晴れてギルメン
この世界には数多くの国と、そこに暮らす人々がいる。が、大国と呼べる国は全ての国中たったの4つのみ。
冒険者ギルドに多大な力を持つトトルア王国。
王国騎士団、及び教会の聖女により攻守共に充実しているクロノ王国。
世界中でもトップクラスの教育機関を持つ知のケイネック王国。
大陸中の生活を支えているとさえ言われる商業ギルドが存在するオルケン王国。
どれもこれもが欠けてはならない。1つがなくなればたちまち大陸は呼吸を停止する。
そんな4つの大国を支えているのは僅か数人の人外たち。通称大賢者。この4つの大国が他の小国とかけ離れている理由はひとえに彼等の存在故である。
「エリアナ。アンタ、またトトルア王国に行ってたでしょ」
「それが何か」
室内に響く2人の女性の声。一方は青髪単発の気の強そうな少女。もう一方は銀髪、肩下まで伸ばした長髪の落ち着いた雰囲気を持つ女性。どちらも整った顔立ちという共通点はあるものの、身長差がかなりあり、青髪のほうが見上げる形で話しかけている。
「何かじゃないわよ!もうちょっと大賢者としての自覚を持ちなさい!私達大賢者は国家間を移動するだけでも様々な問題が付きまとうんだから!」
「ですが、今回ケイネック王国には迷惑をかけていません」
「バレないようにトトルアに行ったからでしょ!」
「……それに私の休日を私がどう過ごそうとナナリーには関係ありません」
「やっぱりバレないようにトトルアに行ったのね。大方ノヴァに会いに行ったんでしょ」
「……師匠の名前を呼び捨てとは感心しませんね」
「ほら、やっぱりノヴァに会いに行ったんじゃない。さっきから図星を突かれた時分かり易すぎるわよ、アンタ。ほんとノヴァが絡むと一気にポンコツになるんだから。」
「………む。とりあえず私の休日にいちいち口出ししてこないでください。」
エリアナと呼ばれた女性はナナリーに背を向け退室しようとする。
「待ちなさい!とにかく、あんま無闇矢鱈にトトルアに行くんじゃないわよ!」
「……どうでしょう?その日になってみないとわからない気分というのもあるので」
それだけ言うと今度こそエリアナは退室した。残されたナナリーは1人肩を震わす。
そして、
「んああああ!!!どうしてサウラニア学園の学園長のアイツがあんなに休暇取れるのに、大学教授のアタシは全然休暇取れないのよおお!!」
駄々っ子のように地団駄を踏むナナリー。
「アタシもノヴァに会いたいー!お師匠に会いたいーー!!」
なおこの駄々は室内にしばらくの間響き渡った。
「ああ、ノヴァさん。ちょっと」
そういってギルドの受付を通りかかったノヴァに手招きをするニアル。先日ノヴァが試験を受けたギルドの受付嬢である。
「ああ、キラリとかいう」
「ニアルです。」
「………ああ、ニアルとかいう」
「やり直してももう遅いですけどね。試験合格したらしいですね。あのダリックさん相手にすごいです。まあ決着については賛否両論あるみたいなんですが。」
「どぅーも」
「それで、正式にギルドのメンバーになるということで冒険者カードを発行致します。」
「やっとかー。ここまで長かった」
「いやまあ昨日の今日なんですけど…。と、こちらがノヴァさんの冒険者カードですね」
そういってニアルが机に曇った銅色のカードを置く。
「………きったね。」
「汚くないわ!!!……いえ、汚くないですよ。しかしまあ、すこし色が地味なのは否定しませんが、そこはEランクなので我慢してください。」
「E?」
「本当はもっと高くていいと俺は思うんだがなあ」
と、新たにノヴァの背後から野太い声がかかる。
「あ、パニックとかいう」
「ダリックな?」
「……ダリックとかいう」
「やり直してももうおせーよ。」
「ああ、ダリックさん。昨日の怪我はもういいんですか?黒焦げって聞いたんですけど」
「よ、ニアルちゃん。ああなんつーか、黒焦げは黒焦げでも、ギャグ寄りの黒焦げだったからなんとか助かったぜ」
「ギャ、ギャグ寄り?」
