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そんなことより雨が強い。

とりあえず今日はここまで連投します

「試験って、具体的には何やんの?」


ギルド内の廊下を歩きながら、青年はダリックに質問を投げかける。


「このギルドは裏に闘技場が設備されている。そこで簡易的な試合を俺としてもらう」


「試合?ルールとかは?」


「お互い得意とする武器を使って打ち合う。まあどっちかが降参するまで続けるってのが正式なルールなんだが、基本的には試験管が力を把握した時点で終了だ。直後に合否を伝えるって感じだな」


「へー。闘技場ってのの規模は?」


「まあ見ればわかると思うがかなり広い。それと観客席なんかもあるぞ。魔法使い系統が試験を受ける時はお互い20メートルほど離れて開始する。魔法使い相手にいきなり近接スタートは酷だからな」


「闘技場って屋根あんの?」


「屋根はねーな。まあギルドに所属する奴のほとんどが雨風なんか気にせず鍛錬するようなタイプだから、あんまり屋根の有無は気にされないな」


「あー、屋根ないのか」


「何か困ることでもあるのか?」


「いんや、逆」


「???まあいい。話は終いだ。ついたぞ」


ダリックが話をやめる。見ると、目の前には重厚な門があった。


「ここが闘技場の入り口だ。」


そう言って両開きの門に手を置き、地面を踏みしめながら力を込める。

ゴゴゴといいながら開く門。そして奥の景色があらわになる。


「ヒッッッロ」


「だろ?」


闘技場を見た瞬間青年からそんな声が漏れる。明らかに2人で使うには広すぎる大きさだ。観客席には興味本位で試合を見に来たギルドメンバーがちらほらおり、試合開始を待っている。


「んじゃ、開始するわけだが…………ん?」


ダリックが何かを言おうとし、頰に当たった冷たい感触に言葉を中断する。


「雨か……。」


空を見上げると先程までは快晴と呼べるまで晴れていた空模様が分厚い雨雲に覆われていた。これから試合だと言うのにいきなりの雨。ダリックは少し目の前の青年が気の毒に感じる。


