、明日考えるか。



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