「まあそんなことはいい。」
と、今度はノヴァに視線を移す。
「昨日ぶりだな、ノヴァ。名前はサリーから聞いたぜ」
「サリー?」
「ああ、チビで黒髪、女のくせに一人称僕の変なやつだ。見れば1発でわかるよ」
「ああ、昨日観戦してた集団にいたのか」
「そういうことだ。んで、そいつらと俺の総意として、普通に考えてお前のランクはC、いや、昨日魔法を使わないであれだけ戦えたんだ。魔法がアレにプラスされればBランクにも届きうるという意見だ。」
「いや、魔法ならちゃんと使ったし」
「ん?ああ、そういや雨と雷はお前の魔法なんだっけか?やっぱりおもしれえこと言うなお前。それで、確かにお前のランクはEより明らかに高いんだが、規則上どうしてもスタートはEランクなんだ。だから、早く上がってこい。俺もアイツらも、それを望んでいる」
「ああいや、それはいいんだけども。俺の役職ってどうなったわけ?」
「ああそれなら」
そう言ってニアルは冒険者カードの右下を指差す。そこにははっきりと"賢者"の2文字が書いてあった。
「Eランクの賢者なんて聞いたことないですよ。本来ランクと役職は比例するもんなんです。ですがAランクの方々が『賢者でもいいんじゃない?』とか悪ノリするから」
「拳闘士なんて意見もあったがな。まあ魔法を放たずあんな動き見せりゃそれも理解できるがな。アリシャが文句言ってたって話だ。『こんなのはウチの知ってる賢者じゃないー』ってな」
「ああそれと、最後に2つだけ。1つは冒険者カードの上を見てください。そこにウチのギルド名が書いてありますね?」
言われてノヴァは冒険者カードを凝視する。
「……どれ?」
「…これは流石に呆れました。うちのギルド名わからず試験やらなんやら受けてたんですか?"タイラントギア"ですよ!!しっかり書いてあるでしょ」
「いやまあ、確かにそれなら書いてあるけども……。これがギルド名…?」
「な、なんですか」
「……ダサいな」
「んなっ!!これはこのギルドを創設した大賢者様本人が考えたんですよ!」
「……でも、それ関係なしにダサいのには変わりないじゃん」
「……ダ、ダリックさんからも言ってやってください」
「………いやまあ……うん…」
ニアルに言われたダリックだったが、気まずそうに目をそらす。
「………だよね」
「「「………」」」
3人揃っての沈黙。流石にいたたまれなくなったのかノヴァが口を開く。
「そんで、このギルド名がどうしたのよ」
「あ、そうでした。うちのギルドは先ほども言いましたがトップクラスの有名ギルドなんですよ。あらゆる場面でそのカードに書いてあるギルド名は役に立つはずです。困った時はそれを見せてみてください。割と融通が効くはずです。」
それともう一つと言ってニアルが続ける。
「晴れてノヴァさんは冒険者になったわけですが、安全面から原則的にクエストは自分のランク以下のものしか受けちゃダメですよ」
「クエストにもランクあるんだね」
「そりゃそうです。提示されてるクエストにはちゃんとランクが記載されてるので、自分より上のランクの物は受注しないようにお願いします。まあこちらも細心の注意を払いますが」
「おっけ。とりあえずこれで説明は一通り終わり?」
「そうなります。お疲れ様でした」
「んー」
ニアルが頭を下げると同時にノヴァは踵を返してギルドの出口へ向かう。
「あ、今日はクエスト受けないんですか?」
「うんまあ、だるいしいいや」
そして一度も振り返らずにギルドを後にした。
「……はあ、大丈夫でしょうか、ノヴァさん。説明ちゃんと伝わってるといいんですけど」
「心配すんな。抜けてるように見えるが馬鹿じゃねえ。伝わってるさ」
「だといいんですが。」
笑って言うダリックに対してニアルは終始不安そうな顔をしていた。
その頃、当の本人は
「よし、とりあえずこれでクエスト受けられる。いっちょ知名度上げのためにグラゲルニアデニエルグランナーガでも倒しに行くか」
全く説明を聞いていなかった。