「なんだかついてないなお前」


「いやついてないも何も、これ俺の魔法なんで気にしなくていいよ」


「なんだそりゃ」


いたって平然と答えた青年にダリックは笑って答える。新人殺しなどと呼ばれていて誤解されがちだが、ダリック自身はきさくで接しやすい人柄なのだ。


「んじゃあまあ始めるか。お前武器は?」


「いらない。賢者だし。」


「ほお、媒体無しか。ハッタリでないのだとしたら大したもんだな。まあいい。んじゃあ俺は片手斧を選ぶぜ。安心しろ、流石に刃はついてねーからな。」


2人が会話している最中も雨は強くなっていき、とうとう土砂降りになり始めた。


「うおー、かなり雨強えな。ま、いっか。観客の奴らもそろそろイライラして来た頃だと思うし、始めるか。」


「あ、最後に。その金属の鎧は脱がないの?」


「ああこれか。脱いだ方がいいか?個人的にはこっちの方が動きが制限されていいと思うんだが」


「いや、脱がない方がいい」


「おう。んじゃあ今度こそ始めるぞ」



ダリックのその声で2人は20メートル離れる。そして、離れた先でダリックは斧を構え、青年は棒立ちとなった。


「それじゃあ、開始の合図は僕がするね」


観戦していたギルドメンバーのうち、1人が手を挙げてそう言う。


雨がさらに強くなり、誰も一言も発さない状態で、その声はやけによく響いた。


「それでは、試験開始!」


瞬間、ダリックが地面を蹴る。ダンッという音と共に周辺の水が爆ぜる。

ひと蹴りで20メートルという距離を瞬時に縮め、青年の目の前で斧を振り上げる。

常人、ましてや冒険者ですらないものが今の動きを見きれるわけがない。

これが、ダリックが新人殺しと言われる所以。新人相手には明らかにオーバーした力を振るう。

幾人もの新人がダリックに挑み、最初のこの一撃で沈んで来た。


が、


「ほう、これをかわすか」


その一撃を青年は半身を捻ることにより容易くかわした。

見ていた観客にも少なからず動揺が走る。


「ほえー、ダリックの初撃躱したやつひっさしぶりに見たな」


「僕が試験管の資格持ってたらこの時点で合格にするけど」


「魔法使い相手に一瞬で距離詰めて攻撃とか、相変わらずダリックは受からす気ないな」


「ダリックの厳しさは優しさの裏返しさ。下手に実力のない奴が受かれば、その分死ぬ危険性が上がる。ましてや、うちのギルドは生半可じゃ通用しない」


「そんなことより雨強すぎてはよ帰りたい」


降り止まない雨の中、なおも攻防は続く。

ダリックがフリッ切った斧を逆手に持ち替え、今度は振り上げる。

が、これも回避。

バックステップを踏む青年を逃さぬようにさらに速いスピードで距離を詰める。


「悪いが、実戦でモンスターは待っちゃくれねえ。詠唱の暇は与えねーぜ」


「うんまあ、いらないんだけども」


「ほう?」


ダリックが口元をニヤリと曲げ、攻撃の速度を上げる。なおもかわす青年。


「………あの子さ…、自称賢者じゃなかった?」


「…うんまあ、言ってた気がしなくもない気がする…。」


「ダリックの攻撃全部かわしてんだけど。アリシャ、賢者目線から言って、あれって普通なの?」


「んなわけ。あれが賢者ならウチは転職する」


「だが、そう長くは続きそうにないぞ。見ろ」


「雨がつっよい!」


いつまでも続くかと思われたその攻防だが、ようやく終わりの時を迎える。


「うわっと」


土砂降りによりぬかるんだ土壌が、青年の足を取る。

少し体勢を崩しただけ。しかしそれは現時点で決定的な隙となり得た。


「お前の降らせた雨でお前が隙を作ってちゃ世話ねーな」


笑ってダリックは手斧を上段で構える。


「終いだ」


振り下ろした斧が青年に直撃、善戦はしたものの結局はダリックの勝利。ダリックを含め、見ていた全員がそう思った。


が。


バチッ


ダリックは斧を振り下ろす直前、そんな音を聞いた。直後


ビギャンッッ!!!!!


爆音とともに空から一筋の光がダリックへと走った。視認することも困難なほどの速度。

通常それは、天災、または神の怒りとして知られる。

ー落雷ー

光が消え、ようやく闘技場を再び視認できるようになった時、そこに立っていたのはダリックではなかった。


「少しカッコつけすぎた感は否めない。初めて使ってみたけど、これ屋内じゃ使いにくいな。」


黒焦げで倒れるダリックの前で何やら独り言を言う青年。この瞬間、観戦客は気づいた。ダリックが斧を振り下ろす瞬間、落雷がダリックに向かって降ったということに。

まさに奇跡。まさに豪運。

あまりのできごとに見ていた全員が停止する。

が、それも束の間、慌てて審判を務めた少女が手を振り上げる。


「な、なんか、この勝負青年の勝ち……らしい?」


おずおずと他のメンバーを見る。


「つーことは、青年の合格?」


「いや知らんがな」


「勝ったんだし合格でいいでしょ」


「いやでもこれ勝ちって言えるん?」


「運も実力のうちって言うし…」


「ま、まあ、試験の合否はダリックが決めることだし……てかダリックあれ生きてんのか?」


あまりのことに動揺していた観戦者たちがダリックの安否を心配し始める。それに答えたのは意外にも青年だった。


「まあ、かなり手加減したし大丈夫だとは…思わなくもない。あとほら、鎧着といてくれたおかげで雷撃も拡散してるだろうし。」


青年の物言いにまたもや全員ポカンとする。

が、


「あはははは!て、手加減て!」


「いくらなんでも図太すぎるだろ!」


「雷を降らせたってか?そりゃ大したもんだ!」


「すげえ豪運!神に愛されてんのかってくらい!」


「そしてその豪胆ぶり。うちあんた気に入ったわ!あんた名は?」


もはや雨は降っておらず、空を覆っていた雨雲は薄くなる。そしてその隙間からさした一筋の光が青年を照らす。


「ノヴァ=グロッツェ」


雨に濡れた故か、光に反射して輝く紫の髪。

青い瞳。青年の顔が明瞭にあらわになった。

まるでこの闘技場全体が彼の舞台であるかのような演出。


「ひゅーう」


「なんかかっけーじゃん」


「マジで神に祝福されてたりしてな」


それに対して観客達はまばらな拍手で応えた。それは同時に彼が認められた瞬間でもあった。





ちなみに、ダリックの攻撃をかわし続けた故か、十分に戦える力はあるとしてギルドには受かった。


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